兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2016年11月05日(1829号) ピックアップニュース

燭心

 古希を迎えた年のある日、車を運転しているとある張り紙に目がとまった。「ハープ教えます。生徒募集中」車を停めて電話番号をメモし、帰宅するなり申し込んだ。心の片隅に子どものころ読んだギリシャ神話の挿絵に描かれていた竪琴を弾く乙女の姿が残っていた▼保険医年金を取り崩し、グランドハープを買った。中クラスの外車並みの価格だった。配送に来た楽器社の人は「リビングの飾りにするのか」と聞いた。この心ない言葉が闘争心に火をつけ続けさせたのかもしれない。楽譜も読めず、楽器も弾いたことのない高齢者にとって認知症予防になるかもと気軽に始めた▼毎年、若い人たちに交じり発表会で演奏してきたが、練習の甲斐もあり自然でスムーズに指が動いていた。ところが2年前から時々突然指が止まり、次はどうするんだと私の意思を問うてくるようになった▼先日の発表会でも直前の練習では問題なかったのに、本番で2小節もスキップする始末である。頭の老化は疑いない。若い時に始めた趣味は年をとって円熟の域に達するが、70歳の手習いではそうもいかぬ。音は大気中に消えて、後に何も残さないのがせめてもの幸いだと思い至った▼5年前から始めた囲碁、ゴルフなど、他人に迷惑をかけることなく趣味を楽しんでいる。残った作品の処分で子どもたちを悩ませることもない。後始末が気になる年齢になったようであるが、1日1日を大切に前向きに生きていこうと思っている。(硝子)
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