2018年11月25日(1895号) ピックアップニュース
政策解説 みんなでストップ! 患者負担増(2)
後期高齢者の窓口負担原則2割化
「高齢社会危機論」四つの誤りを斬る
政府が進める患者負担増計画の内容について、解説シリーズ第2回目は「後期高齢者の窓口負担原則2割化」について解説する。
「75歳以上の後期高齢者の自己負担は2割とすべき」。財務省はこれまで繰り返していた主張を10月9日、財政制度等審議会財政制度分科会にあらためて提出した。
だが年金で暮らす高齢者にとって医療費窓口負担倍増の影響は大きく、受診抑制が強まることは必至である。財務省はこの改悪について、四つの理由(1)後期高齢者数の増加、(2)支える現役世代の保険料や税の負担が重くなる、(3)世代間の公平、(4)制度の持続可能性の確保、を挙げている。
後期高齢人口が増える
まず「後期高齢者数の増加」である。国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(2017年度推計)」によると、75歳以上の後期高齢者人口は、20年の1872万人から27年の2255万人へと、2割増となるが、その後はほぼ横ばいから微増で、54年をピークに減少に転じる(図1)。
2027年までに2割増となるのは、団塊の世代が22年以降に75歳以上となるためで、後期高齢者人口増は、一時的なものである。20年とピーク時の54年を対比しても、1.3倍増で、34年間でならせば年平均0.9%の増加にすぎない。第2次安倍政権の実質経済成長率は年平均1.4%であり、経済成長により社会保障費増加を吸収することは十分可能である。
後期高齢者人口の増加は、政府財政を圧迫するほどのものではないのが実際なのである。
現役世代の負担が重くなる
第2の理由は「支える現役世代の保険料負担が重くなる」というものである。現状の保険制度で現役世代が支えているのは、協会けんぽや健保組合への保険料拠出だけではない。後期高齢者医療支援金と、国保に対する前期高齢者納付金の二つの拠出金を出している。しかし、そもそも退職者のために社保が財源負担する理由はなく、本来は国庫負担すべきものを社保に押しつけているのである。しかも健保財政の半分を拠出金が占めるのはあまりにも重過ぎる負担であるが、こうした健保への負担増を進めてきたのは、政府である。
その上、政府は後期高齢者支援金や国保の前期高齢者納付金の算定に「総報酬割」を導入した。
これは、相対的に所得の高い健保組合からの拠出金を増やし、逆に所得の低い協会けんぽからの拠出金を縮小するもので、一見合理性がある。しかし政府は、協会けんぽの財政負担が軽くなったことを口実に、協会けんぽへの国庫負担を削減した。つまり、協会けんぽをトンネルにして、健保組合の負担で国庫負担を削減したのである。健保組合からも協会けんぽからも、「総報酬割を利用した国庫負担削減策だ」と痛烈な批判が巻き起こったのは当然である。
政府は「現役世代の負担が重くなる」ことを理由に後期高齢者の窓口負担増を進めようとしているが、狙いは、あくまで国庫負担削減である。「現役の負担」を重くしているのは、国庫負担を現役世代に肩代わりさせている政府にほかならないのである。
世代間の公平
第3の理由は「世代間の公平」である。後期高齢者の窓口負担率は確かに現役世代より低い。しかし、現役の有病率は、高齢者よりも絶対的に少なく、受診頻度も低い。健康な人なら年に一度も受診しないこともあるだろう。しかし後期高齢者は現役世代より有病率が高く、ほとんどが毎月受診し、しかも複数科を受診する。後期高齢者の窓口負担の実額は、現役より何倍も重い。わずか月額6万円程度の老齢基礎年金では基礎的な生活費すらまかなえないことは政府自身も認めている。このような有病率や受診率の違い、低年金を無視して、後期高齢者と現役世代を比較して「公平」論で並べること自体、高齢者の生活実態を無視するものである。
政府は、世代間を天秤にかけて、ひたすら負担を重くするためだけに「公平」を掲げてきたが、真に「公平」を論じるのであれば、負担を軽くする方向で論じるべきで、それこそが憲法25条が政府に求めるものである。
制度の持続可能性維持
第4の理由は「制度の持続可能性を維持する」である。政府はこの言葉を繰り返し使ってきたが、制度の持続可能性を維持するためには、患者窓口負担増ではなく、国庫負担を増やすための税収を確保することである。にもかかわらず、政府がこの間、法人税や所得税の減税を進め、税収を縮小し国債を発行していることは、すでに本紙11月5日号で解説済みであるが、消費税増税との関係でも追記しておきたい。それは政府は、消費税増税の度に「消費税増税は社会保障に使う」としながら、国債償還にあてていることである。これについて財務省は、国債発行は社会保障のためだから、償還にあてることは社会保障に使うことだと強弁しているのである。
このような偽りの説明では、わが国の社会保障は守られない。減税しすぎた法人税・所得税率を元に戻して財源を確保し、高齢者の窓口負担を軽減することこそ、高齢社会に対する処方箋である。
「75歳以上の後期高齢者の自己負担は2割とすべき」。財務省はこれまで繰り返していた主張を10月9日、財政制度等審議会財政制度分科会にあらためて提出した。
だが年金で暮らす高齢者にとって医療費窓口負担倍増の影響は大きく、受診抑制が強まることは必至である。財務省はこの改悪について、四つの理由(1)後期高齢者数の増加、(2)支える現役世代の保険料や税の負担が重くなる、(3)世代間の公平、(4)制度の持続可能性の確保、を挙げている。
後期高齢人口が増える
2027年以降は横ばい
まず「後期高齢者数の増加」である。国立社会保障・人口問題研究所による「日本の将来推計人口(2017年度推計)」によると、75歳以上の後期高齢者人口は、20年の1872万人から27年の2255万人へと、2割増となるが、その後はほぼ横ばいから微増で、54年をピークに減少に転じる(図1)。2027年までに2割増となるのは、団塊の世代が22年以降に75歳以上となるためで、後期高齢者人口増は、一時的なものである。20年とピーク時の54年を対比しても、1.3倍増で、34年間でならせば年平均0.9%の増加にすぎない。第2次安倍政権の実質経済成長率は年平均1.4%であり、経済成長により社会保障費増加を吸収することは十分可能である。
後期高齢者人口の増加は、政府財政を圧迫するほどのものではないのが実際なのである。
現役世代の負担が重くなる
狙いは国庫負担削減
第2の理由は「支える現役世代の保険料負担が重くなる」というものである。現状の保険制度で現役世代が支えているのは、協会けんぽや健保組合への保険料拠出だけではない。後期高齢者医療支援金と、国保に対する前期高齢者納付金の二つの拠出金を出している。しかし、そもそも退職者のために社保が財源負担する理由はなく、本来は国庫負担すべきものを社保に押しつけているのである。しかも健保財政の半分を拠出金が占めるのはあまりにも重過ぎる負担であるが、こうした健保への負担増を進めてきたのは、政府である。その上、政府は後期高齢者支援金や国保の前期高齢者納付金の算定に「総報酬割」を導入した。
これは、相対的に所得の高い健保組合からの拠出金を増やし、逆に所得の低い協会けんぽからの拠出金を縮小するもので、一見合理性がある。しかし政府は、協会けんぽの財政負担が軽くなったことを口実に、協会けんぽへの国庫負担を削減した。つまり、協会けんぽをトンネルにして、健保組合の負担で国庫負担を削減したのである。健保組合からも協会けんぽからも、「総報酬割を利用した国庫負担削減策だ」と痛烈な批判が巻き起こったのは当然である。
政府は「現役世代の負担が重くなる」ことを理由に後期高齢者の窓口負担増を進めようとしているが、狙いは、あくまで国庫負担削減である。「現役の負担」を重くしているのは、国庫負担を現役世代に肩代わりさせている政府にほかならないのである。
世代間の公平
有病率の高さを無視
第3の理由は「世代間の公平」である。後期高齢者の窓口負担率は確かに現役世代より低い。しかし、現役の有病率は、高齢者よりも絶対的に少なく、受診頻度も低い。健康な人なら年に一度も受診しないこともあるだろう。しかし後期高齢者は現役世代より有病率が高く、ほとんどが毎月受診し、しかも複数科を受診する。後期高齢者の窓口負担の実額は、現役より何倍も重い。わずか月額6万円程度の老齢基礎年金では基礎的な生活費すらまかなえないことは政府自身も認めている。このような有病率や受診率の違い、低年金を無視して、後期高齢者と現役世代を比較して「公平」論で並べること自体、高齢者の生活実態を無視するものである。政府は、世代間を天秤にかけて、ひたすら負担を重くするためだけに「公平」を掲げてきたが、真に「公平」を論じるのであれば、負担を軽くする方向で論じるべきで、それこそが憲法25条が政府に求めるものである。
制度の持続可能性維持
社会保障は国債発行の主犯にあらず
第4の理由は「制度の持続可能性を維持する」である。政府はこの言葉を繰り返し使ってきたが、制度の持続可能性を維持するためには、患者窓口負担増ではなく、国庫負担を増やすための税収を確保することである。にもかかわらず、政府がこの間、法人税や所得税の減税を進め、税収を縮小し国債を発行していることは、すでに本紙11月5日号で解説済みであるが、消費税増税との関係でも追記しておきたい。それは政府は、消費税増税の度に「消費税増税は社会保障に使う」としながら、国債償還にあてていることである。これについて財務省は、国債発行は社会保障のためだから、償還にあてることは社会保障に使うことだと強弁しているのである。このような偽りの説明では、わが国の社会保障は守られない。減税しすぎた法人税・所得税率を元に戻して財源を確保し、高齢者の窓口負担を軽減することこそ、高齢社会に対する処方箋である。
図1 2020年を100とした75歳以上人口の推計