2020年1月25日(1931号) ピックアップニュース
阪神・淡路大震災から25年
震災復興の過程問い直す
協会と協会西宮・芦屋支部は、1月18日、西宮市立勤労会館大ホールで「阪神・淡路大震災25年の集い 阪神・淡路大震災-東日本大震災-原発事故」を開催し、会員・市民ら160人が参加した。計7人の演者・報告者が、それぞれの視点から、阪神・淡路大震災や東日本大震災後の復興の問題点を報告した。
17日には神戸市勤労会館で、阪神・淡路大震災救援・復興県民会議(復興県民会議)の主催で「阪神・淡路大震災25年メモリアル集会」が開かれた。230人が参加し、四半世紀にわたる復興と被災者支援を求める取り組みについて振り返った。同日には新長田を歩くウォーク企画や、追悼のつどいも開かれた。
談話
住民本位の復興求め続ける
理事長 西山 裕康
阪神・淡路大震災から今年で25年が経過しました。国内史上初の震度7、死者・行方不明者は6千数百名、住宅被害は64万棟にも上り、ライフライン・交通網が大打撃を受けて31万人が避難生活を強いられました。今年は震災後25年という節目の年であり、記念事業も数多く行われますが、同時に被災者の高齢化も進み、神戸市では市民の3割以上が震災未経験者となっています。震災を風化させず、経験と教訓を継承する新たな工夫が必要となります。
阪神・淡路大震災では、復興事業費の大部分が「創造的復興」の美名を借りて大型公共事業、再開発に投じられました。一方で住民の生活そのものの回復につながる政策は少なく、25年を経過した今でも、「借り上げ公営住宅」からの追い出し政策、がれき撤去時に飛散したアスベストによる健康被害が、高齢化する被災者の生活と命を脅かしています。
国には、国民の財産を災害から守る責任があります。オリンピック開催を控え、国、自治体、企業は、大規模都市開発に躍起になっていますが、自治体が第一に守るべきは被災者の人権と生活です。例えば、現在でも災害避難所や仮設住宅では被災者が長期にわたって劣悪な環境での生活を強いられていますが、人権の面からも世界基準に遠く及ばないものであり、早急に改善すべき課題です。地域住民にとって「持続可能」な街づくりへ、公的支援の充実と被災者の目線と意思によるケアや生活再建を優先すべきです。
特に近年は、大災害が多発しています。昨年も九州北部豪雨、台風15号、19号、21号など、連続して大災害が続きました。今後も気候変動に伴う自然災害や、南海トラフ地震などの大災害が予想されます。
昨年は改正災害弔慰金法が成立し、災害援護資金の返済免除要件が拡大しました。安全・安心な社会を次世代に残すため、震災の経験と教訓をいつまでも忘れることなく、全国の被災者や支援者と共同して、被災者支援のさらなる充実と住民本位の復興を求めて運動を続けたいと思います。
1・17 メモリアル企画
震災25年の節目に、各地で行われた企画の模様を紹介する。
協会と西宮・芦屋支部共催「震災25年の集い」
震災からの復興を検証し課題を交流
西宮・芦屋支部での「震災25年の集い」の講演では兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科科長の室崎益輝先生と南相馬市・ほりメンタルクリニック院長の堀有伸先生、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生の3氏が、それぞれの立場から阪神・淡路大震災や東日本大震災後の復興の問題点について講演した。室崎先生は「阪神・淡路大震災25年の検証」をテーマに講演。この25年間の復興の検証が十分に行われていないとし、歴史的な俯瞰を行い、生きた教訓を引き出す必要があると主張した。特に短期的課題である生活の再建はウェイトが大きく、「医、食・職、住、育、連、治」といった包括的な生活の復興が重要であると述べた。
堀先生は、「東日本大震災後のメンタルヘルス」をテーマに講演。東日本大震災や原発事故において故郷が失われたことを「あいまいな喪失」と表現した。故郷はそこに存在するが、帰ることはできないという状況におかれることで、何かを決断することに大きな葛藤が生まれてしまい、人生を、前向きに生きることを阻害しているとした。
小出先生は、「原発のない世界へ」と題し、原発事故にて放出された放射性物質の多さや、それがもたらし得る健康被害について講演。昨年3月までに国が住宅支援を打ち切り、避難者は一方的に追い出され、子どもを含め放射線被曝させていると強い問題意識を訴えた。
震災25年を振り返り活動報告
集いでは、震災後25年が経過した今、起こっている諸問題への取り組みについて各氏が報告した。協会西宮・芦屋支部世話人の上田進久先生が、阪神・淡路大震災でのアスベスト被曝による影響について報告。飛散したアスベストによる健康被害の実態調査や、検診体制の確立を訴えた。
神戸市の借り上げ復興市営住宅に居住する丹戸郁江氏の報告を、阪神・淡路大震災の際に看護ボランティアも務めた阿部由香氏が代読。退去を迫る市の対応の冷たさを批判するとともに、継続入居を求める思いを訴えた。
久留米大学外国語教育研究所講師のディヌーシャ・ランプクピティア先生は、「外国人から見た大震災」をテーマに報告。外国人のコミュニケーションの困難さや孤立感を解消する必要があるとし、特に英語圏以外の人向けにも情報発信する必要性を訴えた。
西宮市・広川内科クリニック院長・協会顧問の広川恵一先生が、阪神・淡路大震災および東日本大震災における保険医協会・協会西宮芦屋支部の取り組みを報告。阪神・淡路大震災が発生した直後の様子や経験を述べたほか、東日本大震災の被災者との様々な交流の経験や、被災者の思いについて語った。
また同会場で、被災地交流物産物品店も開催。岩手県宮古市の「かけあしの会」など東日本大震災の被災者が、地元品の販売を通じて復興支援・交流を訴え、集いの参加者らが列をなした。
講演の冒頭と合間に、二胡演奏者の劉揚氏が「しあわせ運べるように」などを演奏。会場では阪神・淡路大震災直後の様子などのパネル展示を行った。
阪神・淡路大震災25年メモリアル集会
暮らしと生業の再建へ支援制度の拡充を
「阪神・淡路大震災25年メモリアル集会」には、保団連から住江憲勇会長が出席した。住江憲勇会長は全国災対連(災害被害者支援と災害対策改善を求める全国連絡会)代表世話人として来賓あいさつ。「兵庫県の被災者・支援者の運動により公的支援ゼロの状況を打破し、被災者生活再建支援法が成立し、昨年には災害援護資金の返済免除の対象が低所得者に拡大された。しかし25年が経過しても、借り上げ復興住宅からの追い出し問題では、神戸市・西宮市が被災者に対し復興住宅からの退去を求め提訴するなど、被災者をめぐるさまざまな課題が残っている。政府には、被災者に寄り添い、地元で生業を再建できる復興支援を求めたい」とあいさつした。
基調報告では、復興県民会議事務局長の岩田伸彦氏が、公的支援の実現を求め県内被災各地自治体を訪問して公的支援を求めたキャラバン運動や、国民世論を大きく動かした『有識者アピール』、支援の法制化へ国会議員への要請行動、国連人権委員会へのレポートなど、これまでの運動の歩みについて報告した。
特別報告では、震災被災者ネットワーク代表で、被災者の巡回相談を25年続けている安田秋成氏(元県議会議員)が、被災時の救助活動、仮設住宅で起こった孤独死などの問題、借り上げ復興住宅からの突然の追い出しなど、これまでの活動について、自身の体験をもとに報告した。
ひょうご震災復興借り上げ住宅協議会運営委員の段野太一氏は「借り上げ住宅問題」での兵庫県と神戸市の対応について報告した。被災者が同じ条件で入居した借り上げ復興住宅でも、兵庫県では「判定委員会」を設置し、継続入居を希望する被災者にはほとんど継続入居を認める一方で、神戸市は、市が一方的に設定した厳しい基準を満たさなければ継続入居を認めず、被災者を相手取って訴訟を起こしたことを批判した。
各分野からの報告 25年の取り組み共有
集会では、雇用・地場産業の再建、商店の営業再開へ向けた支援制度の創設などの取り組み、被災者の健康相談など、各分野での震災後の取り組みについて報告がなされた。協会は、「医療機関の取り組みと、仮設住宅調査」をテーマに報告。震災によって、会員医療機関の4割弱が被災したが、7割の医療機関が早期に診療を再開できた一方で、ポートアイランドの神戸中央市民病院など、災害時に中心的役割を果たすべき公立病院が機能不全に陥ったことを紹介し、現在ポートアイランドに集約されている医療産業都市は震災の教訓を生かしていないと指摘した。
参加者は、憲法25条の精神に基づいた人々の絆を最優先にした、暮らしと生業の再建による復興を求め、災害援護資金融資の拡充などを求めるアピールを採択した。
長田ウォーク
大規模再開発の問題点歩いて学ぶ
協会神戸支部が参加する「震災復興長田の会」は17日午前に、「ひと・街・くらし長田のつどい」を開催。120人が集まり、火災で大きな被害を受けた長田の再開発地域を歩いて回った。震災当時を知る人が、震災前のにぎわいや震災で受けた被害、その後の地域住民を無視した大規模再開発の問題点を語った。同会の不動博事務局長は、「25年が経つが、長田のまちの活気は戻っていない。元気なまちに戻ることが本当の復興だ。元気なまちづくりのために、これからも力をあわせて運動していきたい」とあいさつした。
森本真神戸市会議員(共産)が、長田のまちの現状について報告。再開発事業の「終了」が報道されているが、これは再開発区域の「全面積を埋める計画が決まった」だけであるとして、再開発ビルの共益費が高すぎて空きが目立つことや、借り上げ住宅問題・災害援護資金などの改善要求を語った。
市民追悼のつどい
希望の鐘を突き犠牲者の鎮魂願う
17日午前には、震災被災者ネットワークが「市民追悼のつどい」を神戸市勤労会館で開催。参加者は琵琶による音楽法要と声明で、犠牲者を追悼した。同ネットワーク代表の安田秋成氏(元県議会議員)は「震災から25年、震災犠牲者の追悼と鎮魂を願う思いで、このつどいを開催してきた。震度6以上の地震が当時から予想されていたにもかかわらず、行政は金銭的理由で、耐震工事を後回しにしてきたのは許せない。今後も被災者に寄り添う復興支援に取り組むよう、訴え続ける」と語った。
借り上げ公営住宅追い出し問題
希望者全員に継続入居を今後も引き続き支援
震災被災者を借り上げ公営住宅から追い出す不当な施策を許さない「入居者連帯する12・19総決起集会」が、12月19日、ひょうご震災復興借り上げ住宅協議会の主催で、神戸市勤労センターで開催され、支援者ら60人が参加した。神戸市などの借り上げ公営住宅からの被災者の「追い出し」は、入居期限が20年で切れることを理由に、2010年に突如、自治体から通知されたもの。10年近い運動の結果、宝塚市や伊丹市はすでに全員の継続入居を認め、尼崎市も事実上、希望者全員に継続入居を認めているほか、兵庫県も独自の判定委員会を設置し、継続入居を希望する高齢者に対して、柔軟に対応している。
一方で、神戸市と西宮市は依然として頑なな姿勢で独自の「線引き」に固執。入居者を提訴して転居を迫るなど、被災者の居住権をめぐる自治体による格差が浮き彫りになっている。
集会では、武村義人・協会副理事長が、医師として高齢入居者追い出しの健康リスクについて講演。本人の意思に反する転居強要は、認知機能や精神の安定に悪影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らした。
入居時に20年という期限の通知もないまま、高齢化してから突如転居を求められている入居者が発言。「裁判所の判決には納得できない、引き続き支援を」と訴えた。
協会は今後も、入居継続を求めて支援を継続していく。