兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2019年5月15日(1909号) ピックアップニュース

尼崎市生活保護指定医への個別指導問題 厚労省に要請
一方的返還の是正を
厚労省も市に確認

1909_05.jpg

(左端から)萌クリニックの多田事務長、尼崎医療生活協同組合理事会事務局の岸本氏、協会の森岡副理事長が、尼崎市の生活保護指定医療機関への個別指導の是正を厚労省側(右2人)に要請した

 尼崎市が、生活保護指定を受け医療扶助を提供している会員医療機関に対して「在宅時医学総合管理料(在医総管)算定の重複は、5年間の返還を」「訪問診療をしている患者の中に、通院可能な患者がいる」など、理不尽な指導と返還要求を繰り返している問題で、協会は3月28日、厚生労働省に実態を報告し、見解をただすとともに、昨年末から続いている一方的な指導をやめさせるよう要請した。懇談は、田村智子参議院議員の紹介で実現した。

 この日の要請行動には、協会側は森岡芳雄副理事長、個別指導を受けた萌クリニックの多田安希子事務長、尼崎医療生活協同組合理事会事務局の岸本貴士氏が出席。厚労省からは社会・援護局保護課事業室室長補佐の生沼純一氏、同課医療係の千葉樹氏、保険局医療課企画法令第1係長の若松藍子氏が対応した。協会からの要請に基づき、後日同省からも、尼崎市に対して指導に関する内容照会や考え方の確認を行った。
レセプト突合「自治体に要請」
 「在医総管」は、訪問診療を行った患者一人に対し、月1回、1医療機関が算定できる医学管理料。尼崎市は昨年より、生活保護受給者に対するこの点数算定が重複している医療機関に対して、双方で調整の上で算定する医療機関を決め、5年に遡って返還するよう求める通知を行っていた。
 協会は厚生労働省に対して、医療機関が他院での受診状況を患者から聴取することには限界があること、レセプト審査の段階での疑義紹介や査定・減点などがなかったにもかかわらず、保険者としての点検責任を省みず医療機関のみの責に帰することは不当であること、そうした状況も踏まえずに、過去5年にわたって返還を求めることは著しく妥当性を欠き、手続き的にも問題が大きいことなどを指摘した。
 厚労省は協会の要請を受け、「普段からレセプト点検の実施を自治体には要請している」として、改めて尼崎市に問い合わせることを表明した。
訪問診療の適否「個別状況に応じ判断を」
 協会側は、尼崎市が独自に作成したフローチャートを用いて訪問診療の適否を判定し、それが判断の基本であるかのように機械的に運用している実態を紹介。具体的には、訪問診療の必要性に関する医療機関側の訴えを聞き入れず、市のケースワーカーが「フローチャートに基づき訪問診療は認められない」とした個別事例も示しながら、行き過ぎた指導の是正を求めた。
 これに関しては、参加した萌クリニックの担当者も「尼崎市のフローチャートは、『公共交通機関、タクシーを使えば、家族等の助けを借りずに通院できるか』『扶養義務者、通院介助等の介護のサービスの利用で通院できるか』などの設問に対し、可能・不可能などといった二者択一とし、極めて恣意的に訪問診療否定の方向に誘導することが可能。このようなやり方で、結果的に患者に健康被害などが発生した場合、誰が責任をとるのか」と指摘した。
 これに対して、厚労省は「そもそも嘱託医との協議なしに、市の担当者が事実上訪問診療の適否などの医学的判断をするということは、医療扶助の制度上想定していないし、できない」と回答した。
 フローチャートによる訪問診療の判定について厚労省は、尼崎市に指摘。尼崎市は「訪問診療に関するケースワーカーの初動の判断は誤り」と釈明。「フローチャートは訪問診療の判断の根拠としてではなく、研修用に活用している」と回答した。厚労省は「医療扶助の実施にあたっては、客観的かつ合理的な根拠が必要。医学的判断が必要なものは嘱託医と協議の上、実施すること」「訪問診療の適否は、個別状況に応じてしっかりと判断すること」と重ねて指摘した(※厚生労働省と尼崎市のやり取りは、紹介の田村智子議員を通じて協会に報告があった)。
 協会はまた、尼崎市が当初、生活保護法54条(検査=健保法の監査に当たる)を根拠条文とした実施通知で、医療機関への個別指導を行っていたことを報告。個別指導の根拠条文は50条2項であり「明確な誤りである」と指摘した。厚労省も「個別指導の根拠条文は50条2項なので、これを記載していないのは誤り」だと述べた。
 このように、そもそも通知一つにも正確性を欠く粗雑な体制で、一方的な指導が行われていることは杜撰と言わざるを得ず、福祉事務所のみならず行政と医療機関相互の協力体制にもかかわる重大な問題である。
 協会は今後も会員医療機関からの要求に応じて、必要な対応を行う方針である。
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方