2016年3月05日(1807号) ピックアップニュース
2016年度 診療報酬改定 談話
2016年度診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(中医協)は2月10日、厚生労働大臣に答申を行った。改定率および改定内容に対する医科・歯科それぞれの談話を掲載する。
医科 地域医療再生には遠い内容
政府は今次改定について、本体・薬科・材料費で差し引き0.84%のマイナス改定とすることを決定している(前回改定と同様「市場拡大再算定による薬価見直し」マイナス0.19%を改定率に含めると、1.03%のマイナス)。さらに、改定率から外された薬価引き下げ分なども含めると、実質的には1.43%(国費ベースで1495億円)のマイナス改定となる。
これまでの低医療費政策によって、多くの医療機関が厳しい経営を迫られている。地域医療の再生のためには、マイナス改定ではなく、初・再診料をはじめとした診療報酬の抜本的引き上げこそが必要不可欠だ。
外来では、「医療機能の分化・強化」「かかりつけ医機能の評価」が強調された。地域包括診療料の基準が緩和されるとともに、新たに「認知症地域包括診療料」や「小児かかりつけ診療料」が新設されるなど、人頭払いにつながる恐れのある包括点数が拡大された。
また、紹介状なしで500床以上の病院などを受診した場合の定額負担(初診5千円以上、再診2500円以上)も義務化された。さらなる受診抑制が懸念される。
在宅医療では、在宅時医学総合管理料(在医総管)等について、患者の「状態」「居住場所」「単一建物内での訪問診療人数」「訪問診療の回数」により点数が細分化された。前回も同管理料の改定で在宅医療現場に混乱がもたらされたが、今回待っていたのは点数区分のいっそうの複雑化であり、「重症」でない患者やサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム入居患者等の点数引き下げだった。
回復期リハビリテーション病棟に対しては、アウトカム評価が新たに導入された。同病棟入院中患者のリハビリの「実績」が「一定の水準」に達しない医療機関は、同病棟でのリハビリが制限される。
要介護者への維持期リハビリの介護保険への移行期限は2年間延長されたものの、全体として医療リハビリの縮小と介護リハビリへの移行がさらに進められている。
処方・調剤分野では、一度に70枚以上の湿布薬を処方することを制限した。事実上の「保険外し」であり、その他の市販品類似薬などへの拡大も懸念される。後発医薬品の使用促進も、より強化された。調剤薬局では、ハードルの高い「かかりつけ薬剤師指導料」が新設される一方、それ以外の調剤基本料を減額するなど、地域の調剤を担ってきた中小薬局への影響が懸念される。
在宅自己注射指導管理料は、複数医療機関での異なる疾患に対する指導管理についても、それぞれで算定が可能になった。「月27回以下の場合」の点数は、統合され引き上げられた。逆に「月28回以上の場合」の点数は引き下げられ、課題が残る。
入院中の患者の他医療機関受診時の入院料減算については、控除率が緩和された。入院料減算と外来算定制限の完全撤廃に引き続き取り組みたい。
協会は、政府に対して今次改定内容の不合理是正を求めるとともに、今後も診療報酬の引き上げと患者負担軽減の運動に継続して取り組んでいく。
歯科 歯科医療費の総枠拡大と基礎的技術料の大幅引き上げを
今次診療報酬改定は、30年以上続く歯科医療費抑制策のもとでの歯科医療機関の経営改善にほど遠いものである。歯科医療危機をくいとめ、良質な歯科医療を国民に提供できるよう、歯科医療費の総枠拡大と基礎的技術料の大幅な引き上げをあらためて求めるものである。また、協会・保団連がこの間取り組んできた歯科技工問題については、有床義歯などの技術料や歯科技工加算がわずかに引き上げられたものの、抜本的解決には到底至っていない。
今回導入されたかかりつけ歯科医機能の評価は、エナメル質初期う蝕管理加算など、多くの歯科医療機関で提供できる処置内容を「かかりつけ歯科医機能」として包括点数化し、一物二価を持ち込むものである。わざわざ高いハードルの施設基準を設けて歯科医療機関を選別化する必要はなく、予防歯科を推進するには、日々身近なかかりつけ歯科として診療している圧倒的多数の歯科医療機関が算定できるよう、施設基準をなくすべきである。
新たに設けられた在宅医療を専門に行う医療機関の開設要件に「地域歯科医師会からの協力の同意」との文言があるが、すべての保険医療機関が地域医療を担っており、特定の団体の協力の同意を開設要件とすることは不要と考える。
歯管の文書提供の加算化、レジン前装金属冠の第一小臼歯への適用、周術期口腔機能管理や栄養サポートチームなど医科歯科連携への評価、歯科訪問診療1における時間要件の緩和、同居する同一世帯の複数の患者を診療した場合の評価などである。歯冠補綴時色調採得検査、有床義歯咀嚼機能検査、舌圧検査などは高額な医療機器を装備しなければならない点はあるものの、新たに保険収載された。
協会・保団連が「保険でより良い歯科医療」の実現を求める署名運動、診療報酬の不合理是正や抜本改善を求めた厚労省交渉や国会要請行動を積み重ねてきた結果であり、運動の前進として評価できる。
協会は、窓口負担軽減・保険範囲の拡大・診療報酬の改善へ、国民とともに「保険でより良い歯科医療」を求める運動を引き続き強くすすめていくものである。
医科 地域医療再生には遠い内容
研究部長 清水 映二
政府は今次改定について、本体・薬科・材料費で差し引き0.84%のマイナス改定とすることを決定している(前回改定と同様「市場拡大再算定による薬価見直し」マイナス0.19%を改定率に含めると、1.03%のマイナス)。さらに、改定率から外された薬価引き下げ分なども含めると、実質的には1.43%(国費ベースで1495億円)のマイナス改定となる。これまでの低医療費政策によって、多くの医療機関が厳しい経営を迫られている。地域医療の再生のためには、マイナス改定ではなく、初・再診料をはじめとした診療報酬の抜本的引き上げこそが必要不可欠だ。
包括点数が拡大
2月の中医協答申を見ると、引き続き入院医療の絞り込みと在宅医療への誘導が顕著となっている。外来では、「医療機能の分化・強化」「かかりつけ医機能の評価」が強調された。地域包括診療料の基準が緩和されるとともに、新たに「認知症地域包括診療料」や「小児かかりつけ診療料」が新設されるなど、人頭払いにつながる恐れのある包括点数が拡大された。
また、紹介状なしで500床以上の病院などを受診した場合の定額負担(初診5千円以上、再診2500円以上)も義務化された。さらなる受診抑制が懸念される。
在宅医療では、在宅時医学総合管理料(在医総管)等について、患者の「状態」「居住場所」「単一建物内での訪問診療人数」「訪問診療の回数」により点数が細分化された。前回も同管理料の改定で在宅医療現場に混乱がもたらされたが、今回待っていたのは点数区分のいっそうの複雑化であり、「重症」でない患者やサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム入居患者等の点数引き下げだった。
7対1病棟のさらなる厳格化
入院では、急性期医療の絞り込みと、早期退院への誘導・圧力がいっそう顕著になった。7対1一般病棟について、医療必要度の高い患者割合や在宅復帰率など、さらなる要件厳格化が盛り込まれた。療養病棟においても、医療必要度の高い患者の受け入れを迫られる内容となっている。回復期リハビリテーション病棟に対しては、アウトカム評価が新たに導入された。同病棟入院中患者のリハビリの「実績」が「一定の水準」に達しない医療機関は、同病棟でのリハビリが制限される。
要介護者への維持期リハビリの介護保険への移行期限は2年間延長されたものの、全体として医療リハビリの縮小と介護リハビリへの移行がさらに進められている。
処方・調剤分野では、一度に70枚以上の湿布薬を処方することを制限した。事実上の「保険外し」であり、その他の市販品類似薬などへの拡大も懸念される。後発医薬品の使用促進も、より強化された。調剤薬局では、ハードルの高い「かかりつけ薬剤師指導料」が新設される一方、それ以外の調剤基本料を減額するなど、地域の調剤を担ってきた中小薬局への影響が懸念される。
入院中の他医療機関受診減算控除率が緩和
最後に、協会・保団連が要求してきた内容が実現したものもある。在宅自己注射指導管理料は、複数医療機関での異なる疾患に対する指導管理についても、それぞれで算定が可能になった。「月27回以下の場合」の点数は、統合され引き上げられた。逆に「月28回以上の場合」の点数は引き下げられ、課題が残る。
入院中の患者の他医療機関受診時の入院料減算については、控除率が緩和された。入院料減算と外来算定制限の完全撤廃に引き続き取り組みたい。
協会は、政府に対して今次改定内容の不合理是正を求めるとともに、今後も診療報酬の引き上げと患者負担軽減の運動に継続して取り組んでいく。
歯科 歯科医療費の総枠拡大と基礎的技術料の大幅引き上げを
歯科部会長 吉岡 正雄
今次診療報酬改定は、30年以上続く歯科医療費抑制策のもとでの歯科医療機関の経営改善にほど遠いものである。歯科医療危機をくいとめ、良質な歯科医療を国民に提供できるよう、歯科医療費の総枠拡大と基礎的技術料の大幅な引き上げをあらためて求めるものである。また、協会・保団連がこの間取り組んできた歯科技工問題については、有床義歯などの技術料や歯科技工加算がわずかに引き上げられたものの、抜本的解決には到底至っていない。今回導入されたかかりつけ歯科医機能の評価は、エナメル質初期う蝕管理加算など、多くの歯科医療機関で提供できる処置内容を「かかりつけ歯科医機能」として包括点数化し、一物二価を持ち込むものである。わざわざ高いハードルの施設基準を設けて歯科医療機関を選別化する必要はなく、予防歯科を推進するには、日々身近なかかりつけ歯科として診療している圧倒的多数の歯科医療機関が算定できるよう、施設基準をなくすべきである。
新たに設けられた在宅医療を専門に行う医療機関の開設要件に「地域歯科医師会からの協力の同意」との文言があるが、すべての保険医療機関が地域医療を担っており、特定の団体の協力の同意を開設要件とすることは不要と考える。
運動により一部改善も
一方、歯科医師の要求が反映され、一部改善されたものもある。歯管の文書提供の加算化、レジン前装金属冠の第一小臼歯への適用、周術期口腔機能管理や栄養サポートチームなど医科歯科連携への評価、歯科訪問診療1における時間要件の緩和、同居する同一世帯の複数の患者を診療した場合の評価などである。歯冠補綴時色調採得検査、有床義歯咀嚼機能検査、舌圧検査などは高額な医療機器を装備しなければならない点はあるものの、新たに保険収載された。
協会・保団連が「保険でより良い歯科医療」の実現を求める署名運動、診療報酬の不合理是正や抜本改善を求めた厚労省交渉や国会要請行動を積み重ねてきた結果であり、運動の前進として評価できる。
協会は、窓口負担軽減・保険範囲の拡大・診療報酬の改善へ、国民とともに「保険でより良い歯科医療」を求める運動を引き続き強くすすめていくものである。