兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2018年8月05日(1885号) ピックアップニュース

燭心

 経済学には物理学のような確固たる土台は存在しない。ある学者は「食べたらなくなる−以外の法則はない」とまで言い切る。対立する経済理論がノーベル経済学賞を同時受賞することも珍しくない。偉い学者が常に正しいとは言えないのだ▼経済学は「科学」に近寄るため「政治的」価値判断からの中立性を装い表面を数学的に取り繕う。ナシム・ニコラス・タレブは「等式の陰にいかさまを隠せる。統制された実験などないので誰にも暴けない」と言う。NASAがスペースシャトルを飛ばす科学性とはレベルが異なる▼所詮経済学は、個人の信じる価値観とは無縁でいられず、政治的プロパガンダとしての性質から逃れられない。国家体制の下部に位置し、基本的な原理の発見ではなく、政治的な利用価値がないと誰も振り向かない▼70年代以降シカゴ学派がノーベル経済学賞を席巻し、競争と自由市場の有効性を万能とする「価値感」が生み出した理論が、世界的な規制緩和や金融市場の自由化、公的部門縮小の原動力となった。経済学は「規範的」な側面を持つため道徳的な価値判断が入り込む。残念ながら世界を見渡せば、現状の経済学では不況や格差などの社会問題を解決することは不可能だ▼いわゆる「骨太の方針」を決めるメンバーは学者、政治家、経営者である。中立性を装った経済学の論理や数字に騙されず、提言する個人の「語られない価値観」を見抜き自身の「規範」を問い直し、直観を信じても臆することはない(空)
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