兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2017年2月05日(1836号) ピックアップニュース

尼崎中央病院 吉田静雄会長に聞く「消費税損税」
損税解消には「ゼロ税率」しかない

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尼崎中央病院会長 吉田静雄先生
【よしだ しずお】1930年生。55年大阪大学医学部卒業、57年米国留学(フルブライト交換留学)、82年医療法人中央会尼崎中央病院理事長に就任。尼崎市医師会理事、全日本病院協会常任理事、兵庫県私立病院協会(現・兵庫県民間病院協会)理事・副会長などを歴任。控除対象外消費税問題に熱心に取り組む

 税法上、保険診療に係る消費税は「非課税」とされており、医療機関は、設備や物品等の仕入れに係る消費税を医療費請求に転嫁できない。これにより、医療機関は仕入れに係る消費税を控除対象外消費税(損税)として負担している。兵庫県民間病院協会監事として、この問題に取り組む尼崎中央病院会長の吉田静雄先生にインタビューした。(聞き手は西山裕康理事長、武村義人副理事長)

医療機関の損税負担は限界
 西山 吉田先生の損税問題に関する熱心な取り組みは、いろいろなところでお伺いします。
 吉田 ありがとうございます。損税問題は2017年度税制改正で「結論を得る」とされていましたが、10%への増税延期と合わせ先送りされました。消費税率が8%であっても医療機関が負担する損税は決して小さくありません。それが放置されることには大変憤りを感じています。
 西山 病院の場合、設備投資の規模も大きいため負担する損税も相当大きな金額ではないでしょうか。
 吉田 そうですね。消費税5%時の2008年に県民間病院協会が行ったアンケート調査によると、1病院あたり年間約3000万円もの消費税を負担していることが明らかになりました。当院も含め、年間1億円以上負担している病院が9件もあるという結果は大変驚きです。診療報酬マイナス改定が続く中、そもそも財政的に余裕のある医療機関は少ないでしょう。やむを得ず職員の賞与を引き下げた病院もあると聞きます。10%になれば廃業せざるを得ない病院も出てしまうのではないでしょうか。
 武村 深刻な問題ですね。2012年に県民間病院協会の会員医療機関が、消費税が医院経営を圧迫していることや税の公平性の観点から、消費税法は違憲であると賠償金を求める裁判を起こされましたね。
 吉田 神戸地裁は私たちの訴えを棄却したものの、損税の発生と不公平性を認め、厚生労働大臣はこの不公平を継続させないよう配慮すべき義務を負うという判断を示しました。こういった判例を利用し、損税問題の解消に向けた運動を強めていきたいです。
ばらつく医療界の足並み
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聞き手 西山裕康理事長

 西山 損税問題の解消方法として、協会や保団連は税法上の取り扱いを形式上「課税」とし、税率をゼロとする「ゼロ税率」を要求しています。「ゼロ税率」なら医療機関は申告することによって、仕入れにかかった消費税が100%還付されますし、患者さんへの負担が発生することもありませんが、どのようにお考えでしょうか。
 吉田 患者負担が生じないという点からも、私も「ゼロ税率」しかないと考えています。ただ、日本医師会や日本歯科医師会は最近になって、これまで診療報酬に上乗せされてきたとされる2.89%を超えた消費税負担分を、申告により還付させる「非課税還付方式」を要求するなど、医療界で意見が一致しているわけではありません。保険医新聞などでゼロ税率を要求する運動や解説記事などを読んでとても励まされ、協会とも一緒に新たな運動を展開できればと期待をしています。
 西山 ありがとうございます。医師会や歯科医師会も含め、1年ほど前までは医療団体の中でも「軽減税率等による課税取引への転換」と「ゼロ税率」を含めた要望で一致していましたね。
 吉田 「ゼロ税率」は究極の軽減税率ですから、日本医師会の本音は「ゼロ税率」だと思います。
「引きはがし」は非現実的
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聞き手 武村義人副理事長

 西山 開業医の中には「ゼロ税率」が適用されると、これまで消費税分として上乗せされてきた診療報酬のいわゆる「引きはがし」や事業税課税化が行われるのではと懸念する意見もあります。
 武村 厚労省の「消費税分は診療報酬に上乗せして補てんしている」という考え方に問題があるのではないでしょうか。
 吉田 診療報酬では、公平で十分な補てんができるはずがありません。病院ごとに標榜科目やベッド数が異なりますから、仕入金額やそれに係る消費税、算定する点数も変わってくることは、さまざまな調査から明らかになっています。また、厚労省が補てんしてきたとする点数の中には、すでに包括化や廃止になっているものもあります。つまりどこに消費税分が上乗せされているのか、もはや分からないのですから、引きはがしは現実的ではありません。
 そもそも、消費者が事業者に対して支払う消費税分は、あくまで対価の一部であるとする判決が1990年に出されています。つまり、診療報酬に消費税分として上乗せされたものは、消費税ではなく「医療費そのもの」であり、引きはがすものは存在しないのです。こういった点を主張し続けていく必要があると思います。
 西山 「引きはがし論」は破綻しているということですね。
 吉田 その通りです。もう一つ、消費税の課税化によって事業税も課税化されるのではないかという懸念ですが、事業税非課税は、すでに租税特別措置として実施されて、半世紀が経ちます。医療界は事業税非課税の恒久化を要求すべきです。
 そもそも事業税非課税は医療機関の公益性に着目した措置で、消費税非課税は患者負担への配慮を目的とした措置で政策意図が異なります。ですから、これらを同様に論じるべきではありません。
 武村 財務省からの「おどし」におびえる必要はないということですね。
患者・保険者も巻き込む大きな運動に
 西山 先ほどもおっしゃっていたように、患者さんにも影響のある問題ですから、ぜひ多くの方にこの問題を知っていただいて、一緒に解決に取り組んでいくことが大切だと思います。2014年の診療報酬改定から患者さんに渡す明細書と領収書には「診療報酬や薬価等には、医療機関等が仕入れ時に負担する消費税が反映されています」という一文を記載することになりました。
 吉田 この記載は本当にひどいと思います。厚労省は患者さんが消費税を支払わされていることを認めているということです。これを見た患者さんから「私は消費税を負担しているのか」と質問されたら回答に困ってしまいます。
 西山 これによって患者さんを巻き込んだ大きな運動を展開できるかもしれないと思ったのですが、あまり目には留まっていないようで...。分かりやすく伝える工夫が必要ですね。
 吉田 県民間病院協会では、患者さんと一緒にこの問題を考える取り組みとして「消費税と医療機関」などのテーマで市民公開セミナーを開催しています。なかなか見えにくい問題ですが、継続していくことが大切だと考えています。
 武村 すばらしい取り組みですね。
 西山 診療報酬への上乗せ補てんであれば、保険者も消費税を負担することとなりますね。特に国民健康保険は、国庫負担割合が徐々に減らされており財政的に厳しい状況ですから、診療報酬への上乗せによる影響は深刻でしょう。
 吉田 確かにそうですね。保険者も巻き込んだ運動を作っていかなければいけませんね。これからも、地域医療を支える病院・開業医を守っていくために損税問題解消に向けた運動を広げていきたいです。
 西山 吉田先生とは、共に運動に取り組んでいけたらと思いますので、よろしくお願いします。
 吉田 こちらこそ。「ゼロ税率」実現のため、協会とも協力していきたいと思っています。共にがんばりましょう。
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