兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2017年12月05日(1864号) ピックアップニュース

燭心

 ワイドショーは連日、日馬富士問題で盛り上がっている。角界OBや街の声は意外だった。「格上の者に対して意見を言うのはダメだ、日本の国技である相撲道の精神が崩れる」らしく、一般の人にも「ある程度の仕置きは必要」という容認派が少なくない。どうやら、相撲界では格下の者が自由に物を言うのはご法度であり、その伝統のためなら暴力も辞さないという感覚が一般社会にも浸透しているようだ▼学生スポーツでも体罰の是非がいまだに議論されるが、根底には忠誠心や耐え忍ぶことを美徳とし、社会やチームの流れにとって不都合な者を悪とみなす全体主義的な考えが見え隠れする。人権は尊重されず、個人の自由は消滅しコントロールされていく。道徳の教科化や愛国教育の導入によって、体制の維持にとっては好都合な精神が凡庸な人々の中に醸成されていくのだろう▼『全体主義の起源』の著者ハンナ・アーレントは、「全体主義は、明確な意思を持った『市民』ではなく、大多数を占める政治や社会に無関心な『大衆』による運動」だという。社会情勢が不安になれば、大衆は強いリーダーを求めるようになる▼憲法論議、北朝鮮問題のように、安直な二者択一論や仮想敵の設定によって大衆は国民投票という土俵の上にあげられる。白星に浮かれる安倍政権の暴力まがいの仕打ちに対して、果たして日馬富士を擁護する人たちは物言いをつけられるのか。大衆はまったなしの正念場を迎えている(九)
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