兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2019年10月05日(1922号) ピックアップニュース

燭心

 樹木希林の映画「あん」を観た。主人公はハンセン病(らい)の「元」患者である。小児期の濃厚な接触と潜伏期間の長さから遺伝病とされ、その外見のために「患者撲滅、絶対隔離、断種」が国の基本姿勢となった。警官までもが家を訪れ「強制収容」する。残された家族を守るため親兄弟との絆を断ち切り、実名を名乗らず、人里離れた療養所で一生を過ごす▼1996年のらい予防法廃止まで、90年間にわたり差別と偏見により人権を侵害され続けた。否、国の無責任な政策と、私たちの理解不足や無関心が「ハンセン病に対する新たな差別・偏見を作出・増強した(2001年熊本地裁判決文より)」のである。今も療養所入退所者の8割が差別を感じている。平均年齢は85歳に届くが帰る場所がない。入所者は言う。「本当に怖いのはらい菌なんかじゃない。『壮健社会の目』ですよ」▼一般の障がい者も、6割近くが差別や偏見を感じたとの報告もある。障がい者施設殺傷事件、透析患者への心無い発言など、病弱者や高齢者への視線が再び冷たくなってはいないか。骨太の方針には「健康寿命の延伸」「生産性の向上」とある。さらに「生涯現役社会」は、「雇用延長による税収増加」「社会保障財源の確保」へ、「健康な高齢者の増加」は「医療費・介護費の伸びの軽減」へ続く▼「元気で長生き」...家族や友人からではなく、上から目線は少々胡散臭い。お国のためではなく、個人の幸せのために、元気で長生きしよう。(空)
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