2020年10月15日(1955号) ピックアップニュース
燭心
読書の秋とは、よく言ったものだ。夜長、酒とつまみを用意して、本棚を漁っては気ままに一冊を選ぶ。虫の音を友に、至福のひと時だ。さて今夜の一冊は、英国の作家、H・G・ウェルズの〝タイムマシン〟。19世紀末に書かれた、SFの古典である。何度も和訳され、映画化もされた、日本でも有名な小説だ▼およそ80万年後の世界では、人類は2種に分岐して進化している。無能で知性に欠けるひ弱な〝イーロイ〟と、彼らを捕食する獰猛な〝モーロック〟である。やがて主人公は、〝イーロイ〟は富を独占する上層階級の、〝モーロック〟は抑圧された下層階級の、未来の姿であることを知る。現代に戻った彼は、友人たちに警告を発するのだが...▼ウェルズの警告通りかは別にしても、行き詰まった資本主義は、20世紀になり、植民地の争奪から、2度の世界大戦を引き起こす。今やその反省もどこへやら。人々を分断する、弱肉強食の新自由主義の時代である。これ以上格差が進行すれば、人類の未来はどうなるのか? SFの話と笑ってはいられない▼もしもタイムマシンがあれば、皆さんは何をしたいだろうか? 未来を知れば、値上がり確実な株を買い占め、億万長者になることも可能だろう。いやいや、志はもっと大きく、気候変動や核戦争を防止して、人類を破滅から救うこともできる。過去を変えることはタブーでも、未来を変えることは誰にでもできる。少しの勇気さえあれば、たとえタイムマシンがなくたって。(星)