兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年1月05日(1930号) ピックアップニュース

新聞部の会員訪問 三木市・山本医院 山本 篤先生
町の"血管"粟生線守る

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三木市 山本医院 山本 篤先生
【やまもと あつし】1968年生まれ。93年川崎医科大学卒業。同年神戸大学第1内科入局、循環器内科を学ぶ。99年鐘紡記念病院(現・神戸百年記念病院)にて心療内科。02年麻生飯塚病院にて漢方内科。05年はやしやまクリニック「希望の家」ホスピス院長。08年山本医院院長。現在、映画「神さま、わたしの鉄道をまもって。~三木の紅龍伝説~」の総合プロデューサーを務めている

 北播磨地域の人たちの大切な足、神戸電鉄粟生(あお)線。近年取りざたされている廃線を避けようと、「粟生線の未来を考える市民の会」の代表を務め、鉄道の存続を訴える映画を制作した三木市・山本医院の山本篤先生に、足立了平新聞部長がインタビューした。

鉄道の廃止は町の衰退に拍車
 足立 私も三木市に住んでいて、いつも粟生線にはお世話になっています。先生は粟生線を廃止から守るため市民の会で代表を務められているとのことですが、どんな取り組みをされているのでしょうか。
 山本 2011年より会の代表を務めていますが、長い取り組みになりそうなので、気楽に楽しく活動することがポイントだと思っています。例えば、季節にあわせた乗車イベントをしたり、お祭りではお酒を販売して、車ではなく電車を使ってもらおうという狙いです。
 足立 粟生線は以前赤字が深刻との報道が多数ありましたが、最近は落ち着いているようにも思います。
 山本 新聞報道では粟生線が黒字化したとの話もあり、廃止の危機は去ったのではないか、という声もあります。しかし神戸電鉄との懇談によると、黒字化はオリンピック開催にあたり、地域の交通安全整備のためとして予算がつけられたからと言われています。オリンピック後に問題が再燃するのではと、懸念しています。
 足立 厳しい状況なのは変わりないということですね。全国でも赤字ローカル線が次々に廃止されていますが、粟生線の廃止もその一つと捉えてよいのでしょうか。
 山本 廃止計画のある赤字ローカル線はほとんどが、1両編成かつ1日数往復で単線非電化の鉄道です。粟生線のように県都神戸市と近郊都市を結ぶ利用者の多い鉄道で廃止検討がされるのは、異例のことと言えます。2008年の三木鉄道(旧国鉄三木線)の廃止に続き、さらに粟生線もとなると、三木から鉄道がなくなってしまいます。
医師として町も守りたい
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聞き手 足立了平新聞部長

 足立 粟生線が赤字に陥っている背景には何があるのですか。
 山本 人口の減少や、車の普及、また、高速バスというライバルの出現です。バスや車は、税金で道路の整備がなされますが、線路は、鉄道会社が敷設し、整備しなければなりません。どうしてもコストが高くなってしまいます。
 足立 三宮への高速バスで代替することは難しいのでしょうか。
 山本 私は無理だと考えています。三宮まで乗り換えなしで行ける便利さはありますが、高速道路を使うので、座席の数しか乗車できないこと、三木市内から三宮まで直行してくれる一方で、鈴蘭台など途中の駅には行きにくいので通学には使えないなどです。また、鉄道のような定時性もありません。
 加えて最大の問題は、鉄道がなくなると駅もなくなるので、地域の中心地が失われることです。郊外の大規模ショッピングセンターなどの大資本に客が集中し、駅前の商店街は衰退してしまうなど、地域経済の影響が大きいです。市内の細かい移動に力を発揮するバスと、鉄道のお互いの長所を組み合わせて連携して、各駅から路線バスに乗り継ぐことで、利便性が一気に向上し、駅前の活性化にもつながります。
 足立 なんだか、町を診るお医者さんのようですね。
 山本 私はその心構えでいますよ。私の専門は循環器ですが、鉄道やバスは町の血管のようなものだと考えています。町を元気にするために鉄道が果たす役割は大きいでしょう。医療も交通も公共サービスです。粟生線を守る取り組みと、地域医療に従事することは根本的に一緒だと感じています。また、地域に根ざしている開業医は、社会的責任もあります。普段の診療だけでなく、地域のためにできることはまだまだあると思います。
地元高校生の夢かなえる映画に
 足立 さて、いよいよ先生が制作されたという映画について、お尋ねさせていただきます。まず映画制作のきっかけは何でしたか。
 山本 2018年3月に三木駅の駅舎が火災で焼失したことですね。それまでも廃線問題はありましたが、昔から愛着のあった駅が突然燃えてなくなってしまい、市民の皆さんも非常にショックを受けていました。全国的なニュースにもなりました。しかし一方で注目が集まったので、全国から支援や励ましの声をいただきました。そこで、災い転じて福となすために、映画を制作しようと思いました。私の友人に映画監督が偶然いたのが大きかったですね。
 足立 先生の人脈が生かされたのですね。映画の内容を少し教えていただけますか。
 山本 映画名は「神さま、わたしの鉄道をまもって。~三木の紅龍伝説~」(左)です。タイトルが長いので、略して「かみてつ」と呼んでいます。神戸電鉄が神鉄と言われているのに合わせました。
 足立 タイトルも考えられていますね。この紅龍伝説というのは聞いたことがありませんが。
 山本 紅龍伝説は、実際にあるのではなく、私が映画制作にあたって創ったものです。粟生線を将来も長く存続してほしいと思い、伝説を意図的に創造して、テーマにすればよいのではないかと考えました。伝説に龍を使ったのは、電車が龍に似ていると感じたからです。神戸電鉄の紅い列車が進む様子は、龍が地を這っているようにも見えますし、美嚢川を電車が渡るときの轟音も、龍が吼えたような音に聞こえませんか。
 足立 映画チラシにあるイラストの龍も、神戸電鉄の車両を模しているのですね。他にも映画制作で、こだわったところはありますか。
 山本 映画が人々の心を引き付けて、話題になるよう、精一杯の工夫をしました。鉄道を守るという説教的な映画を作っても、誰も見なければ意味がありません。ですので、高校生が夢をかなえようと奮闘するストーリーにしました。なぜ高校生なのかというと、鉄道がなくなると、車の免許を取れない高校生が一番困るからです。粟生線を残すということは、高校生の通学の足を守ることなのです。
 足立 確かに、高校になると通学で電車を使うようになることが多いですよね。制作中のエピソードも教えていただけますか。
 山本 映画制作にあたって出演者のオーディションを行い、そこでテーマ曲を歌ってくれる人も探しました。そして地元出身で、粟生線で実際に通学して劇団に所属している方が主演に決まり、テーマ曲は歌が大好きな三木市の現役女子高校生2人組がGeminiというユニット名で歌ってくれています。若い人の映画主演、歌手デビューという夢をかなえることもできたのです。
 制作にあたっては、300万円ほどの費用が見込まれましたが、クラウドファンディングで120万円を集め、残りは地元の人々の思いを集めて制作することができました。また、三木市役所や警察署も撮影に協力してくれました。多くの方々の協力があっての映画です。5月24日に三木市文化会館で公開予定ですので、ぜひ見に来てください。
 足立 先生のお話を伺って、とても面白そうな映画だと感じました。5月にはぜひ上映会にうかがいたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

図 神戸電鉄粟生線は三木市・小野市民の重要な交通手段
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撮影風景などを載せた映画の案内チラシ
お問い合わせ先:Dr.Y's office 電話0794-88-8710
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