2018年12月05日(1896号) ピックアップニュース
燭心
「城跡の石垣に立てば町が一望なんだ。城の周囲が御徒士町をはじめとする武家屋敷。その外側に商人町。呉服町だとか魚屋町だとかの町名がそのまま残り、河原町というところには妻入りで白壁造りの町屋が何十軒も並んでいる」、志水辰夫氏の小説の一節である。主人公が、故郷に来てくれないかとプロポーズする場面だ。地名は書かれていなくとも、ピンと来る方も多いだろう▼その町で、先日市名の変更を問う住民投票が行われた。「信を問う」として市長も辞任し、市長選挙も行われた。69%の投票率というから、関心は高かったようだ。過半数の信を得て「丹波篠山市」に変更される運びとなった。市長も現職が当選した。地名に愛着や関心が深いことは有難いことだ。大都市では、こうはいくまいと思う。しかし、あえて疑問を呈したい▼本当に信を問うべきは、住民が安心して暮らしていける町づくりなのではないかと。存廃が危ぶまれたささやま医療センターは、とりあえず存続と決まったが、今後どうなるか分からない。まわりに目を向ければ、県立柏原病院と柏原赤十字病院が統合され、病床が削減される。三田市民病院と済生会兵庫病院も統合の計画が進められていると聞く▼全国で病床数を33万床も減らす「地域医療構想」に沿って、県は公的病院の統廃合を進める。冒頭の主人公が今どうしているのかは分からない。町の片隅で幸せに暮らしていてくれることを願うが、暮らしを支える地方自治が、求められている(星)