2015年11月05日(1797号) ピックアップニュース
診療報酬プラス改定/消費税ゼロ税率
二つの院長署名に全会員のご協力を
来春の次期診療報酬改定に向け、厚労省は議論を本格化させています。政府は、6月に閣議決定された骨太方針などで、社会保障関係予算の伸びを5000億円まで抑制するとしており、この方針が実行されれば、診療報酬改定も非常に厳しい状況です。
こうした中、協会では国民医療を充実し、医療機関の経営を守るために、診療報酬プラス改定と患者負担軽減、消費税ゼロ税率を求める会員署名に取り組みます。
署名用紙は、本紙に同封するとともに、11月4日または6日に各会員あてファックス送信でお届けします。用紙に住所・医療機関名・氏名をご記入いただき(ゴム印でも可)、ファックスでご返信をお願いします。
集まった署名は、保団連が11月19日、12月3日に予定する中央要請行動で、厚生労働省や財務省など関係各機関、国会議員に提出する予定です。
しかし、財政赤字と医療費や社会保障費を結びつけて議論するのは誤りである。G7のうち、基礎的財政収支の赤字幅が日本より大きいのはアメリカだけで、その他の国々では日本より社会保障費の対GDP比は高いにもかかわらず、日本よりも財政状況はよい。
なぜ、日本の財政収支は悪いのか。それは各先進国に比べて富裕層の所得税や大企業の法人税、社会保険料負担が低く抑えられてきたためである。
この間、株高や円安により大企業の経常利益は過去最高となり、全企業の内部留保は354兆円と過去最高を記録した。こうした中、政府はさらに法人税を減税するとしている。大企業は政府による株の買い支えや円安誘導により利益を得た上、さらに税金まで下げてもらおうというのだ。
こうした状況下で、安倍首相は大企業に対し、賃金の引き上げを求めている。大企業に賃金の引き上げを求めるならば、政府自身が決めることのできる医療従事者の賃金の原資=診療報酬を引き上げるべきではないだろうか。
しかし、この振り替えは1972年の中医協建議で「診療報酬体系の適正化との関連において、当分の間は薬価基準の引下げによって生じる余裕を技術料を中心に上積みすることとしたいと考えている」と初めて提案され、厚生(労働)大臣や首相も公式にそれを尊重し、慣行として2012年の改定まで踏襲されてきた。97年には衆院厚労委員会で安倍晋三議員(当時)が、「薬価差の一部は、例えば病院の修理の方にも回っているわけでありますし、そういう観点から、薬価差を適正にすると同時に、診療報酬における技術料を適正に評価するべきだという声も強くある」と述べている。
つまり、診療報酬改定の際、薬価差を適正化するが、技術料を引き上げる必要があるので、薬価切り下げ分の財源を技術料の引き上げに使うということである。
このように薬価・材料の引き下げ財源の診療報酬本体への振り替えは歴史的な議論の積み重ねの結果認められてきたものであり、もし、薬価財源を本体に振り替えないのであれば、他の十分な財源を用意して技術料の引き上げを行うべきである。
すでに発表されている2025年の必要病床数では急性期病床を減らす必要があるとされており、前回の診療報酬改定で要件が厳格化され1.6万床減らされた「7:1」病床はさらに減らされる可能性が高い。
また財政制度等審議会の資料では、「療養病床の地域差是正に向けた診療報酬上の対応」との文言があり、地域医療構想ガイドラインに沿って、診療報酬上の措置で療養病床削減が行われる可能性も高い。
また、病床削減を進める一方で、患者の受け皿となる在宅医療の推進も行われる。10月7日の中医協総会では在宅医療を専門に行う診療所が認められる見通しとなっている。ただ、一定の要件が設けられるとともに、「在宅専門の診療所は外来等の対応コストが効率化されるため、通常の診療所が算定できる点数より低く設定すべき」との意見も出ている。
以上のように、政府は地域医療構想や地域包括ケアシステムの構築などを通して、病床削減、患者の在宅誘導を診療報酬改定で行う方針を明らかにしている。その背景には、高齢化の進展により増える医療ニーズを、少ない医療費とマンパワーで乗り切るという狙いがある。
現状でも各医療機関は、低い診療報酬に苦しみながら地域の医療ニーズになんとか応えてきた。こうした努力をないがしろにして、無理やり病床削減や病床転換、在宅誘導を行えば、患者に最適な医療が確保されず、医療従事者の労働環境悪化も加わり、地域医療は再び崩壊してしまう。
今回の診療報酬改定で政府は、現状の医療機関が地域で提供している様々な医療行為について、その評価を正当に行うべきである。
会員署名ご協力のお願い
理事長 西山 裕康
安倍首相は2020年度に名目GDP(国内総生産)600兆円をめざすとしていますが、日本のGDPは20年前からほぼ横ばいで、机上の空論としか言いようがありません。しかし、GDPを効率的に伸ばす方法があります。それは社会保障への政府支出を増やすことです。
経済学では、国内総生産は国内の総支出と同額となるとされます。つまり、社会保障費のような政府の支出を増やせば、その分、当然GDPは増加するのです。
また、社会保障分野の総波及効果(他分野の生産を増加させる効果)は公共事業より高く、雇用誘発効果も主要産業より高くなっています。その市場規模は60兆円といわれ、建設業の51兆円や自動車産業の62兆円に匹敵する国内最大級の産業であり、経済の足を引っ張る「お荷物」ではありません。また、医療・介護分野は今後も確実に需要が拡大し、少子高齢化、人口減少社会の中で唯一といっていい確実な成長産業です。
安倍首相は経済界には繰り返し賃上げを要求しています。一方で、建設業に匹敵する460万人の医療・介護従事者の賃金の原資でもある診療報酬、介護報酬を引き下げるのは矛盾という他ありません。
労働集約型産業である医療・介護の報酬を引き上げ、雇用を拡大し、所得を安定させ、将来不安をなくせば、消費拡大による経済成長はもちろん、少子化解消にも大きく寄与するでしょう。また、健康な国民が増えれば、その人が働き続けることができるだけでなく、消費も拡大させます。内需が拡大すれば、企業も内部留保を設備投資や雇用に向け、GDPを押し上げ最終的には税収も増えるでしょう。なによりも自身と家族の健康は国民の最大の願いです。国民の生存権保障、格差や貧困、社会的排除の解消は、健全な国家の責務です。
まずは診療報酬のプラス改定と患者窓口負担の軽減です。診療報酬改定をめぐる議論は、開業医の収入増を許すのかなどという些末なものではなく、社会保障を充実して、経済成長政策に舵を切るかどうかという議論なのです。
会員署名にご協力をお願いします。
こうした中、協会では国民医療を充実し、医療機関の経営を守るために、診療報酬プラス改定と患者負担軽減、消費税ゼロ税率を求める会員署名に取り組みます。
署名用紙は、本紙に同封するとともに、11月4日または6日に各会員あてファックス送信でお届けします。用紙に住所・医療機関名・氏名をご記入いただき(ゴム印でも可)、ファックスでご返信をお願いします。
集まった署名は、保団連が11月19日、12月3日に予定する中央要請行動で、厚生労働省や財務省など関係各機関、国会議員に提出する予定です。
政策解説(1) 診療報酬は引き上げ可能 協会政策部
診療報酬プラス改定と消費税ゼロ税率の実現を求め、協会が取り組む二つの院長署名(1面参照)。この内容に関連し、今号から解説を行う。第1回目となる今回は、来年度診療報酬改定に向けた議論の現状について。財政赤字で診療報酬増やせない?
財務省の財政制度等審議会は、6月に発表した「財政健全化計画等に対する建議」(以下、財政審建議)で「公的な保険給付の総量の伸びを抑制せざるを得ず、今後、サービス単価をさらに大幅に抑制することが必要となる」としている。つまり、財政健全化を達成するには診療報酬のマイナス改定が必要だというのである。しかし、財政赤字と医療費や社会保障費を結びつけて議論するのは誤りである。G7のうち、基礎的財政収支の赤字幅が日本より大きいのはアメリカだけで、その他の国々では日本より社会保障費の対GDP比は高いにもかかわらず、日本よりも財政状況はよい。
なぜ、日本の財政収支は悪いのか。それは各先進国に比べて富裕層の所得税や大企業の法人税、社会保険料負担が低く抑えられてきたためである。
この間、株高や円安により大企業の経常利益は過去最高となり、全企業の内部留保は354兆円と過去最高を記録した。こうした中、政府はさらに法人税を減税するとしている。大企業は政府による株の買い支えや円安誘導により利益を得た上、さらに税金まで下げてもらおうというのだ。
こうした状況下で、安倍首相は大企業に対し、賃金の引き上げを求めている。大企業に賃金の引き上げを求めるならば、政府自身が決めることのできる医療従事者の賃金の原資=診療報酬を引き上げるべきではないだろうか。
薬価引下げ財源は本体に回さない?
前回診療報酬改定では、薬価・材料の引き下げ財源を診療報酬本体に回さなかったことにより、本体部分は消費税増税補填分を除きマイナス改定となった。今回の診療報酬改定についても財政審建議では「(薬価は)市場価格の調査に伴って引下げが行われるが、...診療報酬本体財源とならない」と振り替えを行わないことを明言している。しかし、この振り替えは1972年の中医協建議で「診療報酬体系の適正化との関連において、当分の間は薬価基準の引下げによって生じる余裕を技術料を中心に上積みすることとしたいと考えている」と初めて提案され、厚生(労働)大臣や首相も公式にそれを尊重し、慣行として2012年の改定まで踏襲されてきた。97年には衆院厚労委員会で安倍晋三議員(当時)が、「薬価差の一部は、例えば病院の修理の方にも回っているわけでありますし、そういう観点から、薬価差を適正にすると同時に、診療報酬における技術料を適正に評価するべきだという声も強くある」と述べている。
つまり、診療報酬改定の際、薬価差を適正化するが、技術料を引き上げる必要があるので、薬価切り下げ分の財源を技術料の引き上げに使うということである。
このように薬価・材料の引き下げ財源の診療報酬本体への振り替えは歴史的な議論の積み重ねの結果認められてきたものであり、もし、薬価財源を本体に振り替えないのであれば、他の十分な財源を用意して技術料の引き上げを行うべきである。
焦点は病床機能分化
10月22日に開催された厚労省の社会保障審議会医療部会では右表のような提案がなされている。すでに発表されている2025年の必要病床数では急性期病床を減らす必要があるとされており、前回の診療報酬改定で要件が厳格化され1.6万床減らされた「7:1」病床はさらに減らされる可能性が高い。
また財政制度等審議会の資料では、「療養病床の地域差是正に向けた診療報酬上の対応」との文言があり、地域医療構想ガイドラインに沿って、診療報酬上の措置で療養病床削減が行われる可能性も高い。
また、病床削減を進める一方で、患者の受け皿となる在宅医療の推進も行われる。10月7日の中医協総会では在宅医療を専門に行う診療所が認められる見通しとなっている。ただ、一定の要件が設けられるとともに、「在宅専門の診療所は外来等の対応コストが効率化されるため、通常の診療所が算定できる点数より低く設定すべき」との意見も出ている。
以上のように、政府は地域医療構想や地域包括ケアシステムの構築などを通して、病床削減、患者の在宅誘導を診療報酬改定で行う方針を明らかにしている。その背景には、高齢化の進展により増える医療ニーズを、少ない医療費とマンパワーで乗り切るという狙いがある。
現状でも各医療機関は、低い診療報酬に苦しみながら地域の医療ニーズになんとか応えてきた。こうした努力をないがしろにして、無理やり病床削減や病床転換、在宅誘導を行えば、患者に最適な医療が確保されず、医療従事者の労働環境悪化も加わり、地域医療は再び崩壊してしまう。
今回の診療報酬改定で政府は、現状の医療機関が地域で提供している様々な医療行為について、その評価を正当に行うべきである。
表 提案されている改定の方向性
会員署名ご協力のお願い
「安心につながる社会保障」で経済成長を
理事長 西山 裕康安倍首相は2020年度に名目GDP(国内総生産)600兆円をめざすとしていますが、日本のGDPは20年前からほぼ横ばいで、机上の空論としか言いようがありません。しかし、GDPを効率的に伸ばす方法があります。それは社会保障への政府支出を増やすことです。
経済学では、国内総生産は国内の総支出と同額となるとされます。つまり、社会保障費のような政府の支出を増やせば、その分、当然GDPは増加するのです。
また、社会保障分野の総波及効果(他分野の生産を増加させる効果)は公共事業より高く、雇用誘発効果も主要産業より高くなっています。その市場規模は60兆円といわれ、建設業の51兆円や自動車産業の62兆円に匹敵する国内最大級の産業であり、経済の足を引っ張る「お荷物」ではありません。また、医療・介護分野は今後も確実に需要が拡大し、少子高齢化、人口減少社会の中で唯一といっていい確実な成長産業です。
安倍首相は経済界には繰り返し賃上げを要求しています。一方で、建設業に匹敵する460万人の医療・介護従事者の賃金の原資でもある診療報酬、介護報酬を引き下げるのは矛盾という他ありません。
労働集約型産業である医療・介護の報酬を引き上げ、雇用を拡大し、所得を安定させ、将来不安をなくせば、消費拡大による経済成長はもちろん、少子化解消にも大きく寄与するでしょう。また、健康な国民が増えれば、その人が働き続けることができるだけでなく、消費も拡大させます。内需が拡大すれば、企業も内部留保を設備投資や雇用に向け、GDPを押し上げ最終的には税収も増えるでしょう。なによりも自身と家族の健康は国民の最大の願いです。国民の生存権保障、格差や貧困、社会的排除の解消は、健全な国家の責務です。
まずは診療報酬のプラス改定と患者窓口負担の軽減です。診療報酬改定をめぐる議論は、開業医の収入増を許すのかなどという些末なものではなく、社会保障を充実して、経済成長政策に舵を切るかどうかという議論なのです。
会員署名にご協力をお願いします。