2014年11月25日(1768号) ピックアップニュース
燭心
鍋料理の恋しい季節がやってきた。寒さとともに海の幸、山の幸も滋味を増してくる。日本海ならカニ、瀬戸内の鮮魚、丹波の牡丹とそれぞれのお国自慢が始まる。診察を早く切り上げて帰りたくなる。鍋にはやっぱり地酒。委細は鍋奉行に任せて、さっそくちびちびやりますか▼いい気分になったところで、ん?湯気の向こうで何やらひそひそ声が。年貢をさらに引き上げる相談らしい。「分かっておるが大きな声で言うな。今年上げたばかりじゃ」藩主の声か。百姓町人の怨嗟を知ってか知らずか「経済は着実に回復しております」という奉行もいる▼なるほど異次元の藩札乱発で、大商人の懐は相当暖まっているらしいが、ここから金を取る算段は全く念頭にないようだ。冥加金をさらにまけてやる話までしている。自粛していた献金も大っぴらに再開、不正が発覚した重臣は先日腹を切らされたばかりだ。「財福屋、お主も悪よのう」「かたじけのうござります」姿は見えねど声が聞こえる▼鍋がアクだらけになっている。「このアク代官め!」と叫んだところで正気に戻る。目の前にはできたての鍋、一炊の夢か。その昔、悪政に対抗するため、人々は命がけで連判状に名を連ねた。現在の署名運動のルーツである。国民の暮らしと健康がかかる今秋の署名運動、先人たちの苦労を思うと、うたかたで終わらせるわけにはいかぬ。鍋をつつきながら、一人でも多くの人に名を連ねていただける知恵を出し合いたい(星)