2020年9月15日(1952号) ピックアップニュース
国保自治体アンケート結果
差し押さえ過去最多7425件
協会が毎年実施している「国保(国民健康保険)自治体アンケート」。2019年調査の結果がまとまり、保険料の滞納が加入世帯の2割にのぼり、差し押さえ件数は過去最高を更新するなど、国保加入世帯が高すぎる国保料に苦しんでいる現状が明らかとなった(図1)。背景には、各市町が、自治体予算を投じて保険料を引き下げる「法定外繰入」を大幅に減らしている問題がある。
保険証未交付3万件
このアンケートは県下の国保の保険料滞納や無保険の現状を明らかにするため1988年から行っており、28年連続で県下の全自治体から回答を得ている。
県全体の保険証未交付数は3万241世帯、未交付率は被保険者世帯比で4.1%となり、前回調査からほぼ横ばいとなった(図2)。しかし、尼崎市で8.7%、神戸市で6.3%、姫路市で5.7%、西宮市で5.5%と、都市部を中心に未交付率が高く、依然として多くの加入者が「無保険」状態に置かれている。
国保料滞納世帯に交付される、有効期間が短い短期被保険者証の交付は、2万5660世帯、3.51%とほぼ前年と同じとなった(図3)。
短期証の有効期間については、4カ月以下が1万4299世帯と、短期証の半数以上を占めた。有効期間が「1カ月以下」も2331世帯となるなど、少なくない世帯が継続的な通院が困難な状況を強いられていると考えられる。
資格証明書の2018年度発行世帯数は8491世帯、被保険者世帯比で1.16%とほぼ前年と同率となった(図3)。資格証明書は、医療機関を受診した際、いったん全額を自己負担しなければならないため、必要な医療機関受診を抑制することにつながり、患者の健康悪化を引き起こす可能性が極めて高い。昨年に引き続き、宝塚市・丹波市・養父市・市川町・福崎町の5市町は資格証明書を発行していない。協会は市町に対し、資格証明書を発行しないよう求めていく。
国保法44条に基づき、災害・事業の休廃止・失業・生活困窮の場合に、医療費窓口負担が免除、減額、猶予される制度は、全市町が規則・要綱を設けているが、住民に周知されておらず、利用は8自治体99世帯にとどまる。44条に基づいた減免制度が広がっていないことは課題である。
5世帯に1世帯が保険料滞納
保険料を滞納している世帯数は14万3948世帯で、国保加入世帯の19.7%、5世帯に1世帯にのぼる。
滞納期間が1年6カ月を超えた際、差し押さえが行われる場合がある。差し押さえ件数は全県で7425件となり、前回につづき、本項目の調査を開始した12年度以降で最高件数を更新した。特に昨年県下で最も差し押さえ件数が多かった姫路市が915件から1082件に増えたことをはじめ、宝塚市で858件、加古川市で753件、神戸市で484件と、年々、件数が増加している自治体が多い。
国による保険料軽減・免除制度を利用している世帯は、49万7186世帯と、全体の68.1%、約7割に達した。
自治体による独自の保険料減額制度は、尼崎市が加入世帯の37.0%にあたる2万3667世帯、西宮市で被保険者の27.4%にあたる2万3677人(西宮市は世帯数でなく、被保険者数で把握)、神戸市で7.5%にあたる1万5958世帯が利用している。この3市が独自減免利用世帯・被保険者のほとんどを占め、独自減免制度がないか利用者がわずかの市町も多い。高すぎる国保料の是正のため、自治体独自の減免制度拡充が求められる。
図1 急増する差し押さえ件数
図2 保険証未交付数・率の推移
図3 資格証明書と短期保険証の交付率の推移
国保自治体アンケート結果
法定外繰入総額が激減
子どもの均等割加西市が廃止予定
国保料は、所得に応じてかかる「所得割」、世帯ごとにかかる「平等割」、世帯の人数に応じてかかる「均等割」の合計となる。このため子どもが多いほど「均等割」が高くなるので、子育て支援に反すると全国の自治体で子どもの均等割を減免・廃止する動きが広がっている。
今回のアンケートでは新たに、子どもの均等割を廃止する予定があるか質問したところ、加西市が「廃止を予定している」と回答した。なお、赤穂市はすでに3人目の子どもは均等割を2分の1、4人目以降はゼロとする措置を行っている。子どもの均等割廃止をさらに多くの自治体に広げることが必要である。
レセプト点検 13市町が民間業者に「効果額目標」
診療報酬明細書(レセプト)点検について、民間業者委託を行っているのは41市町のうち26市町、うち13市町が「点検効果額目標」を「定めている」と回答した。
昨年の神戸市第1回国保運営協議会資料には「点検効果額が委託契約の最低目標額67200千円を下回ったため、解除権を行使」と記述があった。民間業者にレセプト請求金額を削減させている表れであり、大きな問題である。
国庫負担の抜本的増額・法定外繰入の継続を
市町村国保には、「年齢構成が高く、医療費水準が高い」「無職・低所得者が多く、所得水準が低い」構造のため、「保険料負担が重い」「収納率が低い」などの問題が存在する。
各市町は独自の法定外繰り入れを行い、保険料を引き下げているが、この繰入総額は、2015年には約102億円だったのが、2019年には約40億円に、1世帯あたりでも1万2354円から5446円へと急激に減少している。特に、神戸市など5市町では法定外繰入金額がゼロとなっている。
これは都道府県化と一体で開始した保険者努力支援制度により、収納率向上や法定外繰り入れ削減が評価されるようになったためと考えられる。同様にレセプトの点検の強化も評価されることから、点検効果額目標の設定につながっていると考えられる。
さらに、この制度により自治体がさらなる保険料引き上げと徴収強化を強いられた結果、保険証の未交付、短期被保険者証・資格証明書の発行、差し押さえが増加している可能性がある。
国保は市民の助け合い制度ではなく、憲法25条の生存権によって定められた社会保障制度の大切な柱の一つである。国保財政を立て直し、保険料高騰と滞納者増の悪循環を断ち切るためには、国庫負担の抜本的な増額、各自治体が行っている法定外繰り入れの継続・拡充が求められる。
表 県下自治体の国保保険証の未交付数、未交付率、差し押さえ件数一覧