兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2019年1月05日(1898号) ピックアップニュース

新聞部の会員訪問 今年はラグビーW杯日本開催
ドクターとしてチーム支える

 今年はラグビーワールドカップ(W杯)が日本で開催され、神戸も試合会場となる。この運営にも携わる神戸製鋼コベルコスティーラーズ(以下、神戸製鋼)チームドクターの高橋完靖先生にラグビーW杯にかける思いや、チームドクターとしての目標について、新聞部の口分田真理事がインタビューした。

大学時代転機となった試合
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東灘区・甲南病院整形外科部長
高橋 完靖先生
【たかはし まさやす】2000年徳島大学医学部卒業後、神戸大学整形外科に入局、その後、三田市民病院、兵庫県立加古川病院などの勤務を経て、2007年より神戸大学大学院、2010年より甲南病院勤務。2007年より神戸製鋼kobelco steelersのチームドクターを務める

 口分田 本日はよろしくお願いいたします。この会員証みたいなものは何ですか。
 高橋 これは神戸製鋼のチームドクターであることを示すタグです。これはVIPルーム以外はスタジアムのどこでも入れることを表しています。ピッチエリアももちろん入れますよ。
 口分田 試合の時には、これを首からかけていらっしゃるのですね。チームドクターならではのアイテムですね。
 先生ご自身も大学時代からラグビーをされていたとか。
 高橋 はい。徳島大学に合格して、部活を探していると「ラグビー部は練習が大変だからやめた方が良いよ」と言われたのですが、ラグビー部の部員だけは、他の部活のことを悪く言わなかったんですね。それが好印象で、入ってみようかな、と思ったのがきっかけです。高校のときはゴルフ部だったので、ラグビーとの出会いはその時ですね。
 口分田 ラグビーをやめようと思ったことはなかったのですか。
 高橋 実は大学1年の頃は、練習がきつかったので、やめようと思っていました。肋軟骨を痛めたりしたので、これ幸いと、治ってからも練習を休んでいたりしました。しかし、ある試合がその考えを変えたのです。
 高知医大との定期戦で、選手が少なく、線が細い選手もスタメンで出ていて、試合の前から負けるだろうな、と感じていました。ところが、雨が降りしきる中、チーム一丸となってなんとか守り抜いて、勝利を収めたのです。もちろんチームは大いに盛り上がったのですが、私は怪我を理由に出場していなかったので、その輪に加われなかったんですね。そこで「ああ、自分は一体何をしていたんだろう。他の選手はみんな頑張っていたのに」と思い、真剣にラグビーに取り組むようになりました。その後、キャプテンを務めたときには、西日本医科学生総合体育大会でベスト8に躍進することができました。専門を選ぶときに整形外科の道を選んだのも、ラグビーの役に立てる分野を探した結果です。
今期の神戸製鋼は一味違うぞ
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聞き手 口分田真理事

 口分田 そういうきっかけがあったからこそ、長く続けておられるのですね。その後、神戸製鋼のチームドクターになられました。
 高橋 卒業後、神戸大学整形外科に入局し、大学院時代に当時の医局長の先生が、神戸製鋼のチームドクターのチーフをされていて、その方に拾っていただけたことがきっかけです。ちなみに現在も神戸製鋼のチームドクターは神戸大学整形外科が担っており、私もそのチームドクター陣の一人です。
 口分田 神戸製鋼は強豪チームですが、長い間優勝から遠ざかっているのが残念です。
 高橋 私がチームドクターになって10年ほどになりますが、まだ優勝を経験したことがないんですよね。今年はダン・カーター選手(ワールドラグビーの年間最優秀選手賞に3度輝いたことのある元ニュージーランド代表のスーパースター)が加入しましたが、そのことでチーム内に良い相乗効果が起こり、チームコンディションは過去最高です。私のフェイスブックのトップ写真は優勝したときのものにすると心に決めているので、今年こそ、という気持ちです。(インタビュー後の12月15日、トップリーグで15季ぶりに見事優勝)
W杯開催へ日本中で盛り上がりたい
 口分田 さて、ラグビーといえば、2019年ワールドカップ日本開催です。開催に向けてのお気持ちはいかがですか。
 高橋 日本開催が決定したのは2009年のことでしたが、そのときは本当に信じられない気持ちでいっぱいでした。開催に向けて日本中で熱気が高まっている、とは言えませんが、地上波でも放送されると思うので「こんなスポーツもあるんだな」と皆さんに伝わればうれしいですね。また、選手の目線で言うと、ワールドカップを経験した選手は口をそろえて「他の大会とはぜんぜん違う」と言います。出場した選手は一回りも二回りも成長して戻ってきてほしいですね。
 神戸会場では4試合が行われますが、試合実施にあたり、後方支援病院、キャンプ地の整備など多くの方々が運営に当たります。私も、ワールドラグビーが認定する講習を受け資格を有しており、兵庫県ラグビーフットボール協会の一医師として何らかの形で今回のワールドカップのメディカルサポートをさせていただく予定です。神戸で試合が始まった時にグラウンドでどう感じるのかはその日になってみないと分かりませんが、楽しみしかないというのが本当のところですね。
 口分田 ぜひ日本中で盛り上がっていけたら良いですね。
スポーツドクターの充実を目指したい
 口分田 さて、それでは先生の将来の夢をお聞かせいただけますか。
 高橋 夢はナショナルチームのドクターになることです。もちろん、非常に狭き門ですが、これまで神戸製鋼で培ってきた知見を活かして、ワンランク上のチームドクターを務めたいですね。
 他に目標としては、ラグビーは怪我が多いスポーツですので、怪我の治療や障害予防をもっと充実させたいと考えています。例えば、アメフトでは頸椎損傷などの事故が非常に多かったのですが、歴史の中で怪我を減らすために、ヘルメットなど防具での対策が進みました。しかしラグビーは生身でぶつかることを重視しているスポーツですから、防具も最低限で、危険と隣り合わせと言えます。特に中学生くらいまでの子どもは、成長スピードの差などで体格差も大きいので、より危険が増します。私も現役時代には怪我に悩まされましたし、プレー中の怪我で試合に出られなくなる選手がいるのは本当に残念です。怪我中に無理に練習をしてさらに悪化させる人もいます。
 ラグビーをはじめ、スポーツ界ではドクターによるバックアップ体制がまだまだ不十分です。体制を充実させてドクターとトレーナーが協力して選手一人ひとりに合わせたリハビリを模索しながら行うことで、怪我する前よりもパフォーマンスを向上させることができるのだと、多くのラグビー関係者に知ってもらうことが私の目標です。
スポーツ振興も診療報酬の改善から
 口分田 現状のスポーツ医療について、体制が不十分とありましたが、他に課題はありますか。
 高橋 スポーツに怪我はつきものです。特に成長期で体が未成熟の子供は、体の使い方が上手ではなく無理に体を使うことで傷害が起こることもあります。
 例えば捻挫を繰り返す子がいます。捻挫の予防には損傷部が修復した後に、動作訓練を行うことが望ましいのですが、現在の保険制度の下では、リハビリの時間も制限があり、きちんとした動作を獲得するまでに時間がかかることがあります。これでは復帰を焦り、無理して試合にでて再発することも少なくありません。スポーツ現場から見れば復帰に時間がかかってしまうため、医師に対する不信感にもつながりかねません。
 トップチームの選手の治療に携わることができたので、専門的な治療と集中的なリハビリおよびトレーニングを施すことで、怪我する前よりもパフォーマンスが劇的に良くなることも経験しています。しかし、残念ながら保険診療内では限界があり、同じような治療を受けるには病院外での自費での特別なトレーニングなどが必要となり、金銭的な面からも、ごく一部の人しか治療を受けられないのはもどかしく思います。
 口分田 なるほど、スポーツの分野でも保険診療の範囲が狭いことが問題になっているのですね。保険医協会でも、保険診療の範囲を広げるよう、改善運動にこれまで取り組んできました。医療の拡充を求めて、保険医協会として頑張ってまいります。協会は裾野が広い団体ですので、ラグビーの治療などスポーツ医学・医療の充実にも何らかの形で手を取り合っていけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。
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