2017年11月15日(1862号) ピックアップニュース
マイナス改定ありきの議論中止を
財務省 診療報酬▲2.5%超を主張
来年度の診療報酬改定に向け、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会で10月25日、財務省は「2%半ば以上のマイナス改定が必要」との方針を明らかにした。国民に必要かつ十分な医療を提供するためにも、このような路線は決して容認できない。財務省の一面的、誘導的な理論展開とその矛盾点を解説する。
政策解説
財務省は、診療報酬について「医療サービスに対する公定価格であるため、医療機関から見れば収入となるものである一方、国民から見れば受診にかかる『料金』に相当する。また、その総額である『医療費』は、国民の保険料・税・自己負担で賄われることとなる」と述べている。確かに文言どおりであるが、診療報酬を患者・国民の費用負担と単純に結び付け、その本質を覆い隠すものであると言わざるをえない。
診療報酬は、単なるサービスや商品の取引単価ではない。国民が受けられる医療の範囲や量を国家が定めるものであり、医療の質を左右するだけでなく、医療機関の経営方針やその存続、ひいては地域医療の提供体制すら変えてしまうものである。その点数設定や保険収載の可否によっては、国民に必要な医療が提供されず、その安全性にも影響し、多くの国民が命や健康にかかわる不利益を被ることになりかねない。
「診療報酬の引き下げ=価格が安くなる」というのは一面的な捉え方である。国民が受ける医療行為の質と量、あるいは安心・安全の医療にとって決してプラスにはならないということを忘れてはならない。
診療報酬をマイナス改定しても、より多くの医療行為を行うため、医療機関の収入は減らないというのである。
診療報酬の約半分は人件費、残りは医薬品費、委託費、経費など医療機関外への支払いで、医療機関の利益率は2%と言われている。
医療現場は、少ないスタッフの給与を抑制し、過重な労働と経営努力により、必要な医療を提供している。これ以上医療行為を増やすことになれば、医療機関の人員不足は悪化し、現場はさらに疲弊し、患者・国民の命と健康に悪影響を及ぼしかねない。
こうしたことから、この比較は診療報酬引き下げという結論ありきの恣意的なものであると言わざるを得ない。そもそも、診療報酬や医療職種賃金の水準を、なぜ民間給与や物価水準に合わせて下げなければならないのか、疑問である。
政府は2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」で、最低賃金の「年3%程度の引き上げ」を盛り込み、首相みずから、経団連などの財界首脳にベースアップ(ベア)の実現を求め、春闘では4年連続のベアを実現している。その背景には、大幅に改善した企業収益を賃金の上昇に結びつけ、消費の増加などを実現する「経済好循環」を起こすという政府の方針がある。
「経済好循環」を起こすためにも、300万人以上の医療従事者の給与の源泉である診療報酬の引き上げが必要である。診療報酬を下げておいて、賃金3%上昇は不可能である。
実態を反映していないとの批判もあるが、今回公開された「第21回医療経済実態調査」では、「病院経営が悪化していることは明らかだ」「民間医療法人では経営を継続することが厳しいほど悪化している」との意見が中医協委員からも上がっている。医療従事者の技術の正当な評価と医療施設の基盤強化のためには、診療報酬引き上げが必要である。
そもそも、なぜ国民の負託を受けていない民間委員ばかりの財政制度等審議会が診療報酬改定率について数字を挙げて議論を行うのか。国民の命や健康に直結する医療は、経済活動に合わせるべきではなく、国民のニーズに応え、社会的共通資本として専門家が管理し責任を負うものである。
財務省の役割は、財政民主主義のもと「量出制入」の原則に基づき国民に必要な政策を実施するために、行き過ぎた大企業・富裕層優遇の税制を改め、応能負担の原則に基づいて必要な財源を確保することである。私たちは、国民の健康と命を守る団体として、引き下げられ続けてきた診療報酬の大幅なプラス改定を要求するものである。
政策解説
現場を見ない財務省改定方針は問題点だらけ 協会政策部
財務省は、診療報酬について「医療サービスに対する公定価格であるため、医療機関から見れば収入となるものである一方、国民から見れば受診にかかる『料金』に相当する。また、その総額である『医療費』は、国民の保険料・税・自己負担で賄われることとなる」と述べている。確かに文言どおりであるが、診療報酬を患者・国民の費用負担と単純に結び付け、その本質を覆い隠すものであると言わざるをえない。診療報酬は、単なるサービスや商品の取引単価ではない。国民が受けられる医療の範囲や量を国家が定めるものであり、医療の質を左右するだけでなく、医療機関の経営方針やその存続、ひいては地域医療の提供体制すら変えてしまうものである。その点数設定や保険収載の可否によっては、国民に必要な医療が提供されず、その安全性にも影響し、多くの国民が命や健康にかかわる不利益を被ることになりかねない。
「診療報酬の引き下げ=価格が安くなる」というのは一面的な捉え方である。国民が受ける医療行為の質と量、あるいは安心・安全の医療にとって決してプラスにはならないということを忘れてはならない。
診療回数増やせば収入は減らない?
財務省は「診療報酬総額は、『診療行為』×『単価』であるが、『診療行為』が高齢化・高度化により毎年増加。...診療報酬改定が一定程度マイナスであったとしても、診療報酬総額は増加するため、医療機関の増収は確保される」としている。診療報酬をマイナス改定しても、より多くの医療行為を行うため、医療機関の収入は減らないというのである。
診療報酬の約半分は人件費、残りは医薬品費、委託費、経費など医療機関外への支払いで、医療機関の利益率は2%と言われている。
医療現場は、少ないスタッフの給与を抑制し、過重な労働と経営努力により、必要な医療を提供している。これ以上医療行為を増やすことになれば、医療機関の人員不足は悪化し、現場はさらに疲弊し、患者・国民の命と健康に悪影響を及ぼしかねない。
マイナス改定ありきの統計操作
財務省は「診療報酬本体の水準は、賃金や物価の水準と比べて、高い水準となっており、...本体のマイナス改定により、これを是正していく必要がある」ともしている。この比較は95年を基準年としているが、根拠はあいまいである。アベノミクスが始まった12年を100とすると、賃金指数は103、消費者物価指数が104となるのに対し、診療報酬本体は101となり、低い水準に抑えられている(下図)。こうしたことから、この比較は診療報酬引き下げという結論ありきの恣意的なものであると言わざるを得ない。そもそも、診療報酬や医療職種賃金の水準を、なぜ民間給与や物価水準に合わせて下げなければならないのか、疑問である。
経済好循環のためにも診療報酬引き上げを
財務省は「主な医療関係職種の給与水準は、加重平均でみて、上昇トレンドを続けてきた」と、診療報酬引き下げを主張している。しかし、わずかな「上昇トレンド」よりも、全体の給与水準が安定的に上昇していないことこそ解決すべき課題である。政府は2016年6月に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」で、最低賃金の「年3%程度の引き上げ」を盛り込み、首相みずから、経団連などの財界首脳にベースアップ(ベア)の実現を求め、春闘では4年連続のベアを実現している。その背景には、大幅に改善した企業収益を賃金の上昇に結びつけ、消費の増加などを実現する「経済好循環」を起こすという政府の方針がある。
「経済好循環」を起こすためにも、300万人以上の医療従事者の給与の源泉である診療報酬の引き上げが必要である。診療報酬を下げておいて、賃金3%上昇は不可能である。
「量出制入」「応能負担」で財源確保を
02年以降、マイナス改定が繰り返された結果、医療機関は疲弊している。実態を反映していないとの批判もあるが、今回公開された「第21回医療経済実態調査」では、「病院経営が悪化していることは明らかだ」「民間医療法人では経営を継続することが厳しいほど悪化している」との意見が中医協委員からも上がっている。医療従事者の技術の正当な評価と医療施設の基盤強化のためには、診療報酬引き上げが必要である。
そもそも、なぜ国民の負託を受けていない民間委員ばかりの財政制度等審議会が診療報酬改定率について数字を挙げて議論を行うのか。国民の命や健康に直結する医療は、経済活動に合わせるべきではなく、国民のニーズに応え、社会的共通資本として専門家が管理し責任を負うものである。
財務省の役割は、財政民主主義のもと「量出制入」の原則に基づき国民に必要な政策を実施するために、行き過ぎた大企業・富裕層優遇の税制を改め、応能負担の原則に基づいて必要な財源を確保することである。私たちは、国民の健康と命を守る団体として、引き下げられ続けてきた診療報酬の大幅なプラス改定を要求するものである。
図 診療報酬本体と賃金・物価の動向(2012年度=100)