兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2016年4月15日(1811号) ピックアップニュース

第32回地域医療を考える懇談会を篠山市で開催
小児科医不足で疲弊する小児救急

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参加者とともに神戸市北部、北摂・丹波地域の小児救急を今後どうすべきか意見交換した

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(右上から時計回りに)酒井國安県立柏原病院元病院長・医療監、杉本健郎すぎもとボーン・クリニーク(篠山市)所長、森下順彦もりした小児科(三田市)院長、奥谷貴弘済生会兵庫県病院小児科部長が話題提供

 北摂・丹波支部は地域医療部と共催で、2月28日、第32回地域医療を考える懇談会「神戸市北部、丹波・篠山・三田市における子ども医療の現状と今後の課題」をユニトピアささやまで開催し、地域の公的病院・大学病院等勤務医を含め37人が参加した。地域内で小児救急に対応できず、六甲山を越えて中央区の神戸こども初期急病センターまで受診している実態が明らかになった。懇談会の概要と森岡芳雄副理事長、岡部桂一郎監事の参加記を掲載する。

六甲山を越えて受診せざるを得ない
 県立柏原病院元病院長・医療監の酒井國安先生、済生会兵庫県病院(北区)小児科部長の奥谷貴弘先生、すぎもとボーン・クリニーク(篠山市)所長の杉本健郎先生、もりした小児科(三田市)院長の森下順彦先生(北摂・丹波支部長)が話題提供し、杉本先生が司会も務めた。
 参加者は、夜間や休日において、小児1次・2次救急を今後どうするかについて、各病院に行った小児救急に関するアンケートや、医師会・消防等のデータをもとに活発に議論を交わした。
 県立柏原病院の酒井先生は丹波圏域の現状について報告。1次救急は休日・平日問わず22時から翌朝9時の間は行えておらず、2次救急についても、日曜日の夜間は受け入れることができないとした。地域に公的な広域小児初期急病用の診療所、小児科常勤医が最低7人以上いる病院が必要とした。
 済生会兵庫県病院の奥谷先生は小児科の現状について報告。同病院は地域周産期母子医療センターとして、6人の小児科医が毎月5・6回の当直とオンコールを担当しており、その上、救急車、紹介患者等の対応にもあたっているが、あまりに医師数が少なすぎ、現場は疲弊していると語った。今後は小児救急受診に対する啓発活動等を行っていく必要があるのではなどと問題提起した。
 開業医の立場から報告した杉本先生は、篠山市では診療時間後から朝までは、日によっては神戸こども初期急病センター等へ対応を求めざるを得ない現状にあるとし、丹波医療圏、阪神北医療圏で広域の小児休日診療ができないか、同様に神戸市北区を含めた小児2次救急の輪番体制が組めないかと問題提起した。
 森下先生は三田市休日応急診療センターには、三田市のみならず近隣市から多数の小児が受診しており、平日夜間や応急診療センターに小児科医がいない場合、小児患者が神戸こども初期急病センター、阪神北広域こども急病センター等へ受診している現状を説明。三田市の小児科医も高齢化が目立ち、数も少ないことから、時間外、休日、夜間を専門とする公的なこども急病センターを地域に作ってほしいと訴えた。また、小児科医の数が少なすぎることも背景にあるとして、医師を増やす政策を行うよう求めた。
 意見交換では「子どもの体調が急に悪くなると親は心配になる。夜間・休日問わず医療機関に受診できる体制の整備が必要ではないか」「小児科医の激務の背景には、医師の絶対数の少なさがある。患者のフリーアクセスを制限すると、影響を受けるのは経済的弱者。医師数をいかに増やすかが重要だ」などの意見が出された。
 前日には、同会場で協会移動理事会が開催された。

参加記(1)
小児医療の危機は文化的・経済的貧困による
副理事長 森岡 芳雄
 地域医療を考える懇談会は、休日・夜間の小児救急の問題が取り上げられました。丹波・篠山・三田の各市、北播、神戸市北部地域の夜間・休日診療所の受診状況や救急隊による搬送状況が調査され、データとして挙げられ、従来の個々の医師の印象や感想といった域を超えた、貴重な事実の提示がありました。
 この地域が今もなお、昔からの生活・文化圏を引き継ぎ、深く結びついていることを知りました。些細に思われることが緊急性につながる子どもの病気に対する母親の不安への対応、生活圏を基にした医療供給体制の確立が重要であることを再認識しました。
 私は小児医療の問題には、高度経済成長期以降、個人主義が浸透し、核家族化し、大人の稚拙化が進行し、子どもを社会の財産として大人が集団的に守り、育てる意識が失われていっていることや、地域コミュニティーが崩壊し、地域で共有されていた子育て環境や子ども集団がなくなり、子育ての知恵や子ども文化が伝承されなくなってきたことが、大きく影響していると思っています。 
 現在、母親の子育てにおける素養としての知識不足、体験不足は深刻で、父親の労働環境は厳しく、子育てへの参画は意識の高まりとは裏腹にわずかで、母親は孤立しており、子育て環境は非常に厳しい状況にあります。子育ての問題には老人介護問題と同様の社会的背景があると思っています。
 公立、私立の基幹病院の小児科の先生方も参加され、率直な感想を述べておられました。地域が抱える小児科医療の問題の大きさを反映したものでした。
 休日・夜間救急を考える時、未熟・幼弱でリスクが高い命と向き合う小児医療に対する診療報酬が低いことから、小児科医へのなり手が極端に少なくなっていること、国の政策によって医療機関において小児医療の採算がとれず、切り捨てられていってしまっていることも見逃してはいけない事実だと思います。
参加記(2)
六甲山より北側の小児医療の実情
監事 岡部桂一郎
 篠山市内の森林に囲まれたホテルで行われた移動理事会と第32回地域医療を考える懇談会に出席した。家族連れの泊まれる建物とは別棟にある会議室は静かであった。
 宿泊した部屋は質素だが必要最低減の備品が備えられていて、ゆっくりと休めた。翌日はその地区の勤務医と開業医の4人の先生方が、小児医療の現状について講演された。
 人口減少と老人人口増加、子どもの出生数減少。それとともに小児科医が阪神地区の大病院を志向し、小児科医が地方の病院に集まらないことが衰退原因であると話された。森下先生のスライド図表は小児救急の患者移動数などをマップ上に示された苦心の力作であり、データ集めに大分ご苦労されたと推察する。
 意見交換も活発で、杉本先生の手際よい司会はお見事であった。
 老人医療も大切であるが、高度化する新生児医療、産科医と小児科医の連携プレイとともに、両科の医師不足、しんどい科は敬遠し、高額報酬を希望する医師の功利性、過疎地医療を敬遠する若い医師たちなど、取り組むべき問題は多い。
 これらのテーマは政治家には切実ではないし、取り組む政治家は限られている。医学教育も研究者を育成するだけでなく、実地医療に目を向けた臨床医を育むことである。
 児童虐待やいじめに遭い、自殺する児童の増加など、小児科医や精神科医が係わる領域は増加している。医療は、老弱男女、貧富に関係なく、平等に行われるべきである。医療者はいつも「ヒッポクラテスの誓い」を念頭に浮かべて治療に専念すべきであると思った。
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