兵庫県保険医協会

会員ページ 文字サイズ

兵庫保険医新聞

2019年6月25日(1913号) ピックアップニュース

尼崎市 生活保護指定医療機関への個別指導問題
またも「指導根拠」に誤り

1913_01.jpg

医師の裁量権を無視した尼崎市の指導をやめさせるよう厚労省に要請(3月28日)

 尼崎市が、生活保護法に基づく指定を受けた医療機関に対して、理不尽な指導と返還要求を繰り返している問題で5月8日、尼崎市が指導根拠に誤りがあったことを認める通知を行っていたことが明らかになった。協会からの申し入れを受けた厚生労働省からの照会によって同市が修正を余儀なくされたもので、すでに報道した「検査条文」で指導を行っていた事案(5月15日付参照)に続く指導根拠の誤りが示され、改めて同市のずさんな法解釈と運用の実態が浮き彫りになった。

行政の体をなさない「法解釈の誤り」
 尼崎市は昨年来、生活保護受給者の「訪問診療」を、「通院」に切り替えさせようと医療機関への指導を繰り返している(5月15日付既報)。指導を受けた医療機関からは、この間も「はじめから訪問診療を否定してくる」「とても無理な患者さんも通院に切り替えさせるよう迫ってくる」「執拗で高圧的な指導は異常」などの相談が、次々と協会に寄せられている。
 指導の現場で、通院への実質的な誘導を行う際に、尼崎市が根拠にしていたのが、生活保護の「補足性の原理」。しかし、「補足性の原理」とは、生活保護を受ける前に、利用し得る資産、能力その他あらゆるものを活用することを指すもの。すでに保護を受けている患者を、「訪問診療」から「通院」に切り替えさせるために、この原則を持ち出して医療機関を指導するのは見当違いである。
 現に協会からの指摘を受けた厚生労働省の担当官も「補足性の原理を根拠に、医療給付の妥当性を指導しているとすれば誤用である」旨回答した。その上で、医療給付の内容は「被保護者の自立助長の観点から判断されるべき」とし、尼崎市に事実確認することを表明していた。今回尼崎市が当該医療機関に送付した修正通知は、この内容に沿ったものとなっている。
 自治体の決定や判断が、法令に基づく正しい解釈・運用によって行われるのは、行政の公正性を担保する上での大原則である。今回尼崎市は、その根拠自体が誤りであったことを認めたが、誤った根拠で指導を受けていた医療機関に対し、どのように謝罪し、責任を取るのか、まったく示していない。今後もしっかりと追及していく必要がある。
問われる市担当者の資質
 そもそも、当該患者に対する医療提供内容の判断は、医師の裁量権の問題である。この場合、生活保護の医療券を受けた当該患者が、「通院」「訪問診療」のいずれの妥当性が高いのかは、ケースワーカーや家族等と相談しながら、患者の状態をはじめ、家族などの看護・介護体制、生活環境などを総合的に判断した上で、最終的に医師が決定を下すことになる。その際に考慮すべき点として、先述の厚生労働省の「被保護者の自立助長の観点」が存在する。
 仮に行政が医師の最終判断の妥当性を、指導で云々するとしても、それはあくまでも医師の医学的知見を確認する姿勢を取るべきである。しかし、実際に尼崎市が行っている指導の実態は、担当職員が節度を越えた高圧的な振る舞いで、「訪問診療」を「通院」に切り替えさせるために躍起になっているというのが、指導を受けた医療機関から異口同音に寄せられている実感である。
 こうした実態を看過できないと、所属診療所が指導を受けた尼崎医療生活協同組合は4月2日、稲村和美尼崎市長あてに「申入書」を提出。この中で医療生協は、尼崎市の担当職員が、医師の医学的判断を覆すような言動を繰り返していることは医師法上問題があること、また算定の是非を争っている事案について同職員が「医療機関の不当利得である」と発言したことは暴言にあたることなどに言及。尼崎市に指導の改善と「暴言」の撤回を求めている。
 そもそもこのような行政職員としての資質さえ疑わせるような振る舞いは論外である。しかも、その実態が事実上医師の裁量権の侵害と結びついている可能性が濃厚となっており、事は重大である。
 協会は今後も、この点を十分注視し、必要な手立てをとる方針である。
バックナンバー 兵庫保険医新聞PDF 購読ご希望の方