2017年10月25日(1860号) ピックアップニュース
「保険でより良い歯科」連絡会 10・8市民公開シンポジウムを開催
健康格差解消へ社会的対応を
シンポジウムで報告した(左上から時計回りに)加藤擁一副理事長、村尾政樹氏、安藤千晶氏、コーディネーターの足立了平副理事長
シンポジウムでは、足立了平神戸常盤大学短期大学部教授(協会副理事長)がコーディネーターを務め、加藤擁一協会副理事長、公益財団法人「あすのば」の村尾政樹事務局長、静岡県社会福祉士会の安藤千晶副会長が報告した。
加藤副理事長は協会が実施した「2016年学校歯科治療調査」の結果について、歯科受診を要する子どもの未受診率が65%、口腔崩壊の子どもがいる学校が35.4%に上るなどの特徴は、他府県6協会の調査と同じ傾向で全国的に同様の状況が推測されるとした。
「治療に行かない・行けない」原因や口腔崩壊の背景に、「知識・関心がない」だけでなく「時間がない」「お金がない、いくらかかるか心配」といった複合した原因があるとした。虫歯放置・口腔崩壊を子どもの人権問題として行政に調査と対策を求め、子ども医療費無料化、現行の助成制度の周知徹底、歯科受診による休みを保障する労働環境の改善、検診だけに終わらせない養護教諭や学校歯科医との連携、貧困・格差解消のための社会保障の拡充が必要とした。
村尾氏は「あすのば」が、子どもの貧困対策センターとして、子どもの視点に立った対策を推進しているとして、実態に基づく政策提言や法律改正を進める事業、支援者のつながりづくり、入学・新生活を迎える子どもへの応援給付金の支援などを紹介。「あすのば」の事業を通し見てきた子どもの貧困について、経済的な理由で子どもが夢や目標をあきらめずに済む社会環境が必要だとした。村尾氏自身が母親を早くに亡くし父子家庭で育った経験を語り、「私が幼い頃は地域で気にかけてくれる人がいたが、今はそういったつながりが希薄になっている。地域で子どもを見守る社会づくりも必要」とした。
安藤氏は、社会福祉士として自身が経験した相談について、相談者の特性を理解し、医学的な診断を根拠にして支援体制を構築していると紹介。歯科受診に至るまでの相談者の様々な困難も紹介し、口腔崩壊の発見は生活困窮・障がいの早期対応につながるので、歯科医師の校医・園医の役割が重要だと語った。また、自身も参加する医療福祉なんでも相談会での取り組みで、弁護士、医師、社会福祉士などの様々な職種が連携し相談者をサポートしていることを紹介し、多職種連携の重要性を強調した。
連絡会世話人で歯科技工士の雨松真希人・「保険で良い歯科医療を」全国連絡会会長が開会あいさつ、川村雅之協会副理事長が閉会あいさつし、「保険でよい歯科」署名協力の訴えと、10月に発行した書籍『口から見える貧困〜健康格差の解消をめざして〜』を紹介した。
感想文
10・8 歯科シンポジウム
貧困家庭に手を携え幸せを共感できる社会に
10・8市民公開シンポジウムに参加した喜井恭子先生の感想を紹介する。
日頃から貧困の中にいる子どもたちに関心があり、今回市民シンポジウムに参加させていただき感謝いたします。加藤先生から学校歯科治療調査結果から見える子どもの貧困、村尾先生から実際にご自身が子どもの頃に経験されたこと、今実際に支援を必要としている子どもたちとの関わりの中で見えない貧困を可視化し、具体的な取り組みをされていること、また安藤先生から行政の立場から見えてくる貧困の実態を教えていただきました。
先生方からのお話を聞き、なかなか日常の診療だけでは知り得ないこと、また今回キーワードでもある口腔崩壊という状況を生み出すのは単に自己責任ではなく、経済的困難や時間的余裕のなさや知識不足などの多くの問題が絡み合った社会的背景が大きく関与していることを教えていただきました。
1人でも多くの貧困の中にいる子どもたちを、私たち大人がつくり出した社会の犠牲者にしないために、私たち大人が上から手を差し伸べるのではなく、下まで降りて上に引き上げる必要性を強く感じました。幸せは他者と比較することではなく、個々が幸せを感じられる社会を皆で共有することが大切だと思います。経済的貧困がひいては精神的貧困を招かないようにすることが急務だと思いました。
【美方郡・歯科 喜井 恭子】