2016年4月25日(1812号) ピックアップニュース
インタビュー「ひょうごの医療」 赤穂市民病院院長 小野成樹先生
医師不足解消へビジョンを
【おの しげき】1952年生まれ。75年京都大学工学部機械工学科卒業、82年信州大学医学部医学科卒業、91年京都大学医学部医学研究科博士課程修了、91年赤穂市民病院、99年同消化器科部長、00年同診療部長、08年同院副院長兼消化器科部長、13年病院長。全国公私病院連盟常務理事、全国公立病院連盟理事、全国自治体病院協議会兵庫県監事、兵庫県病院協会理事、赤穂市医師会理事
辻 初めて病院におうかがいしましたが、大きくて立派な病院ですね。
小野 ありがとうございます。
辻 さっそくお話しをうかがいたいのですが、先生の経歴を拝見すると医学部の前に工学部を卒業されているんですね。どうして医学部に改めて入られたのですか。
小野 話せば長くなるのですが...私はもともと医師になるつもりはなく、工学部で流体力学を専門としていました。人工心臓などの研究を医学部と共同で行っていたのですが、「大網」(腹膜の一部)と聞いても「体毛」と勘違いするほどの知識でしたので、研究を深めるためにと医学部で学ぶことにしたのです。卒業後は研究室に戻る予定でしたが、のめり込みやすい性格のせいか初期研修を通して臨床にはまりこんでしまい、今に至ります。
人口当たり医師数が最も少ない西播磨
辻 西播磨の地域医療を支える上で課題は何だとお考えですか。小野 一番困っているのは医師不足ですね。いろいろな医局や教授と接点を持つよう努力していますが、地方に来てもらうのはやはり大変です。実は西播磨医療圏は県下で人口当たりの医師数が最も少なく、日本海側の但馬医療圏よりも少ないんです。その上面積も広いので、佐用町からここまで、救急車でも1時間かかってしまいます。「医師不足」というと但馬地域のことは頭に浮かぶと思いますが、西播磨もそうだとは思われないでしょう。
辻 恥ずかしながら、知りませんでした。
小野 当院にも70人弱の常勤医がいますが、呼吸器領域、整形外科領域の医師不足が課題なんです。新専門医制度開始にあたり、総合診療専門医の指導医の資格を取ってくれた勤務医がいるので、若い先生が魅力を感じて集まってくれるのではと期待しています。
地域で完結する医療提供体制を
聞き手 辻一城副理事長
小野 県の担当者でも西播磨の医師不足を認識している方が少なく、以前当院から但馬に医師を移動するよう言われ、猛抗議をしたことがあります。問題を訴え続けて少しずつ理解していただけるようになりましたが、なかなか実情は知られていないのが現状です。「救急は姫路にあれば良い」など、西播磨と姫路市などの中播磨地域をひとまとめに考える傾向もあるように思いますね。神戸におられる方から見れば、姫路市も赤穂市も同じだと感じられるかもしれませんが、西播磨地域だけでも4市3町と広大な上、病院がない自治体もあります。地域住民の健康を守るため、医療提供体制は西播磨医療圏内で完結することが理想だと考えています。
辻 住んでいる地域で医療が受けられると、住民も安心できますね。
小野 ええ。そのためには地域の病院連携をしっかり作り、さらに関係者を巻き込んでいくという包括的なシステムが求められるのではないでしょうか。一つの取り組みとして昨年赤穂消防署と連携し、救急ワークステーションというシステムを導入しました。これは病院に救急車と救急隊チームを配置するものです。病院スタッフと救急隊が普段から顔を合わせることでベッドの空き状況などのやりとりがスムーズになり、救急の受け入れ先がないという問題が減るんです。
辻 すばらしい取り組みですね。
小野 これは赤穂市内のことですが、宍粟総合病院、相生市民病院、たつの市民病院など他市の公立病院や開業医の先生方とも連携を進めようと綿密に情報交換をし、西播磨各地域の医師会長とも定期的に会議をしています。遠いところから来ていただくので、実りのある会にしたいといつも意識しています。国が「地域医療構想」の策定を求めていることもあり、地域の先生方とも顔を合わせ議論する機会が増えていますね。
「受け皿」づくり実態との矛盾
辻 その「地域医療構想」ですが、国の「ガイドライン」に基づいて昨年県が算出した2025年の必要病床数の報告では、慢性期病床の必要数は現在よりも2591床少なくなるとされ、西播磨地域では324床が過剰になるとされています。小野 西播磨地域の人口は減少傾向で、国は在院日数を減らしていく方向ですから、削減するべき病床はあるかもしれません。しかし地域医療構想では人口減少を決まったものとし、病床をいかに減らすかという議論をしていることには違和感があります。その地域で人口を増やそうと思えばやはり医療の充実が必要となってきます。そして「どんな地域をめざすのか」「人口をどうやって増やすのか」という前向きな計画が必要でしょう。
辻 病床削減、医療費削減ありきの進め方は問題ですね。
小野 そうですね。地域医療や必要病床数について国や県の持っているイメージと現実が異なる部分があると思います。「入院から在宅へ」といわれますが、「病床を減らすから、受け皿は地域でどうにかしなさい」というのが国の姿勢です。当院のような急性期が中心の病院では、入院後すぐに転院先を探さなければなりませんが、いつも苦労しています。赤穂市内でも泌尿器など科によっては専門の開業医の先生がおらず、在宅にかえすことも簡単ではありません。慢性期病床もやはり必要なんです。困るのは住民ですから、安心して入院できる体制がつくれるよう、私たちは意地でもがんばっていかないといけません。
辻 赤穂市民病院の一般病棟は7対1看護体制をとられていますが、この春の改定では要件がさらに厳しくなりましたね。
小野 昨年、どうにか7対1の看護体制を達成したのですが...今回の改定で重症者の必要割合が上がったため、要件を満たすのは厳しくなると思います。地方の看護師不足は医師不足と同様に深刻な問題です。地方と都市部とでは状況や条件が違うことを国は認識し、真剣に政策を作ってほしいですね。
辻 地域の実態を知らせていくことが大切ですね。
小野 そうですね。病院関係団体の会議でも、積極的に発言をしようとしています。東京の会議にも日帰りで行き、月の半分はこのような会議等院外活動に従事しています。西播磨の現状を報告しても「赤穂義士」は知っているが赤穂市の場所は知らない、結びつかないという方は多くおられます。でも声をあげずにいたら見捨てられてしまうし何も変わらないんです。邉見公雄名誉院長(※)が院長時代から問題意識を強く持っておられ、全国自治体病院協議会などで地域医療を守るため奮闘されていました。今私がこのように活動させていただいているのも邉見先生のおかげです。
辻 保険医協会も地域医療の充実のために一緒にがんばっていけたらと思います。先生には以前から協会の共済をご利用いただいていますが、協会活動へのご要望を教えてください。
小野 保険医協会には、今回のように地域医療に光をあてて、私たちの声を届けていってほしいです。他地域の先生方に少しでも深刻な状況を知っていただけたらと思います。
辻 ありがとうございました。
インタビューを終えて
時間が進むに連れ、「病院を良くしよう」「地域の医療を良くしよう」という先生の熱い思いが溢れ出し、止まらなくなっていきました。このような先生が地域の医療を支えているのだと、強く感じるインタビューでした。(辻)
赤穂市民病院 赤穂市中広1090番地。1947年国保直営赤穂町民病院として開設。一般病床392床。地域医療支援病院、地域がん診療連携拠点病院、へき地医療拠点病院、災害拠点病院として、隣接する岡山県東備地域を含めた地域の医療を支える中核病院
※邉見 公雄先生 1944年生。68年京大医学部卒。87年赤穂市民病院院長、09年4月より同病院名誉院長。全国自治体病院協議会会長、全国公私病院連盟副会長。05.9〜11.10中央社会保険医療協議会委員他、国・県・自治体など多数の役職を兼任