2015年2月05日(1773号) ピックアップニュース
政策解説 ストップ 患者負担増(5)
後期高齢者医療制度の保険料軽減措置を廃止
政府が進めようとしている患者負担増計画のうち「後期高齢者医療制度の保険料軽減措置の廃止」を取り上げる。
政府の社会保障制度改革推進本部が発表した「医療保険制度改革骨子(案)」では、「後期高齢者の保険料軽減特例(予算措置)については、段階的に縮小する」とされた。
現在、実施されている軽減措置には、「低所得者の軽減」と「元被扶養者の軽減」がある。
「低所得者の軽減」とは、妻の年金収入が80万円以下の夫婦世帯における夫の年金収入が168万円以下の場合、本則では保険料の「均等割」部分は7割軽減とされているが、それを80万円以下の場合は9割軽減に、それより収入が多い場合でも8.5割軽減にするというものである。また、年金収入が153万円以上の場合は、保険料に「均等割」部分だけでなく、所得に応じた「所得割」部分があるが、211万円以下の場合は本則の5割に軽減されている(図1)。
「元被扶養者の軽減」とは、後期高齢者医療制度加入前の保険で被扶養者だった者について、当初は、75歳となり制度加入してから2年間、「均等割」部分を5割軽減するとしていたものを、9割軽減とし、さらに2年間の期限を延期してきたものである。「所得割」部分についても、賦課を行わないとしてきた(図2)。
政府がこうした軽減措置を実施することとなったのは、後期高齢者医療制度そのものへ国民から強い批判が起こったためである。
同制度は06年に当時の小泉内閣下で関連法が制定され、08年から実際の運用が行われた。運用が開始され、年金から保険料の天引きが実施されると、多くの国民から「うば捨て山」などとの批判が巻き起こり、民主党をはじめとする当時の野党も制度反対のキャンペーンを行った。これは、自公政権への国民の支持を失わせ、民主党政権誕生のきっかけの一つとなった。
そうした政治情勢の中で、自公政権が何とか国民の批判をかわそうと設けたのが、この軽減措置である。
しかし、同制度の保険料は2年ごとの見直しのたびに引き上げられている。制度発足時に平均5283円だった月額保険料は2014年には5668円と7.3%も引き上げられ、保険料の滞納者数は約25万人、短期保険証の交付数も2万3千に上っている。
こうした状況のなか、今回の軽減措置廃止は、現在、制度に加入する人の半数以上、約865万人に負担増をもたらす。しかも、その多くは低所得者である。これほど多くの高齢者の保険料負担が増えれば、さらに滞納者が増え、医療を必要とすることの多い高齢者が正規の保険証を持たず、必要な医療を受けられないという事態が起こりかねない。
保険料は、国保の場合、「国保税」としている自治体もあるように、税に準じたものであることは疑いがない。だとすれば、保険料の「均等割」は、能力に応じて負担すべきという、憲法で保障された税の応能負担原則を蔑ろにするものである。同様に、年金収入が80万円以下などという低所得者にも保険料を賦課するのは、生活費非課税原則に反する。
政府は、今回の軽減措置廃止による国費の削減額は800億円だとしている。この額は政府が今年行うとしている法人税減税の額1.14兆円の7%でしかない。
空前の利益を上げる大企業の税負担を減らして、生活に汲々とする高齢者の保険料を引き上げるという政策は間違っている。政府は高齢者医療への国費投入を抜本的に増やして、高齢者が安心して医療にかかれるようにすべきである。
図1 低所得者の軽減(691万人)
図2 元被扶養者の軽減(174万人)
国民的批判により実施された軽減
政府は、今国会で、現在実施されている後期高齢者医療制度の保険料軽減措置を廃止しようとしている。政府の社会保障制度改革推進本部が発表した「医療保険制度改革骨子(案)」では、「後期高齢者の保険料軽減特例(予算措置)については、段階的に縮小する」とされた。
現在、実施されている軽減措置には、「低所得者の軽減」と「元被扶養者の軽減」がある。
「低所得者の軽減」とは、妻の年金収入が80万円以下の夫婦世帯における夫の年金収入が168万円以下の場合、本則では保険料の「均等割」部分は7割軽減とされているが、それを80万円以下の場合は9割軽減に、それより収入が多い場合でも8.5割軽減にするというものである。また、年金収入が153万円以上の場合は、保険料に「均等割」部分だけでなく、所得に応じた「所得割」部分があるが、211万円以下の場合は本則の5割に軽減されている(図1)。
「元被扶養者の軽減」とは、後期高齢者医療制度加入前の保険で被扶養者だった者について、当初は、75歳となり制度加入してから2年間、「均等割」部分を5割軽減するとしていたものを、9割軽減とし、さらに2年間の期限を延期してきたものである。「所得割」部分についても、賦課を行わないとしてきた(図2)。
政府がこうした軽減措置を実施することとなったのは、後期高齢者医療制度そのものへ国民から強い批判が起こったためである。
同制度は06年に当時の小泉内閣下で関連法が制定され、08年から実際の運用が行われた。運用が開始され、年金から保険料の天引きが実施されると、多くの国民から「うば捨て山」などとの批判が巻き起こり、民主党をはじめとする当時の野党も制度反対のキャンペーンを行った。これは、自公政権への国民の支持を失わせ、民主党政権誕生のきっかけの一つとなった。
そうした政治情勢の中で、自公政権が何とか国民の批判をかわそうと設けたのが、この軽減措置である。
医療受けられない高齢者が増える
政府は軽減措置廃止について「特例として実施してから7年が経過する中で、後期高齢者医療制度に加入する前に被用者保険の被扶養者であった者は所得水準にかかわらず軽減特例の対象となるほか、国保での軽減割合は最大7割となっていることなど不公平をもたらしており、 見直しが求められている」と、「不公平」を理由としている。しかし、同制度の保険料は2年ごとの見直しのたびに引き上げられている。制度発足時に平均5283円だった月額保険料は2014年には5668円と7.3%も引き上げられ、保険料の滞納者数は約25万人、短期保険証の交付数も2万3千に上っている。
こうした状況のなか、今回の軽減措置廃止は、現在、制度に加入する人の半数以上、約865万人に負担増をもたらす。しかも、その多くは低所得者である。これほど多くの高齢者の保険料負担が増えれば、さらに滞納者が増え、医療を必要とすることの多い高齢者が正規の保険証を持たず、必要な医療を受けられないという事態が起こりかねない。
「応益負担」の保険料徴収は問題
そもそも、政府は国保と比較して、後期高齢者医療制度の軽減措置を「不公平」としているが、国保や後期高齢者医療制度において、「均等割(応益分)」と称して、最低限の生活費もままならない低所得者から保険料を徴収すること自体が間違っている。保険料は、国保の場合、「国保税」としている自治体もあるように、税に準じたものであることは疑いがない。だとすれば、保険料の「均等割」は、能力に応じて負担すべきという、憲法で保障された税の応能負担原則を蔑ろにするものである。同様に、年金収入が80万円以下などという低所得者にも保険料を賦課するのは、生活費非課税原則に反する。
政府は、今回の軽減措置廃止による国費の削減額は800億円だとしている。この額は政府が今年行うとしている法人税減税の額1.14兆円の7%でしかない。
空前の利益を上げる大企業の税負担を減らして、生活に汲々とする高齢者の保険料を引き上げるという政策は間違っている。政府は高齢者医療への国費投入を抜本的に増やして、高齢者が安心して医療にかかれるようにすべきである。
図1 低所得者の軽減(691万人)
図2 元被扶養者の軽減(174万人)