2020年6月05日(1943号) ピックアップニュース
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新型コロナウイルス対策 特別インタビュー
患者さんにいつも通りの診療を
万全の感染対策で発熱患者受け入れ
宮武 先生の医院とは近隣ということで、普段から大変お世話になっています。神戸新聞等で報道されていましたが、先生は駐車場にキャンピングカーを置いて、発熱患者さんを受け入れてらっしゃいますね。どんな風に診ておられるのですか。井口 まず、発熱のある方は、事前にお電話をいただき、診療時間の終わりに来ていただくようにしています。動線も分けて表玄関でなく、裏口から入っていただき、別の診察室で診察します。
お電話の段階で新型コロナウイルス感染症の疑いが濃厚と思われる患者さんは、駐車場のキャンピングカーで待機していただき、問診や診察、PCR検査の検体採取もそこで行っています。スタッフもPPE(個人防護具)をつけて対応します。
宮武 すばらしい対応ですね。一般の開業医では、防護具がない等、発熱患者の受け入れは難しいことが多いと思うのですが、先生はどう体制を整えられたのですか。
井口 2月半ばにダイヤモンドプリンセス号に乗船した神戸大学の岩田健太郎先生の警告を聞き、船内の感染が拡大していった経過を見て、備えないといけないと思ったのです。しかし、発症者の増減を示すエピカーブ(流行曲線)が公開されておらず、ウイルスの特徴が分からないため、対策が立てられない状態でした。
新型コロナのために普段通りの診療ができなくなってはいけないと考え、どんなウイルスか分かりませんので一番危険な想定をして、医院の看護師さんたちに、ガウンテクニックや手洗い等スタンダードプリコーション(標準予防策)の再教育を行ないました。また、防護具等が必要になる可能性を考え、マスクやガウン等の防護具を準備しました。
早くから準備をしていたので防護具等は十分に確保できており、また、ゾーニングも、医院を建てる際に空調設備も別に分け、待合室も大人用・子ども用と二つに分ける等工夫して作っていたので、対応できたのだと思います。
宮武 今も机上にたくさんの論文や資料があり、常に最新の知見を調べながら、感染対策をされているのだと思うのですが、先生は、これほどの感染対策の基本をどこで身につけられたのですか?
井口 もともと小児科で感染症が多いことと、海外の経験も大きいですね。アメリカに3年、タイに7年いたのですが、海外の医療水準は非常に高く、勉強になりました。
宮武 防護具不足が深刻ななか、防護具をさまざまな施設に寄付しておられると伺いました。
井口 ええ。自院の資材が整ったので、地域で感染予防ができるようにと、訪問看護ステーションや健診に行っている保育所、向かいの警察署等に、アルコールやマスクをお届けしています。神戸大学の耳鼻咽喉科にもお渡ししました。当院には防護具がステーション的に集まってくるので、必要な時に必要なところへお届けしています。
話を聞いて不安を解消
聞き手 宮武博明副理事長
井口 西は加古川から、東は東灘区まで幅広い地域から来られました。私は発熱外来の目的は、疾患の鑑別に加え、リスクコミュニケーションであるコンセンサスコミュニケーションにあると考えています。
患者さんの中には、COVID-19以外の甲状腺疾患やマイコプラズマなどの方もおられましたが、本当の意味では病気ではない方が多かったです。たとえば気温が高くなって少し熱が高くなった方、マスクをずっとしているので息苦しくなった方などです。
パルスオキシメーターを購入されて酸素飽和度の値が低いと心配して来られた方もおられましたが、緊張して手が冷たくなり脈が拾えなくなっているのです。看護師でも使い方の難しい機械なのに、国民の不安につけこみ、企業が宣伝しています。不確かな情報がテレビやSNSにあふれ、皆さん、非常に不安になっておられました。
PCR検査を希望される方もたくさんおられますが、なぜ検査を受けたいかをじっくり聞き、PCR検査は特異度を考えると「かかっていない」という証明はできないこと、陽性になった場合の対応を知らせると、「やっぱり検査はしなくていい」と言う方が多いです。「新型コロナかもしれない」という不安を解消したいと、検査を望んでおられるのです。
ですので、皆さんに私の携帯電話の番号をお知らせして、何かあったらいつでも連絡してくださいと伝えると、それだけで安心されます。じっくりと話を聴き、不安を汲み上げ、何かあったときの連絡先があれば、ほとんどの不安は解消できるのです。実際に、電話がかかってきたのは数回で、内容も「よくなりました」というものでした。
宮武 一方的に説明するのでなく、しっかりと聞くことが大事ということですね。
先生は、小児科ですが、子どもたちの健康管理という点ではいかがですか。
井口 新型コロナは、子どもたちのリスクが低いという話がありますが、今までがそうだったというだけで、本当にそうなのかはまだ分かっていません。子どもを守るための対応が今後も大切だと思います。同時に、予防接種や健診などがおろそかになっては大変です。保育園の健診は、屋外の運動場やバルコニーで行うことにしました。
今こそ第二波に備えた対策を
宮武 緊急事態宣言も解除され、兵庫県の患者数も抑えられています。井口 ひとまず、兵庫県では第一波は収まったのではないでしょうか。だからこそ今、ダイヤモンドプリンセス号以後の対応を振り返るべきです。アメリカのCDC(疾病予防管理センター)のような施設がないこと、医療の専門家でなく専門外の政治家が采配をふるうこと、感染防御策が徹底できていなかったこと等、反省して、今こそ対策をとらなければなりません。
もう一つ、情報発信の仕方を改善すべきです。新型コロナに関連して新しい薬や検査などのニュースがあると、たくさんお問い合わせがありますが、誤解が大変多いと感じます。受け取り手の立場を考え、政府やメディアの情報発信を工夫してほしいです。また、これまでの政府の情報発信は、子どもたちやお年を召した方に不親切だったのではないでしょうか。年齢別の発信も必要と感じます。
また、今から豪雨や台風などの災害の多い時期に入りますので、避難所の感染防止策など災害対策も重要です。
宮武 今やるべきことが、山積みですね。
井口 ええ。新型コロナ対応の第一線の病院以外の医療現場も大変です。たとえば、気管切開を行う耳鼻咽喉科が、通常の診療を続けていくには、大量のPPEが必要でしょう。必要なところに、PPEの備えが必要です。十分なPPEなしで対応しろというのは、竹やりで戦争に勝とうとするようなものです。母に「戦時中は竹やりで戦争に勝てると本気で思っていた。国民は、いくら賢くあっても、状況によりそうなるということを覚えておきなさい」と言われたことを思い出します。
また、PCRの検体を採取して保健所に検査を依頼しても、医院が算定できる点数が手技料の5点しかありません。PPEやスピッツ、生理食塩水、綿棒等が毎回必要ですし、リスクも高いのに、評価がつかなければ、検査に協力したくとも、誰もできないと思います。一般の開業医も「小さな最前線」であり、手当が必要です。
宮武 その通りですね。保険医協会は、医師数抑制や病床数削減の問題も訴えています。
井口 今回、患者を受け入れる病床がひっ迫したのは、受け入れる公立病院で病床や医師を減らしていたことにも一因があると思います。
宮武 伺った問題の改善を求めて、協会も国や自治体への要請やマスコミへの発信などを行っていきたいと思います。大変貴重なお話をありがとうございました。