2019年6月05日(1911号) ピックアップニュース
燭心
堺市の百舌鳥古墳群が、羽曳野市などにある古市古墳群とともに、ユネスコの世界遺産に登録される運びとなった。わが故郷のニュースだけに、感慨深いものがある。天皇陵とされて立入禁止の巨大古墳はともかく、中小の古墳は、私が小学生の頃は、近所の子どもの魚釣りや探検ごっこの格好の遊び場であった。一躍世界遺産である。うれしい反面、先日帰省した折には、フェンスで囲まれてすっかり雰囲気が変わってしまい、少し寂しい感じがしたものである▼実は、この古墳群の多くが、埋葬されているのが誰なのか謎なのである。日本最大の古墳である大仙古墳は、仁徳天皇陵と長らく伝えられてきた。教科書でもそう教えられてきたが、最近の研究ではどうも違うようである。仁徳の次に在位した履中天皇の陵墓とされるミサンザイ古墳の方が、造られた年代が古いということが分かってきて、矛盾するのだ▼そもそも、初代天皇とされる神武から16代仁徳までの天皇の多くが生存年数百歳を超えており、実在したのかさえ不明というのが、歴史学者の通説になっている。世界遺産登録にあたって、ユネスコも指摘している点である▼神武天皇を建国の祖とする皇国史観が絶対視された戦前では、こうした疑念を挟むことすら許されなかったろう。かつては百以上あったとされる百舌鳥古墳群も、乱開発で現在は半分以下になっている。今回の世界遺産登録をきっかけに、科学的調査や保全に向けた取り組みが進むことを期待したい。(星)