2019年10月15日(1923号) ピックアップニュース
環境・公害対策部学習会
環境負荷の高い石炭火発は廃止を
石炭火力発電所の増設計画
神戸製鋼は、神戸市灘区灘浜の神戸製鉄所の敷地内において、出力140万kWの石炭火力発電所を、2002年から稼働させている。神戸製鋼は、これに加え、同敷地内に出力130万kWの石炭火力発電所の増設を計画し、昨年5月に環境影響評価の手続を終え、同年10月に建設工事を開始した。新設発電所の建設は、環境影響評価法の対象事業である。環境影響評価手続きの過程では、地域環境の保全の観点から、あるいは、地球温暖化対策の観点から、建設に反対する市民意見が多数提出された(環境影響評価準備書に対する市民意見1199件のほぼ全てが、建設に反対する意見であった)。
環境大臣も、温暖化対策が強化されつつあるなかでCO2の排出が多い石炭火力発電所を建設するのは、事業リスクが極めて高いなどと指摘し、事業実施の再検討を求めていた。しかし、経済産業大臣は、昨年5月に、事業者による環境影響評価の結果を是認する判断(評価書確定通知)を行った。
健康面・環境面からの懸念
神戸南部を含む阪神間の地域は、かつて深刻な大気汚染公害を経験した。これを克服するため、過去30年にわたり、大気汚染防止法上の総量規制、自動車NOX・PM法、兵庫県のPM規制条例により、全国よりも厳しい規制が行われてきた。しかし、現在もなお、建設予定地付近では、PM2.5の濃度が高く、光化学オキシダントの環境基準は達成されていない(図1)。
また、NO2の環境基準は、1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内またはそれ以下とされているところ、神戸南部、特に、灘浜局や住吉南局においては、NO2のバックグラウンド濃度(1時間値の1日平均値)は、しばしば0.04ppmから0.06ppmのゾーン内の値となる。建設予定地付近は、環境基準告示によれば、現状非悪化が求められる地域に該当する(図2)。
石炭火力発電所は、SOX、NOX、ばいじん等の大気汚染物質、水銀の排出という点で、最悪の発電形式である。事業者が神戸市に提出した資料によれば、新設発電所が稼働すると、現在までの排出水準と比較して、SOX、NOX、ばいじん排出量は、それぞれ、最大で36~72%、10~56%、43%~351%増加することになる。仮に天然ガスを燃料とするならば、大気汚染物質の排出は激減するし、石炭火力のように、水銀が環境中に排出されることもない。本計画の最大の問題は、そのような石炭火力発電所を、過去の深刻な大気汚染からの環境改善の途上にある、150万人都市神戸の人口密集地域に増設するという点にある。
(2)温室効果ガスの排出
新設発電所は、年間692万トンのCO2を排出する見込みであり、既設発電所と合わせると1482万トンの排出となる。天然ガス火力と比較して、1kW時あたり2倍以上のCO2を排出する石炭火力は、温暖化対策という観点からも最悪の電源である(図3)。報道されているように、仏・英・カナダは2030年もしくはそれより前に、産炭地であるドイツですら2038年までに脱石炭を実現することを宣言している。
これに対し、日本では、本件を含め、石炭火力の新増設計画が多数あり、日本の温暖化対策目標の実現の障害となっている。環境大臣は、本年3月、現在の日本各地の石炭火力発電所建設計画が実現すると、2030年度のCO2削減目標との関係で約5200万トン超過するおそれがあると指摘している。また、日本政府は、2050年に温室効果ガスを80%削減することを閣議決定しており、今後30年~40年も稼働することが見込まれる石炭火力を建設するのは不合理である。
市民による反対運動-訴訟の提起へ
付近住民らは、既設発電所が建設された当時から反対運動等を展開してきた。新設発電所の建設計画に対しても、地元の市民団体、公害被害者の団体、気候ネットワークなどの環境NGOなどによって結成された「神戸の石炭発電を考える会」が、兵庫県保険医協会など多くの団体、市民の協力を得て、反対運動を展開している。2017年12月には、500人近くの住民らが、神戸製鋼らを相手方に、新設発電所の環境影響評価のやり直し、建設の取りやめなどを求めて、兵庫県公害審査会に公害調停の申請を行った。しかし、調停手続中も、新設発電所の建設に向けた手続が進められたため、住民らは公害調停申請を取り下げるとともに、昨年9月、神戸製鋼らを被告として、新設発電所の建設・操業の差し止めを求める民事訴訟を、神戸地方裁判所に提起した。
また、住民らは、昨年12月、新設発電所に関する不十分な環境影響評価を是認した経済産業大臣の判断(前記の評価書確定通知)は違法であり、取り消されるべきであるとなどと主張して、国を被告とする行政訴訟を、大阪地方裁判所に提起した。
石炭火力発電所の新設に反対する公害調停の申請は、全国で初めての例であった。石炭火力の差し止めを求める民事訴訟は、現在仙台地裁で争われている例に続く2例目である。また、石炭火力発電所に関する環境影響評価が不合理であると主張している前記の行政訴訟も全国初の試みである(本年5月、横須賀における石炭火力発電所建設計画に関し、同様の行政訴訟が提起された)。
世界各地では、温暖化対策の実施や、温暖化対策に逆行する石炭火力の建設差し止を求める「気候変動訴訟」が提起されているが、仙台、神戸、横須賀における訴訟は、日本における気候変動訴訟の先駆けである。
石炭火力発電所は、SOX、NOX、ばいじん(SPMや、PM2.5を含む)等の大気汚染物質、水銀、温室効果ガスの排出など、さまざまな面で環境負荷が大きい。大規模石炭火力発電所の建設に際しては、事前に環境影響評価を行うことが義務付けられており、本件新設発電所についても環境影響評価が行われた。
しかし、PM2.5については、日本では、環境基準が設定されているが、環境影響評価の対象となっていない。温暖化対策についても、石炭と比べてCO2排出が半分以下である天然ガス火力という代替案があるのに、その代替案との比較検討も行われていない(環境影響評価の仕組みに限らず、日本の法制度は、温暖化対策の観点から石炭火力の新増設に歯止めをかける仕組みを持っていない)。石炭火力発電所の建設にかかる環境影響評価手続きには、たとえば以上のような問題点があるが、制度の見直しの動きは今のところなく、前記の行政訴訟は、環境影響評価制度の改善を求め、国や世論に対して問題提起を行うというねらいも持っている。
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