兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2015年5月25日(1783号) ピックアップニュース

兵庫県医師会長 川島龍一先生 インタビュー
阪神・淡路大震災 被災地の医師だからこそできること

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川島 龍一 兵庫県医師会会長

 阪神・淡路大震災から20年、東日本大震災から4年を経た今年。南海トラフ巨大地震に備える兵庫県医師会の取り組みについて、川島龍一会長に、池内春樹理事長と加藤擁一・西山裕康両副理事長が伺った。

東日本大震災被災地の現状
 池内 東日本大震災の際、医師会としてはどのような支援を行ったのでしょうか。また、被災地の現状はいかがですか。
 川島 兵庫県医師会は震災から1週間後の3月18日から同年6月19日まで、先遣チームとJMAT(日本医師会災害医療チーム)44チームを石巻市に派遣して医療支援を行いました。現在は年に1回は現地を訪問し、仮設住宅にいる患者さんをフォローしています。中には、自暴自棄になっておられる方やアルコールに依存してしまう方もいます。震災から4年もたって、いまだに仮設住宅などにいる避難者が24万人も存在するというのは問題です。また、石巻市は何度も訪問していますが、がれきを片づけただけの状態です。土地のかさ上げなどを行っているのでしょうが、復興は進んでいないというのが実感です。現地の医師の間でも、自院を再建できないという話をよく聞きます。
原発事故への対策
 加藤 東日本大震災では、福島第一原発事故が起こってしまいました。
 川島 兵庫県も福井県にある原発が事故を起こせば、放射能被害に遭う可能性は否定できません。何より阪神地域の水がめである琵琶湖の水が汚染されれば、大変なことになります。日本の原発はどれも軽水炉型で、炉心を水で冷やす設計になっています。原子炉建屋が地震で倒壊する可能性は低いのですが、炉心を取り巻く冷却水の循環パイプが破損する可能性はあります。また、冷却水を循環させるためのポンプのモーターが、地震による電源喪失で作動しなければ、炉心を冷やすことができずにメルトダウンが起きてしまいます。
 西山 いまだに政府や電力会社は原発再稼働を進めようとしています。なんとか食い止めたいものです。
 川島 高浜原発の稼働差し止めの仮処分を認める司法判断は、画期的なものだと思います。ただ、再稼働を食い止めるだけでは、安心することはできません。稼働していなくても、使用済核燃料が保管されているのでこれから発生する崩壊熱を冷やし続けなければ同様のことが起こります。
 池内 やはりすべての原発を廃炉にすることが大切ですね。福井県の原発事故を想定した対策などは考えられていますか。
 川島 直接、原発事故を想定したものではありませんが、医療機関や避難所に井戸を掘るという取り組みを進めています。放射性セシウムは地中の粘土に含まれるKやCaとイオン交換され、粘土内に閉じ込められてしまいますので、地下水は放射能汚染を免れます。万一、セシウムなどの放射性物質が兵庫県まで飛散したとしても、水の安全性は一定程度確保されます。
 阪神・淡路大震災の時、電気は3日で復旧しましたが、水道は約1カ月半かかりました。何とか、地域の人たちに水を運んでもらって、診療を続けられましたが、大変苦労しました。それで震災後、すぐに私の診療所の敷地内に井戸を掘りました。これを各医療機関、各避難施設にも広げようと県に要請し、予算化しました。この予算で各郡市医師会館や各医療機関に井戸を整備する取り組みを行っています。県も避難所となる施設には順次、井戸を整備しています。
災害関連死を防ぐ福祉避難所船構想

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図 福祉避難所船のイメージ図

 池内 昨今は南海トラフ巨大地震のおそれが指摘されていますが、阪神・淡路大震災や東日本大震災から得られた教訓は十分に活かされているのでしょうか。
 川島 大規模災害時の医療提供体制でもっとも問題だと思っているのは、災害関連死です。大災害に遭遇し、せっかく一命をとりとめても、避難先で亡くなってしまう方が非常に多い。阪神・淡路大震災の時は約900人が、東日本大震災でも3000人以上の方々が災害関連死で亡くなったといわれています。一つには劣悪な避難所生活が原因だと考えられます。阪神・淡路大震災の際、避難所となった小学校では、冷暖房もなく、廊下に毛布一枚で寝なければならない状況でした。しかも、その方の持病や、介護の必要度などは全く考慮されませんでした。こうした問題は、20年近く経った東日本大震災でも抜本的には改善されませんでした。これでは、とても先進国とは呼べません。
 加藤 どのようにすべきでしょう。
 川島 今、県医師会として提案しているのは「福祉避難所船」です。この構想の発端は、阪神・淡路大震災の後、当時の神戸商船大学、今の神戸大学の海事科学部の井上欣三神戸大学名誉教授と共同で考えた災害時のクラッシュシンドローム対策です。大震災発生時には、神戸大学が持っている500トン級の練習船「深江丸」に水・食糧・医薬品・医療機器を積み込み被災した患者さんを収容して、透析をしながら環境の整った近隣の地や神戸の医療機関に搬送するという計画でした。災害関連死があまりに多いため、搬送という発想を転換し、船全体を避難所にして災害弱者と呼ばれる方々を収容すれば災害関連死を大幅に減らせます。今考えているのは1万5千トン級のフェリーを利用する計画です。この規模の船ならば、800人から1000人の災害弱者を収容することができますし、フェリーにはすでに生活に必要な環境が用意できています。水や電気もすぐに使えるのはもちろん、船の中には救護所を設置しJMAT等が医療・介護を提供しますし、車両を積載するスペースに歯科診療バスやモバイルファーマシーを乗せることもできます(図)。
 西山 すばらしい計画ですね。大きな船がすぐに到着できれば、被災された方も、安心できます。ただ、災害が起こったときにすぐに船を調達することができるのでしょうか。
 川島 フェリーの調達については日本旅客船協会と話をしています。確かに現在は経営効率の観点から、どこの会社も予備の船を持たなくなっているそうですが、大規模災害が発生すれば、いくつかの航路は運航停止となり、使われない船が出てきます。それを利用しようと考えています。
 加藤 なるほど。福祉避難所船にはどれくらいの費用がかかるのですか。
 川島 フェリーを借りる費用は1日500万円から1000万円かかります。ですから3カ月借りても4億5千万円から9億円で済みます。仮設住宅を1000人分、仮に500世帯分建設しようとすると一戸当たり350万円かかりますから17億5千万円必要となります。いかに福祉避難所船構想が低コストか分かります。
 池内 これなら、反対する人はいませんね。実際、計画はどこまで進んでいるのですか。
 川島 今、西村康稔副大臣を中心に内閣府でも議論が行われています。今年、3月30日に中央防災会議が発表した「南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画」では、470隻の船舶の利用計画が盛り込まれましたので、この構想が反映されたのではと思っています。とにかく、一度、運用してみて、政府関係者が実際に目にする機会をつくりたいと思っています。
 西山 港町神戸の医療者からの発信として、ぜひ計画を実現したいですね。協会もできるかぎり協力したいと思います。
兵庫県は徳島県の支援担当

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池内春樹理事長(左2人目)、加藤擁一(左端)・西山裕康(右端)両副理事長が県医師会館を訪問

 池内 南海トラフ巨大地震の際の支援活動について課題はありますか。
 川島 南海トラフ巨大地震が発生した際、関西広域連合の「応急対策活動計画」では、兵庫県は徳島県を支援することになっています。ただ、兵庫県内でも被害が発生するので、JMATを県内支援チームと徳島県支援チームに分ける必要があります。また、淡路島経由で徳島に入るのは難しいでしょう。ですから、実際に徳島県までの陸路や船舶の接岸、揚陸地点の確保も課題です。
 西山 早急な対策が求められますね。
 川島 私たちが生きているうちに必ず南海トラフ巨大地震は発生すると思っています。その時には、阪神・淡路大震災や東日本大震災の時のように「想定外」とは言ってはいけないと思います。だから、早急に福祉避難所船構想やJMATの体制整備、徳島県へのルート確保を具体化しなければなりません。これは、阪神・淡路大震災を経験し、さらに、そこから学んだノウハウを持って東日本大震災の救援に入った兵庫県の医療者だからこそ可能だし、やらなければならない社会的使命だと思います。
 保険医協会もそうだと思いますが、今の医師会活動など、医療者の社会的活動は阪神・淡路大震災が一つの原点になっていると思います。被災したとき、地域の方々がレントゲン写真現像用の水汲みを手伝ってくれて、それで診療を続けることができました。また、避難所では地域の方たちとおにぎりを分け合ったり、自衛隊が用意してくれた風呂にも一緒に入ったりしました。そうした経験から、地域の人と私たち医療者の敷居が非常に低くなって、私たちも本当に住民目線で地域の医療提供体制を考えることができるようになったと思います。大災害などの有事の際でも平時でも、常に医療は地域の方々から求められています。どんな時にも地域で公平で安全な医療を提供できるようにとの思いが、医師会活動を頑張れる理由です。私たちの活動の本道はここにあると思います。
 池内 はい。保険医協会の活動の原点も同じところにあると思います。ぜひ、患者さんが地域で安心して医療を受けられるように、今後も協力してきたいと思います。本日は、ありがとうございました。
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