2015年2月25日(1775号) ピックアップニュース
政策解説 ストップ 患者負担増(7)
混合診療全面解禁に道を開く「患者申出療養」(下)
(前号からのつづき)
一つ目は、必ずしも将来的な保険収載を前提としないということである。評価療養は安全性と有効性が確認された先進医療について、保険収載の前段階として一時的に保険外併用を認める制度である。これに対し、厚労省は患者申出療養について「保険収載に向け、治験などに進むため...」としていたが、昨年11月に中医協総会で了承された「患者申出療養(仮称)の枠組みについて」では、その点について一切触れられていない。これでは、安全性と有効性が認められた治療や医薬品は保険収載するという国民皆保険制度の原則を揺るがすことになりかねない。
二つ目は、実施医療機関が大幅に拡大するという点である。これまでの評価療養の実施医療機関は眼科領域を除けば、それぞれ多くても50機関程度であるが、患者申出療養では、全国に15ある臨床研究中核病院と80以上の特定機能病院の他、そうした病院が認めた一般の協力医療機関でも実施することができる。つまり患者は基本的にはどこの医療機関であっても申し出を行えば、その医療機関が特定機能病院と協力すれば、保険外併用療養を受けられることになる。
三つ目は、これまでと比較して、実施までの審査期間が非常に短く設定されていることである。前例がない治療については国が6週間で、前例がある治療については国ではなく臨床研究中核病院が2週間で審査を行うとされている。これは現在の評価療養の審査と比較して非常に短い。これで対象となる治療や医薬品の安全性や有効性が十分に審査されるのかについては強い疑問が生じる。
規制改革会議で、ある委員は「(患者申出療養は)評価療養のエビデンスと...全然違う。必ずしもそれ(評価療養ほどのエビデンス)を要求しているわけではない」としており、安全性や有効性が評価療養ほど高くない治療や医薬品も、保険診療との併用を認めるとしている。
第1に、厳格な臨床試験を経たものが、保険収載され、患者に提供されるという公的保険制度の安全性・有効性を担保する仕組みを崩壊させ、科学的根拠の乏しい医療や到底医療とはいえない民間療法が行われる可能性が高いことである。
第2に、自費診療部分の費用を負担できる一部の患者しか制度を利用できない点である。つまり、金銭的な「格差医療」の容認である。確かに保険適用部分の患者負担は少なくなるが、軽減されるのはわずかでしかない。一方、抗がん剤の適応外使用などでは、混合診療を認めたとしても月に数百万円以上かかるという例は少なくない。
第3は、混合診療を利用できる一部の富裕層のために、公的医療保険の財源が使われるという点である。公的医療保険の財源は、低所得者層からも集めた税金や保険料で賄われている。混合診療を受ける患者の保険診療部分にこの財源利用を認めれば、富裕層の負担軽減のために、制度を利用できない低所得者が払った税・保険料が使われるという不公平が起こる。
しかし、これは事実とは大きくかけ離れている。最先端のがん治療を担う医師らも「海外にあって(も、日本では使えず)本当に困るという物はすごく少ない(藤原康弘・国立がん研究センター執行役員)」、「TS−1などはむしろアメリカで使えなくて日本で使える...むしろかわいそうなのは、胃がんについては米国のほう(山口俊晴・がん研究会有明病院副院長)」と述べている。
そもそも、日本難病・疾病団体協議会の伊藤たてお代表理事が言うように「安全性と有効性が認められた先進医療については、...速やかに保険を適用すれば良い」のである。
政府は、混合診療の全面解禁ではなく、医療費を増やし、保険診療範囲の拡大こそ行うべきである。
(おわり)
「評価療養」を大幅に緩和
日本医師会など一部には、政府の言うとおり、評価療養の延長として今回の患者申出療養を捉える向きもある。しかし三つの点で、評価療養の枠組みを大幅に広げる、極めて危険な制度である。一つ目は、必ずしも将来的な保険収載を前提としないということである。評価療養は安全性と有効性が確認された先進医療について、保険収載の前段階として一時的に保険外併用を認める制度である。これに対し、厚労省は患者申出療養について「保険収載に向け、治験などに進むため...」としていたが、昨年11月に中医協総会で了承された「患者申出療養(仮称)の枠組みについて」では、その点について一切触れられていない。これでは、安全性と有効性が認められた治療や医薬品は保険収載するという国民皆保険制度の原則を揺るがすことになりかねない。
二つ目は、実施医療機関が大幅に拡大するという点である。これまでの評価療養の実施医療機関は眼科領域を除けば、それぞれ多くても50機関程度であるが、患者申出療養では、全国に15ある臨床研究中核病院と80以上の特定機能病院の他、そうした病院が認めた一般の協力医療機関でも実施することができる。つまり患者は基本的にはどこの医療機関であっても申し出を行えば、その医療機関が特定機能病院と協力すれば、保険外併用療養を受けられることになる。
三つ目は、これまでと比較して、実施までの審査期間が非常に短く設定されていることである。前例がない治療については国が6週間で、前例がある治療については国ではなく臨床研究中核病院が2週間で審査を行うとされている。これは現在の評価療養の審査と比較して非常に短い。これで対象となる治療や医薬品の安全性や有効性が十分に審査されるのかについては強い疑問が生じる。
規制改革会議で、ある委員は「(患者申出療養は)評価療養のエビデンスと...全然違う。必ずしもそれ(評価療養ほどのエビデンス)を要求しているわけではない」としており、安全性や有効性が評価療養ほど高くない治療や医薬品も、保険診療との併用を認めるとしている。
混合診療の問題点
以上のように、患者申出療養の創設はこれまでの評価療養の枠組みを大幅に拡大し、混合診療の全面解禁に道を開く危険性をはらんでいる。混合診療の全面解禁には三つの問題点がある。第1に、厳格な臨床試験を経たものが、保険収載され、患者に提供されるという公的保険制度の安全性・有効性を担保する仕組みを崩壊させ、科学的根拠の乏しい医療や到底医療とはいえない民間療法が行われる可能性が高いことである。
第2に、自費診療部分の費用を負担できる一部の患者しか制度を利用できない点である。つまり、金銭的な「格差医療」の容認である。確かに保険適用部分の患者負担は少なくなるが、軽減されるのはわずかでしかない。一方、抗がん剤の適応外使用などでは、混合診療を認めたとしても月に数百万円以上かかるという例は少なくない。
第3は、混合診療を利用できる一部の富裕層のために、公的医療保険の財源が使われるという点である。公的医療保険の財源は、低所得者層からも集めた税金や保険料で賄われている。混合診療を受ける患者の保険診療部分にこの財源利用を認めれば、富裕層の負担軽減のために、制度を利用できない低所得者が払った税・保険料が使われるという不公平が起こる。
安全性と有効性認めれば速やかに保険収載を
規制改革会議は、この制度の必要性について「困難な病気と闘う患者が治療の選択肢を拡大できるようにする」ためとしている。同会議の岡素之氏も「保険外の診療で治る可能性があるのに、負担が高額になるため諦めざるを得ない人たちがいる」などと、あたかも有効な医薬品などがあっても、負担が高く使えない現状があるかのように描いている。しかし、これは事実とは大きくかけ離れている。最先端のがん治療を担う医師らも「海外にあって(も、日本では使えず)本当に困るという物はすごく少ない(藤原康弘・国立がん研究センター執行役員)」、「TS−1などはむしろアメリカで使えなくて日本で使える...むしろかわいそうなのは、胃がんについては米国のほう(山口俊晴・がん研究会有明病院副院長)」と述べている。
そもそも、日本難病・疾病団体協議会の伊藤たてお代表理事が言うように「安全性と有効性が認められた先進医療については、...速やかに保険を適用すれば良い」のである。
狙いは、公的保険給付範囲の縮小
「患者申出療養(仮称)」の創設が成長戦略に盛り込まれていることから明らかなように、規制改革会議や財界の狙いは、公的保険給付の範囲を縮小させ、その分を自由診療に移し替えて市場を拡大し、儲けの対象にすることである。また政府の狙いは、混合診療の解禁で、保険給付の範囲を縮小させ公的医療費を削減することにある。政府は、混合診療の全面解禁ではなく、医療費を増やし、保険診療範囲の拡大こそ行うべきである。
(おわり)