兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2019年10月25日(1924号) ピックアップニュース

政策解説 厚生労働省の公立・公的病院「再編統合リスト」
地域の実態を無視した粗雑な計画
協会政策部

 厚生労働省が、「再編統合」について再検証すべき病院として、全国424病院を名指しで公表したことに対して、衝撃が走っている。この「再編統合リスト」はどのような経緯で出されたのか。分析手法などの問題点などについて解説する。

背景には進まない病床削減
 9月26日、厚生労働省は「地域医療構想に関するワーキンググループ」で、ダウンサイジングや病床機能の転換などを含む「再編統合」について再検証すべき病院として計424病院の名称を公表した。この背景には、地域医療構想による病床削減が思うように進んでいないという政府の危機感がある。
 昨年10月30日に行われた財務省の「財政制度等審議会財政制度分科会」では、各都道府県の地域医療構想が病床削減を目標にしていないことを問題視する意見や、「現場の方は全く動いていない」、「20万病床ほどを2025年までにという目標なのですけれども(中略)全然進捗がない」などの意見が相次いだ。
 また、厚生労働省の「地域医療構想に関するワーキンググループ」でも「新公立病院改革プラン」と「公的医療機関等2025プラン」について、「公・民の役割分担等が十分に考慮されて、その構想区域における地域医療構想にそぐわしいプランとして合意されたのか否かが分からない」などの意見が出された。
 こうした意見を受けて、厚労省は今年3月20日の「地域医療構想に関するワーキンググループ」で、各構想区域の公立・公的医療機関等の役割が、当該医療機関でなければ担えないものに重点化されているかどうかを分析する方針を決めた。この分析結果が今回公表されたものである。
政府はそもそも地域医療構想に執着するな
 地域医療構想は2013年時点で全国の134.7万床の病床を2025年に115万床に20万床削減するというものだが(図1)、協会は政府が必要病床数とした2025年の115万床について、その推計方法について問題点を示してきた。
 政府の推計方法の問題点は、医師不足や病床不足、患者の経済的事情など、さまざまな理由で入院が必要であってもできない患者の存在を無視し、現在入院が必要な人はすべて入院しているという前提に立って、現在の入院率と将来の年齢別人口予測から、2025年の必要ベッド数を機械的に算出している点だ。また、療養病床については全国で一律の基準に従って削減割合を算出しており、こちらもとても2025年の医療ニーズに基づいたものとは言いがたい。
 政府が地域医療構想策定ガイドラインを公表した当時から、こうした問題点を指摘する声は大きく、協会をはじめとする医療団体や住民団体の運動で、多くの都道府県で地域医療構想やそれを盛り込んだ医療計画について「削減目標ではない」と明記するなどの対応がとられた。
 こうした中、今回厚労省が「再編統合」について再検証すべき病院を公表したのは、公立・公的病院を中心に病床削減を進めようとするもので、再び地域医療構想や医療計画を病床削減目標として位置づけるものである。
厚労省の分析手法
 「公立・公的医療機関等の診療実績データの分析結果」における分析手法は極めてずさんなものである。厚労省の分析手法はまず、全国の地域医療構想区域を人口ごとに5つに分類した上で、各医療機関のがん、心筋梗塞等の心血管疾患、脳卒中の手術数、救急搬送数、小児入院医療管理料や新生児集中治療室管理料の算定回数、分娩件数、ハイリスク分娩管理加算の算定回数等を比較し、下位3分の1の医療機関の医療機能を「診療実績が特に少ない」とするものである。
 これによれば、人口10万人以上20万人未満の構想区域にある医療機関では、消化器悪性腫瘍手術が月に3件未満であればがんについて「診療実績が特に少ない」などと判断される。
 そしてこれら、がん、心筋梗塞等の心血管疾患、脳卒中等、図3の項目Aにある九つの指標すべてについて「診療実績が特に少ない」とされた医療機関について、再編統合を再検証するよう都道府県に要請することになる。
 兵庫県下では、県立リハビリテーション中央病院、国家公務員共済組合連合会六甲病院、多可赤十字病院、出石医療センター、香住病院、日高医療センター、村岡病院、国立病院機構兵庫中央病院、相生市民病院、たつの市民病院がこれに該当する。
 また、構想区域内の医療機関の診療実績を各分析項目ごとに比較し、類似した診療実績を有する医療機関が「自動車での移動時間が20分以内の距離」に立地していれば、「再編統合」の対象とされる。また、上位50%以内に入っていても、入っていない医療機関との差が小さければ、その医療機関も「再編統合」の対象とされる(図2)。
 兵庫県下では、県立リハビリテーション中央病院、国家公務員共済組合連合会六甲病院、高砂市民病院、明石市立市民病院、多可赤十字病院、加東市民病院、出石医療センター、日高医療センター、柏原赤十字病院、独立行政法人国立病院機構兵庫中央病院、県立姫路循環器病センター、相生市民病院、たつの市民病院がこれに該当する。
 つまり、何らかの診療分野について全国上位3分の2の以上の実績があり、自動車で20分以内の距離に類似の診療実績を持つ医療機関がない場合のみ、その医療機関は「再編統合」を免れるということである。
地域の病院が半分以下に
-但馬医療圏を例に
 具体的に見てみると、例えば但馬医療圏で急性期病床を持つ公立・公的病院は公立豊岡病院、公立八鹿病院、朝来医療センター、日高医療センター、出石医療センター、公立香住病院、公立村岡病院の7医療機関であるが、そのうちの四つ、日高医療センター、出石医療センター、公立香住病院、公立村岡病院が「再編統合」の対象とされた。これら四つの病院はがん、心筋梗塞等の心血管疾患、脳卒中、救急、小児医療、周産期医療の各指標すべてについて「診療実績が特に少ない」とされた(図3)。
 しかし、それぞれ外科医師の人数は、日高医療センター1人、出石医療センター2人、公立香住病院0人、公立村岡病院0人である。この体制では、がん、心筋梗塞等の心血管疾患、脳卒中などの手術などできるはずもなく、体制上の問題を地域の医療ニーズに置き換える政府方針は問題のすり替えである。
 本当に「再編統合」が必要なのかは、地域の医療ニーズを詳細に分析し、地域の診療所のニーズや住民の意見を丁寧に聞かなければ分からない。例えば日高医療センターは病床を持つ眼科病院として日帰りではできない眼科分野の手術を但馬地域全体に提供しながら、その他の病院とともに在宅復帰支援など地域で重要な役割を果たしている。
 また、但馬圏域地域医療構想調整会議では、地域医療構想の策定にあたって「国で医療圏の基準が示される中、但馬は面積が広く見直すに見直せない医療圏域である。広大な面積を持ち、人口が少なく、医師不足が起こっている但馬圏域の厳しい条件の中で、医療の5疾病5事業をどう確保するのか」などと、行政も含めて議論してきた地域である。それを、地域医療構想による病床削減が進まないからといって兵庫県の25%の面積を有し約17万人が暮らす地域の病院の半数以上を「再編統合」するというのはあまりにも乱暴である。
都市部で実績のある医療機関も再編統合の対象に
 また、神戸市など都市部でも県立リハビリテーション中央病院が「特に実績が少ない」として「再編統合」の対象となった。それは厚労省の指標が、がん、心筋梗塞等の心血管疾患、脳卒中、救急、小児医療、周産期医療に絞られているためである。しかし、県立リハビリテーション中央病院は、子どもの脳性麻痺、肢体不自由、睡眠障害、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、発達性協調運動症、限局性学習症に対するリハビリ療法やロボットを利用したリハビリなど、リハビリにおける中核病院であり県民にとってなくてはならない医療機関である。
 厚労省の粗雑な指標と分析方法ではこうした医療機関の必要性を把握することができず、「再編統合」の対象とされてしまうのである。
 さらに、年間2825件の救急受け入れを行っている明石市民病院も「再編統合」の対象とされた。明石市民病院は23診療科357床を持つ病院で、乳腺がん手術や急性心筋梗塞に対する心臓カテーテル手術も行っている。しかし、近隣に明石医療センターや県立がんセンターが立地するため、「再編統合」の対象とされてしまうのである。しかし、年間3000件にもおよぶ救急搬送を果たして近隣の医療機関が肩代わりできるのか疑問である。
医師増員と診療報酬引き上げで医療機関経営支援を
 そもそも多くの病院は国の低医療費政策による深刻な医師不足と低診療報酬に苦しめられてきた。日高医療センターは150床から99床へ、公立香住病院は110床から50床へ、公立村岡病院も50床から42床へと病床規模を縮小してきた。明石市民病院も産科医の不足で2015年から分娩を中止している。
 政府が医師不足と低診療報酬で、地域の医療機関経営を危機的な状況に追い込みながら、その状況を持って「実績が特に少ない」として「再編統合」を押し付けようとしていることは許されない。
 平井伸治鳥取県知事・全国知事会社会保障常任委員長が「一つのデータだけで424病院をはじく姿勢には疑問も持っている。...本当ならリストを返上してほしい」と厚労省を批判し、兵庫県の井戸敏三知事が「国のやり方は乱暴過ぎる」「地方に人は住むなということにつながる」「国は人口の少ない所に病院は必要ないという姿勢を取るのか」などと発言するのは当然のことである。
 協会は、国に対し引き続き医師の増員と診療報酬の引き上げで、公民問わず医療機関の経営を支えることを求めるとともに、今回のリストの撤回を求めていく方針である。

図1 全国で20万床のベッドをなくす
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図2 自動車で20分以内の距離に「類似の医療機関」があると再編・統合の対象に
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図3 但馬では4病院が再編・統合の対象に
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