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兵庫保険医新聞

2017年11月15日(1862号) ピックアップニュース

特別インタビュー 〝はみがきは気持ちいい〟 障害児に歌でメッセージ
兵庫教育大学学校教育研究科 高野美由紀 教授

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兵庫教育大学学校教育研究科 高野美由紀教授
【たかの みゆき】京都府立医科大学1988年卒業、博士(医学)。97年4月同大学小児科助手、2000年4月石鎚会田辺中央病院小児科部長、02年1月兵庫教育大学障害児教育講師、07年同大学大学院学校教育研究科准教授、2012年から現職

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聞き手 足立了平新聞部長

 小児科医として兵庫教育大学で特別支援教育に携わる教員を育成し、障害児への歯科保健指導のために「はみがきソング」を作成した高野美由紀先生に、足立了平新聞部長(神戸常盤大学短期大学部教授)がインタビューした。

小児科の臨床から障害児教育へ
 足立 高野先生は小児科医として、兵庫教育大学で特別支援学校の教員養成をされていらっしゃいますが、もともとは臨床をされていて、教育へと転向されたのですね。
 高野 私は新生児が大好きなのですが、NICUで診療していたころに、障害を持った子は退院後にどう成長するのがよいのかを知りたくなり、障害児教育に関わりたいと今の職に就きました。
 足立 私も西市民病院にいた時に阪神・淡路大震災に遭い、災害医療に取り組む中で、災害に強い医療者を育てたいと、大学で教鞭を執るようになりました。教員養成には臨床とは違ったご苦労がおありでは。
 高野 そうですね。小児科医である私に何ができるのか、大学に来た当初は悩みました。障害や障害に併存しやすい疾患を解説したり、医療と教育の連携の重要性を説いたり、親への支援を共に考えることが自分に果たすべきことと考えるようになりました。
 自分の知識・技能を超えることも多く、臨床から離れると最近の医療事情から遠ざかってしまいます。精神科や歯科、言語訓練や作業療法など専門外の知識を要求されることも多く、時には現場にいる医療スタッフを招き、学生とともに学ばせていただいています。
 足立 他領域に関心や専門性がある人たちとつながることで、相互に刺激されることもおありではないでしょうか。
 高野 はい。子どもたちが成長する背景には生理的な安定が重要です。医学と教育がうまくコラボレーションできれば、子どもたちがより成長でき、笑顔が増えていきます。そのことを実感できることが醍醐味でもあります。
特別支援学校で実演「はみがきソング」
 足立 先生は、「はみがきソング」を普及されていらっしゃるんですよね。DVDとパンフレットを先ほど拝見しましたが、先生自らキャラクターに扮して歌っておられますね。
 高野 歯みがきを嫌がる知的障害のある子どもに「はみがきは嫌なもんじゃない、気持ちいい」「食べたらみがこう」というメッセージになるといいなと願って作りました。
 足立 知的障害や重症心身障害児との対話でのオノマトペ(擬音語・擬態語)について研究された成果でもあるそうですね。
 高野 はい。科研費助成研究「対話困難の解決に貢献するオノマトペの運用と表現について」の中で作成し、県内の特別支援学校を中心に配布しました。
 音楽療法士の梅谷浩子先生の作詞作曲をもとに、言語学者の有働眞理子先生と小児科医の私が協力して知的障害児にとってもわかりやすい表現に修正し、振り付けを加えたものです。
 足立 どういうアイデアでこの歌が生まれたんでしょうか。
 高野 施設職員と知的障害児が歯みがきをめぐって格闘しているのを目撃していた梅谷先生のところに〝天から降ってきた〟歌が基になっています。歌に登場する3人のキャラクター、キャサリン(お菓子大好き女の子)を梅谷先生、ミュータンス(むし歯のばい菌)を有働先生、はみがきマン(みんなの歯を守る)を私が演じています。
 足立 テクノポップ調の歌もありましたね。
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「はみがきソング」DVDとパンフレット。音楽療法士・言語学者の仲間と協力し作成した

 高野 悪のミュータンスが抱く正義へのあこがれ、葛藤を大人っぽく歌う「ぼくはミュータンス」です。もう1曲、ゆったり安心したなかで仕上げみがきをしてもらう「しあげみがきのうた」の3曲で、DVDを作成しました(右写真)。
 今年8月20日に県立出石特別支援学校みかた校の保護者が主催する「ふれあい交流コンサート」では、このDVDを基にしたミュージカルを行いました。私たちが保護者や児童生徒、教員とともに出演し、歯みがきの仕方について養護教諭のお話を挟みました。
障害児の口腔の現状実態調査が必要
 足立 特別支援学校に通う子どもたちの口腔の現状はどうでしょうか。
 高野 とても気になっています。知的障害をもつ成人の方の健康では、肥満、てんかん、皮膚疾患とともにう歯(虫歯)や歯肉炎が課題に挙がります。ところが、歯科の専門家ではない大学教員にとっては、子どもたちについて文献等から歯科の情報を探してもほとんど見つかりません。
 一方、毎年出される学校保健統計の児童生徒一般の情報では、う歯の割合の減少傾向が続き、歯科保健の成果が見て取れます。個人的な印象ですが、特別支援学校でも、口腔の状態がいい子どもが増えてきているのではないかと思います。
 足立 二極化が起きているのではないでしょうか。高校生の歯科健診をしていますが、昔と比べはるかに虫歯は減っているなか、100人に5人程度は5本から10本も虫歯のある生徒がいます。健康な歯の生徒とそうでない子の差が大きく、中間の状態の生徒がほとんどいないことも引っかかります。
 高野 知的障害等がある子どもの口腔でもその可能性が推察されます。実態調査が必要です。
子どもの口腔状態改善のためには
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特別支援学校の生活単元「はみがきをしよう」での協力出演(右から、ミュータンスの有働眞理子、キャサリンの梅谷浩子、はみがきマンの高野美由紀)

 足立 今回、インタビューするきっかけとなったのが、協会が実施した「学校歯科治療調査」に、ご関心をいただいたことでした。
 高野 就学期の障害を持つ子どもの口腔内の状況が知りたかったため、この調査は大変うれしかったです。
 特別支援学校の状況として、一般の小・中・高校と比べて、要受診の割合と未受診率が高く、子どもたちをもっと歯科医療につなぐ必要があることが明らかになったと思います。一方、特別支援学校での歯科保健指導は、歯みがきが100%、フッ化物は13.33%と他の校種と比べると高く、歯科保健指導、特に歯みがき指導は行き届いていることが伺えました。
 これを踏まえますと、歯みがき指導だけでは不十分な可能性が見えてきたと思います。ある特別支援学校の保護者に行った調査では、歯みがきを嫌がる子どもも特に低学年で多く、保護者が仕上げみがきに困らないような工夫も必要なのではないかと考えています。歯科医療と学校、保護者が連携していくことが重要と考えます。
 足立 家庭での歯の悩みについて、学校で個別相談などができれば保護者は心強いでしょう。障害児の治療は時間がかかりますが、今の診療報酬体系で十分に評価されておらず、歯科医療機関の採算がとりにくいことも課題ですね。
 高野 ええ。一般の公立学校では、未受診率は、小−中−高校と年齢が上がるにつれ、増加しています。口腔ケアを一生涯続けていく必要があることを考えると、就学期後半の歯科保健教育の充実、キャリア教育(トライやるウィークの実施施設として歯科医療施設を増やすなど)との関連付けなど、いくつかの仕掛けがあればいいかと思います。フッ化物の応用の推進も望まれるでしょう。
 足立 調査では、口腔崩壊の子どもの家庭状況として、ひとり親、理解不足、経済的困難の割合が高いことがわかりました。
 高野 保護者だけに任せず、保健や福祉と教育等とのネットワークによるサポートのもと、早期に継続的に歯科を受診していくことが求められると思います。健診・予防体系の見直しも必要かもしれません。例えば生後2カ月ごろから予防注射のために小児科を受診しますが、これは早期にかかりつけ医を持つことにつながります。歯科医療機関で健診や予防処置をする方向や、保健センターや学校から、より確実に歯科医療機関につなぐことを考えていけばいいかと思います。
 足立 「学校歯科治療調査」結果をまとめた協会の新著『口から見える貧困 健康格差の解消を目指して』は、口腔崩壊に至るまで歯科治療が放置される原因には、知識不足だけでなく経済的貧困や時間的余裕のなさなどが複合的にあるのではと分析しています。
 高野 おっしゃるように、根っこの部分には貧困があると思います。
 足立 私たちは新著で、口腔崩壊をなくすために、高野先生がおっしゃるような子どもたちへの個別的対応とともに、行政による実態把握、高校までの医療費無料化、より抜本的には歯科受診にアクセスしやすいよう労働環境の改善、貧困・格差を是正する社会保障の拡充など10の提言をしています。
 これを機会に子どもの医療と教育を通じて多職種間のネットワークを広げていければと思います。今後ともよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
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