兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2020年5月15日(1941号) ピックアップニュース

燭心

 青葉若葉の美しい季節である。ゴールデンウィークの外出自粛を言われている折であるが、そわそわ心が浮き立つ。山々の緑のモザイクで、ひときわ鮮やかに輝いているのは樟であろうか、〝樟若葉(くすわかば)〟は初夏の季語である▼「やがて死ぬ鯨のように樟若葉」、坪内稔典氏のこんな俳句を見つけた。ネンテンさんらしい、ミステリアスな句である。近所の神社の散歩道で、樟の葉を拾ってきて謎解きをしてみた。なるほど、真ん中で二つ折りにして横から見ると鯨のように見える。平行な葉脈をお腹の模様に見立て、目玉や潮吹きを付けてやると、小さなシロナガスクジラの出来上がり。さすがネンテンさん!▼もう一つの謎「やがて死ぬ」とは何なのだろうか? 生命の象徴のような若葉にはちょっと異質である。実は樟、意外だが、今が紅葉・落葉の季節でもあるそうだ。そういえば、足元には赤く色づいた枯れ葉がたくさん落ちている。ネンテンさんの故郷は愛媛県伊方町、死にゆく巨鯨と原発の町が重なるのだろうか、勝手な想像をしてみた▼樟は巨木である。中には樹齢千年を超すものもあるという。幾たびか疫病の流行や栄枯盛衰なども見てきたであろう。コロナ禍で人間界は大騒ぎだが、自然は泰然自若である。人間など小さな存在であることを知るいい機会になればいい。ささくれだったニュースに心を痛めることも多いが、この若葉、指で揉みしだけば、ほのかに樟脳のいい香りがする。気持ちを少しでも癒してくれたらと思う(星)
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