2020年4月25日(1940号) ピックアップニュース
2020年度診療報酬改定
不合理是正を求めていく
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、厚労省が強行した今年の診療報酬改定--。入院、外来、歯科それぞれの改定の問題点について3人の先生にインタビューした。
入 院
-新型コロナウイルス感染拡大への対応が大変な中の改定となりました。
現在は改定より、その対応が大変な状況です。当院は地域密着型の病院で救急も受け入れており、N95マスクやアルコール消毒液等が不足する中、現場は毎日、大変な緊張と負担を強いられています。
-今回の改定では、急性期一般入院基本料や地域包括ケア病棟入院料等の要件が厳格化されました。
当院は、いわゆるケアミックス病院で、療養病床と地域包括ケア病床があります。今回、地域包括ケア入院医療管理料の要件が厳格化されました。一つは、より重症、看護の必要性が高い患者さんに入院してもらう必要が出てきます。重症の患者さんを具体的な数字で確保しなければいけなくなると、そうではない患者さんを受け入れることができなくなってしまいます。
また、算定要件である訪問診療の件数が、3カ月に20回以上から30回以上に引き上げられたことも厳しいです。訪問看護件数は、3カ月に100回から60回に引き下げられましたが、それでも要件を満たすのは大変です。
-医師・医療従事者の働き方改革、負担軽減のために、地域医療体制確保加算が新設されました。
医療従事者の働き方改革、負担軽減は喫緊の課題です。しかし、同加算の対象となるのは救急搬送件数が年間2000件以上の病院に限られます。一定規模の病院でないと算定は難しいでしょう。
淡路島では、看護師や看護補助職員の確保が困難になっています。今後さらに厳しくなると、必要な医療が提供できなくなるのではと危惧しています。特に看護補助職員は、昨年、介護職員の待遇改善のために介護報酬で加算が新設されたため、介護施設と給与に格差が生じ、確保が非常に難しくなっています。そもそも、医師や看護師の養成数増や、診療報酬の抜本的引き上げなしに、負担軽減は難しいのではないでしょうか。
-入院基本料等の基本点数は据え置かれました。
各病院は地域のニーズに合わせて必要な医療を提供しているので、厚労省は各病院を診療報酬によって細かく区別するのではなく、基本点数を引き上げ、各病院が余裕を持って地域のニーズに応えられるようにすべきではないでしょうか。病院の地域医療で担う役割を正当に評価する上では、基本診療料の引き上げが不可欠です。厳しく批判する必要があります。
-協会では今後も診療報酬の引き上げと不合理是正に取り組んでいきます。
ぜひ、取り組んでほしいです。当院でも今後、今回の改定の悪影響などがさらに出てくれば一緒に声を上げていきたいと思います。
外 来
-4月に診療報酬改定が、新型コロナウイルス感染症拡大の中で強行されました。
医療機関でも、感染予防への対策が急きょ迫られています。また、厚労省からも、関連する通知が頻繁に出されるなど、対応に追われています。この状況下での改定の強行は医療機関への負担が大きいので、改定延期や、新型コロナウイルス感染症対策に特化すべきだったと思います。
-今回も初・再診料は引き上げられませんでした。
とても残念です。診察の基本は、患者さんとの対面診療です。丁寧に患者さんの症状を聞くことが必要ですから、時間がかかります。ただ経営面で考えると、低い初・再診料では短時間診療とならざるを得ません。より丁寧な診療のため、時間に見合った初・再診料を求めたいです。
-「かかりつけ機能」の評価をさらに進める改定と言われています。
政府の「かかりつけ機能」にかかわる点数を届け出ていない医療機関にとっては、ほとんど改善はありません。新設された「診療情報提供料Ⅲ」は算定要件が厳しく、一部の医療機関でしか算定できません。歯科への診療情報提供はよく行いますが、より低い点数しか算定できません。地域住民のかかりつけ医としてがんばっているつもりですが、政府による「かかりつけ医」の線引きに不公平を感じる内容と感じます。
-薬価・材料価格は1%以上のマイナスでしたが、影響はいかがですか。
私の診療所は、院内処方ですので、影響は本体よりも大きいと感じるほどです。新型コロナウイルス感染症で長期処方を希望する患者さんへの処方期間を倍にしたりしたのですが、薬代は少し高くなった程度でした。スタッフがおかしいと感じて調べたのですが、結局のところ、薬価が大幅に引き下げられていたからでした。ある程度の在庫を用意している院内処方の医院は、困っていると思います。今次改定も全体でマイナスです。薬価引き下げ分はきっちりと本体に回していただきたいです。他にも漢方薬の処方が削られるなど、請求時の不合理は改善してほしいです。
-紹介状なしで大病院を受診した時の患者定額負担は、対象となる地域医療支援病院が400床以上から200床以上へと拡大されました。
病院の外来負担を減らすためとされていますが、大病院を受診したい患者さんは結局、地域の診療所で紹介状をもらってから受診することとなり、かえって不必要な受診が起こっていると感じます。不合理な上、フリーアクセスの阻害要因ともなるので、改善が必要だと思います。
歯 科
-今次改定では歯科本体は0.59%とわずかながらプラス改定でした。
厳しい医療情勢の中で、マイナス改定とならなかったことは悪くなかったと思います。しかし、歯科材料の金パラ「逆ザヤ」問題は解消されなかった上、新型コロナウイルス感染症の影響により患者さんが減少し、むしろ経営は苦しくなっています。
-金パラ「逆ザヤ」問題は3カ月ごとの随時改定が可能となりましたが。
改定でも金パラ償還価格は引き上げられましたが、市場価格とは30gで1万円以上の大きな隔たりが残っており、十分な引き上げではありませんでした。また、「3カ月ごとに改定が可能」ということは、逆に言えば、「3カ月の間は逆ザヤを押し付ける」ということです。治療にかかった材料費と同額をきちんと償還するように変更すべきです。
-新型コロナウイルス感染症の影響も大きいですか。
こちらも深刻です。市内で集団感染が起こり市民の不安が高まったことに加え、「不要不急」の外出自粛要請により、受診が減少しています。治療途中での中断が心配です。訪問診療の患者さんも、口腔ケアが途絶えることで誤嚥性肺炎を起こすと、生命の危険があります。歯科治療は決して「不要不急」なものではありません。院内でもできる限りの感染対策を施しているので、政府も歯科は安心してきちんと継続受診するよう周知してほしいと思います。
-厳しい状況下での改定ということですが、特徴についてお聞かせください。
初・再診料の施設基準に職員研修が追加され、届け出た歯科医療機関では初診料は+10点、再診料は+2点になりました。届け出ていない医療機関との差別化は深まりましたが、ほとんどの歯科医療機関が届け出ているので、施設基準そのものをなくしてほしいです。
全体の傾向は、長期継続管理への誘導だと思います。歯科疾患管理料は初診月が20%引き下げられた一方、6カ月を超えて疾患を管理する場合には「長期管理加算」が新設されました。また、歯周病重症化予防治療という包括点数が新設されましたが、歯周病治療の新しいガイドラインも3月末まで示されず、厚生局による説明会もないまま改定されたので、手探り状態です。歯周病安定期治療の包括点数とともに、歯科診療報酬を抑える狙いだと思います。
-最後に協会への要望をお聞かせください。
金パラ「逆ザヤ」問題などの不合理や、収束の見通しが立たない新型コロナウイルス感染症など多くの課題があります。厚労省に適切な是正や補償を要請する行動に引き続き取り組んでいただきたいです。私も可能な限り協力していきたいと思います。
入 院
基本診療料の引き上げを
淡路市・順心淡路病院院長 松井 祥治先生
-新型コロナウイルス感染拡大への対応が大変な中の改定となりました。現在は改定より、その対応が大変な状況です。当院は地域密着型の病院で救急も受け入れており、N95マスクやアルコール消毒液等が不足する中、現場は毎日、大変な緊張と負担を強いられています。
-今回の改定では、急性期一般入院基本料や地域包括ケア病棟入院料等の要件が厳格化されました。
当院は、いわゆるケアミックス病院で、療養病床と地域包括ケア病床があります。今回、地域包括ケア入院医療管理料の要件が厳格化されました。一つは、より重症、看護の必要性が高い患者さんに入院してもらう必要が出てきます。重症の患者さんを具体的な数字で確保しなければいけなくなると、そうではない患者さんを受け入れることができなくなってしまいます。
また、算定要件である訪問診療の件数が、3カ月に20回以上から30回以上に引き上げられたことも厳しいです。訪問看護件数は、3カ月に100回から60回に引き下げられましたが、それでも要件を満たすのは大変です。
-医師・医療従事者の働き方改革、負担軽減のために、地域医療体制確保加算が新設されました。
医療従事者の働き方改革、負担軽減は喫緊の課題です。しかし、同加算の対象となるのは救急搬送件数が年間2000件以上の病院に限られます。一定規模の病院でないと算定は難しいでしょう。
淡路島では、看護師や看護補助職員の確保が困難になっています。今後さらに厳しくなると、必要な医療が提供できなくなるのではと危惧しています。特に看護補助職員は、昨年、介護職員の待遇改善のために介護報酬で加算が新設されたため、介護施設と給与に格差が生じ、確保が非常に難しくなっています。そもそも、医師や看護師の養成数増や、診療報酬の抜本的引き上げなしに、負担軽減は難しいのではないでしょうか。
-入院基本料等の基本点数は据え置かれました。
各病院は地域のニーズに合わせて必要な医療を提供しているので、厚労省は各病院を診療報酬によって細かく区別するのではなく、基本点数を引き上げ、各病院が余裕を持って地域のニーズに応えられるようにすべきではないでしょうか。病院の地域医療で担う役割を正当に評価する上では、基本診療料の引き上げが不可欠です。厳しく批判する必要があります。
-協会では今後も診療報酬の引き上げと不合理是正に取り組んでいきます。
ぜひ、取り組んでほしいです。当院でも今後、今回の改定の悪影響などがさらに出てくれば一緒に声を上げていきたいと思います。
外 来
かかりつけ医の差別化広げる
東灘区・口分田玄瑞診療所所長 口分田 真先生
-4月に診療報酬改定が、新型コロナウイルス感染症拡大の中で強行されました。医療機関でも、感染予防への対策が急きょ迫られています。また、厚労省からも、関連する通知が頻繁に出されるなど、対応に追われています。この状況下での改定の強行は医療機関への負担が大きいので、改定延期や、新型コロナウイルス感染症対策に特化すべきだったと思います。
-今回も初・再診料は引き上げられませんでした。
とても残念です。診察の基本は、患者さんとの対面診療です。丁寧に患者さんの症状を聞くことが必要ですから、時間がかかります。ただ経営面で考えると、低い初・再診料では短時間診療とならざるを得ません。より丁寧な診療のため、時間に見合った初・再診料を求めたいです。
-「かかりつけ機能」の評価をさらに進める改定と言われています。
政府の「かかりつけ機能」にかかわる点数を届け出ていない医療機関にとっては、ほとんど改善はありません。新設された「診療情報提供料Ⅲ」は算定要件が厳しく、一部の医療機関でしか算定できません。歯科への診療情報提供はよく行いますが、より低い点数しか算定できません。地域住民のかかりつけ医としてがんばっているつもりですが、政府による「かかりつけ医」の線引きに不公平を感じる内容と感じます。
-薬価・材料価格は1%以上のマイナスでしたが、影響はいかがですか。
私の診療所は、院内処方ですので、影響は本体よりも大きいと感じるほどです。新型コロナウイルス感染症で長期処方を希望する患者さんへの処方期間を倍にしたりしたのですが、薬代は少し高くなった程度でした。スタッフがおかしいと感じて調べたのですが、結局のところ、薬価が大幅に引き下げられていたからでした。ある程度の在庫を用意している院内処方の医院は、困っていると思います。今次改定も全体でマイナスです。薬価引き下げ分はきっちりと本体に回していただきたいです。他にも漢方薬の処方が削られるなど、請求時の不合理は改善してほしいです。
-紹介状なしで大病院を受診した時の患者定額負担は、対象となる地域医療支援病院が400床以上から200床以上へと拡大されました。
病院の外来負担を減らすためとされていますが、大病院を受診したい患者さんは結局、地域の診療所で紹介状をもらってから受診することとなり、かえって不必要な受診が起こっていると感じます。不合理な上、フリーアクセスの阻害要因ともなるので、改善が必要だと思います。
歯 科
金パラ「逆ザヤ」これ以上押しつけるな
伊丹市・ただ歯科クリニック 多田 和彦先生
-今次改定では歯科本体は0.59%とわずかながらプラス改定でした。厳しい医療情勢の中で、マイナス改定とならなかったことは悪くなかったと思います。しかし、歯科材料の金パラ「逆ザヤ」問題は解消されなかった上、新型コロナウイルス感染症の影響により患者さんが減少し、むしろ経営は苦しくなっています。
-金パラ「逆ザヤ」問題は3カ月ごとの随時改定が可能となりましたが。
改定でも金パラ償還価格は引き上げられましたが、市場価格とは30gで1万円以上の大きな隔たりが残っており、十分な引き上げではありませんでした。また、「3カ月ごとに改定が可能」ということは、逆に言えば、「3カ月の間は逆ザヤを押し付ける」ということです。治療にかかった材料費と同額をきちんと償還するように変更すべきです。
-新型コロナウイルス感染症の影響も大きいですか。
こちらも深刻です。市内で集団感染が起こり市民の不安が高まったことに加え、「不要不急」の外出自粛要請により、受診が減少しています。治療途中での中断が心配です。訪問診療の患者さんも、口腔ケアが途絶えることで誤嚥性肺炎を起こすと、生命の危険があります。歯科治療は決して「不要不急」なものではありません。院内でもできる限りの感染対策を施しているので、政府も歯科は安心してきちんと継続受診するよう周知してほしいと思います。
-厳しい状況下での改定ということですが、特徴についてお聞かせください。
初・再診料の施設基準に職員研修が追加され、届け出た歯科医療機関では初診料は+10点、再診料は+2点になりました。届け出ていない医療機関との差別化は深まりましたが、ほとんどの歯科医療機関が届け出ているので、施設基準そのものをなくしてほしいです。
全体の傾向は、長期継続管理への誘導だと思います。歯科疾患管理料は初診月が20%引き下げられた一方、6カ月を超えて疾患を管理する場合には「長期管理加算」が新設されました。また、歯周病重症化予防治療という包括点数が新設されましたが、歯周病治療の新しいガイドラインも3月末まで示されず、厚生局による説明会もないまま改定されたので、手探り状態です。歯周病安定期治療の包括点数とともに、歯科診療報酬を抑える狙いだと思います。
-最後に協会への要望をお聞かせください。
金パラ「逆ザヤ」問題などの不合理や、収束の見通しが立たない新型コロナウイルス感染症など多くの課題があります。厚労省に適切な是正や補償を要請する行動に引き続き取り組んでいただきたいです。私も可能な限り協力していきたいと思います。