兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2019年5月25日(1910号) ピックアップニュース

協会弁護士ら 指導改善を厚労省に要請
個別指導の法的問題を指摘

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厚労省側(右列)に要請する(左端から)野田弁護士、小牧弁護士、住江保団連会長

 「保険診療法制研究会(法制研)」と協会は4月24日、厚生労働省へ個別指導等の改善を要請。同研究会が今年1月にまとめた「保険医療機関等への指導の現状と改善に向けた提言(以下、「提言」)」をもとに、小牧英夫・野田倫子両弁護士が同省医療課と懇談し、「提言」に対する厚労省の見解を確認した。

 要請には、法制研の両弁護士のほか、住江憲勇保団連会長と兵庫協会事務局が参加。厚労省側は、保険局医療課特別医療指導監査官の川勝誠・坂井寿の両氏と同課医療指導監視監査官の勝谷徹洋氏が対応した。
指導の範囲
健保法の厳密解釈を
 小牧弁護士は厚労省に対し、個別指導の根拠法には一般法の行政手続法と特別法の健保法があり、とりわけ特別法の条文は厳密に解釈されなければならないと説明。「健保法73条で、指導を受ける義務があるのは『療養の給付』に関する指導のみであり、『療養の給付の費用の請求』に関する指導はこれに含まれていないとするのが厳密な解釈だ」と指摘した。
 厚労省は、指導の範囲には「療養の給付の費用の請求」は含むとの見解を示しつつ、「指導大綱や実施要領などは下位通知のようなもので、健康保険法に従ったものでなければならない」との野田弁護士の指摘には「その通りだ」と答えた。
カルテ等の提示
本来は任意協力
 小牧弁護士はまた、「個別指導に当たり、カルテや帳簿等の持参を求めているが、被指導者の任意の同意がない限り、指導担当者を含む厚生局職員が、持参したカルテや帳簿の提示・閲覧を求める権利はない。指導に際しては、あらかじめこのことを実施通知に明記すること」と要請した。
 厚労省は、「指導の根拠である健保法73条では質問検査権がないため、強制的に閲覧することはできない」と任意であることを認めた上で、「そのことを通知に書くかどうかは厚生労働大臣の裁量」「指導に当たって、診療録を含む関係書類の閲覧は必須であり、診療録等を閲覧しなければ指導の目的は達成できない」「閲覧を拒否し、指導ができない場合は、指導を拒否したものと判断し、監査を実施して提示を命じる場合がある」と回答した。
 「指導は任意」「不利益はない」としながらも、実際の運用では「監査」を盾に医療機関に圧力をかける厚労省の対応が浮き彫りになった。
自主返還
金額の多寡干渉せず
 自主返還については、「被指導者は返還を求める指導に従う法的義務はなく、指導に従わなかったことを理由として不利益な取り扱いを受けることはない」と指摘した。
 厚労省も、「個別指導に基づく診療報酬の返還を求める指導は、行政手続法上の行政指導に当たることから、指導に従わなかったことをもって不利益な取り扱いは行わない」と回答。その上で、「保険医療機関は診療内容をルールに従って算定するものであり、算定要件に合致しない請求があれば保険者に返還するのは当然」だとした。
 また、「不正・不当請求に係る診療報酬の返還は、保険医療機関と保険者との間の問題。返還金の指導には法的拘束力がないことに鑑みると、厚生局が返還金額の多寡について意見を述べる等、過度の干渉をしないこと」との要望に対して厚労省は、返還が強制力のあるものではないことを認めつつ、「指導や監査で返還を指示したものは当然、返還手続きを取るよう指導する」とした。
 一方、「自主点検に係るものは、返還されるべき項目が漏れている場合等を除き、指導はしていない」「単に金額が少ないから『もっと出してくれ』と言うのは考えられない」とも述べた。
協会弁護士ら指導改善を厚労省に要請
算定要件の判断は慎重に
 「算定要件」について野田弁護士は、「健保法76条には『療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣が定めるところにより算定する』とあり、診療行為ごとのカルテへの記載事項を定めているのは通知にすぎない。通知にあるカルテへの記載要件を満たしていないことだけで返還を求めるのは慎重に判断すべき」と指摘。厚労省は、「確かに、診療報酬は健保法上は厚生労働大臣の告示で定められており、算定要件は(医療課長の)通知で書かれている。通知に反しているから診療報酬が請求できないのかというのは、確かに議論のあるところ」と回答した。
 さらに、カルテ記載がないことで診療等がなかったものとみなされるケースがあるとの指摘に対して厚労省は、「診療録に書いてないことをもって『診療等をしていない』とみなして診療報酬を返還せよというのは行き過ぎだと思う」と答えた。
 その他、指導対象となる患者全員の指定を指導日の1週間以上前にするとの要望には、「平成28年度から変更した『1週間前に20人分、前日に10人分を通知』という運用で当面は進めたいが、個別指導の効果的かつ効率的な運用のため、引き続き必要な検討を行う」と、今後の改善に含みをもたせた。
日弁連でも報告・意見交換
 厚労省要請後には、日本弁護士連合会行政訴訟センターからの招聘を受け、弁護士会館で「提言」の内容を小牧・野田両弁護士が報告し、参加した各地の弁護士らと意見交換した。
 協会は今後も、不合理な個別指導等の改善を求めて、厚労省や近畿厚生局などへの要請を続けていく。



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保険診療法制研究会が作成
「提言」のご活用を
 協会の保険診療法制研究会は、このたび「保険医療機関等への指導の現状と改善に向けた提言」を作成しました。
 現在兵庫県下で行われている指導の現状と実態、法律上の問題点や、指導の対象となった医療機関の義務と権利について解説しております。会員の皆さまが、指導についての理解を深める一助となれば幸いです。提言は月刊保団連4月号に同封しています。

「提言」、指導、監査についてのお問い合わせは、
電話078-393-1840まで

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