兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2017年4月25日(1844号) ピックアップニュース

特別インタビュー 女子プロサッカー 川澄奈穂美選手
スポーツ選手にとって歯は命

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女子プロサッカー 川澄奈穂美選手
【かわすみ なほみ】1985年生まれ。神奈川県出身。日本体育大学卒業後2008年に日本女子サッカーリーグ「INAC神戸レオネッサ」に入団。11年の女子サッカーW杯・ドイツ大会では、準決勝のスウェーデン戦で2得点するなど日本の初優勝に貢献、国民栄誉賞を授与される。12年のロンドン五輪でも主力として活躍し、銀メダルを獲得。なでしこリーグでは11年からチームを3連覇に導き、11・13年に最優秀選手、11年に得点王。14年に米リーグ「シアトル・レインFC」に期限付き移籍し、ベストイレブンに選ばれ、16年には完全移籍し、プレーしている

 歯の大切さは、一般人でも当然ながら、プロスポーツ選手では競技結果を左右する一大事。兵庫協会提供のラジオ番組「医療知ろう!」に、女子プロサッカーで活躍する川澄奈穂美選手が出演し(2月9日放送、協会HPでも視聴可能)、紹介した小田泰史先生(「INAC神戸レオネッサ」元スポンサー、西宮市・小田歯科院長)とともに歯のかみ合わせの重要性について語らった。収録後、新聞部員の鈴田明彦理事が、インタビューした。

かみ合わせの調整が好プレーにつながる
 鈴田 ラジオ収録の様子を見学させてもらいましたが、小田先生と知り合ったきっかけは何だったのでしょうか。
 川澄 2010年の終わりに、小田歯科がINAC神戸のスポンサーをしてくれるようになり、歯科医院に通うようになりました。はじめは歯を治してくれる人がいる、ラッキーというのが正直な気持ちでした。
 小田 選手たちのサッカーに対する実直さや一途な思いに動かされ、スポンサーになりました。私は日本スポーツ歯科医学会の認定も受け、かみ合わせとスポーツの関係について研究しています。
 サッカーでは跳んだり、走ったり、ボールを蹴ったりといろいろな動きをし、それぞれ全く力の入れ方が違う上、息苦しくなるためマウスピースは使えません。男性の歯は鉄筋コンクリートの建物のようにしっかりしており、どこをいじってもなかなか壊れませんが、女性の歯はいわば繊細な木造建築のようなもので、バランスで成り立っています。女性は筋肉も骨格も繊細なので、特にかみ合わせが重要になってきます。
 歯をあえて削ったり、移動させたりすることで全身のバランスを調整し、選手の力が発揮されやすくするのです。
 鈴田 プレーされて、実感はいかがですか。
 川澄 かみ合わせがよくなったことで、力を入れるべきところでぐっと噛みしめることができるようになり、ボールを蹴った際の初速の速さや、競り合いの際の当たりの強さにつながり、ボールのキープ力の向上などにつながっているように思います。私の調子がいい時は、小田先生のおかげかもしれませんね。
 鈴田 なるほど。日本ではまだまだスポーツ歯学の重要性が認知されていないように感じますが、2020年の東京五輪に向け、スポーツ歯科を行う歯科医師が増え、医科・歯科ともに日本のスポーツを支える仕組みを作っていけたらと思います。
澤穂希選手から「サッカーやろう」
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西宮市 小田泰史先生

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聞き手 鈴田明彦理事

 鈴田 川澄選手は2011年の女子サッカーW杯・ドイツ大会に出場し、準決勝で2得点するなど日本の優勝に貢献され、国民栄誉賞も授与されています。日本を代表する女子サッカー選手の1人だと思うのですが、サッカーを始めたのはいつからですか?
 川澄 幼稚園の時からです。三つ上の姉のサッカーの練習についていきボールを蹴ったりしていました。本格的に始めたのは小学2年生の時です。地元のサッカークラブに入団し、小学校6年生の時には全国大会で優勝することができました。優勝のご褒美として皇后杯の決勝戦終了後に、澤穂希選手の膝の上にあがらせてもらい「いっしょにサッカーをやらないか」と言われて感激しました。中学・高校・大学でもサッカーを続け、上手くなりたい一心で練習し、大学卒業後、いくつかのチームに声をかけてもらいました。
 鈴田 その中にINAC神戸があったということですね。なぜINACを選んだのですか?
 川澄 当時は弱小チームで、代表選手もいなかったのですが、すごくスピーディーかつ攻撃的で楽しそうで「このチームいいな」と思ったからです。その後、あこがれの澤選手が加入し、チームメイトとしてともにプレーできるようになり、夢のようでした。
 鈴田 やはり澤選手の影響は大きいのでしょうね。
 川澄 私が小学生の時から、女子サッカー選手といえば皆が「澤さん」と答えるような、雲の上の存在です。一緒のチームになることでより練習に熱が入り、一日一日を大切にしようと思うようになりました。澤選手がいたからこそ今の自分があると思っています。理想は、澤選手のように結婚して、子どもを産んでも現役としてピッチに立ち続けることです。
 鈴田 澤選手が切りひらいた日本女子サッカー界を川澄選手が引っ張っています。INAC神戸、W杯、五輪での大活躍、そして今はシアトルでと、大変なことも多いでしょうね。
 川澄 サッカーという好きなことをずっと続けてきて、職業にもなりました。ほかの人が壁だと思うことでも、私は大好きなサッカーがもっとうまくなるための通過点と考えています。「死ぬこと以外はかすり傷」というのが私のモットーで、苦しいと感じたことはありませんね。
 小田 川澄選手はサッカーに対し本当に真剣で、試合中はまるで別人のようになり、怖いぐらいですが、試合が終わるととてもにこやかに、気さくに対応してくれます。そこが彼女の魅力だと思います。
 鈴田 川澄選手が感じるサッカーの魅力はなんでしょうか?
 川澄 うーん...ありすぎて、答えるのが難しいですが(笑)、自分の短所を仲間が補ってくれ、1+1が2ではなくもっと大きなものになることだと思います。
 鈴田 ラグビーで言うと「ワンフォーオール」ですね。
実力主義のアメリカ
 小田 川澄選手の活躍といえば、2011年、女子サッカーW杯準決勝のスウェーデン戦で放った、30mものロングシュートが特に印象に残っています。あのシュートは狙っていたのですか?
 川澄 はい、狙っていました。準決勝で初めてスタメンに抜擢され、ちょうどいいタイミングでボールが来てくれたので、ここは決めようと。このゴールを決めてから注目されようがすごかったです(笑)。
 小田 他のスポーツ選手たちは優勝すると天狗になる人も多いですが、彼女たち、特に川澄選手はまったく天狗にはならなかったですね。澤選手が日本女子サッカーにとっての神様なら、川澄選手は象徴で、まだまだ日本でがんばってもらいたかったのに、なぜシアトルに行ったのか。寂しい限りです。
 鈴田 本当ですね。でも今後の活躍が楽しみです。アメリカでプレーされて感じる日本との違いはありますか?
 川澄 一番大きな違いは、アメリカでは練習に出なくても試合で結果さえ出せばいいとされ、実力主義なところですね。
 無理に練習して調子が悪くなったら本末転倒ですので、試合に向けて休むべき時には休むことの大切さを初めて知りました。ただ、日本では、一緒に同じ方向を向いて練習することが、チームワークの良さを生みだしています。
 どちらがいいかという話ではなく、自分が上手くなるために何が必要か考えて練習を行う、これはどこでも同じだと思います。違うチームでチャレンジし、違うものを吸収することが、私にとっては良い経験になっています。
2019年のW杯にむけて
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現在はアメリカの「シアトル・レインFC」で活躍する川澄選手

 鈴田 最後に日本の医療を地域で支える医師・歯科医師に対するメッセージと、今後の意気込みを教えてください。
 川澄 先生方がいてこそ私たちの健康が保たれています。スポーツを医師・歯科医師の先生方から支えてもらえることを、とても心強く思います。みなさんの働きに感謝している人はたくさんいることを忘れないでほしいです。
 2020年の東京五輪の前年には、女子サッカーのW杯がフランスで開催されます。そこへ向け、まず日本代表になるため、所属しているチームで結果を残し、メンタルやフィジカルで100%の力が発揮できるようがんばっていきたいです。そしてW杯では金の紙吹雪を浴び、優勝トロフィーを日本に持って帰りたいと思っています。ぜひ女子サッカーに引き続きのご支援をお願いします。
 鈴田 全国の医師・歯科医師が応援していますので、引き続きがんばってください。これからも活躍を期待しています。
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