2021年1月05日(1962号) ピックアップニュース
新聞部の会員訪問 東灘区 山中 昭文先生
憧れのSF潜水艦を現実に
東灘区の山中昭文先生は、メカが大好きでSF映画などに出てきた潜水艦のラジコン作成を趣味とし、近年は機械好きをきっかけにエネルギー政策の転換の重要性を訴えている。森岡芳雄環境・公害対策部長が医院を訪問し、ラジコン潜水艦を実際に見せてもらいながら、その魅力からエネルギー政策・社会の持続可能性まで幅広く語り合った。
ラジコン潜水艦を日本に紹介
森岡 おお! これは映画「ミクロの決死圏」の「プロテウス号」(※1)ですね。懐かしい! 映画では、医師らがこれに乗り込んで小さくなり、血管内に入って病巣を治療するんですね。
山中 私の宝物です。小さい頃から大好きで、大人になってゼロから作りました。実際にプールで潜水している動画もご覧ください。
森岡 見事に航行していますね。水中なのにどうやって電波が届くんですか。
山中 最近のラジコン用電波で多いギガヘルツ帯ではなく、以前の波長の長い周波数なら水中でもある程度まで電波が届き、操作できるんです。ただし、モーター等に少しでも水が入ったら沈没してしまうので、気密性を保たなければなりません。メカニズムは、深度を変え方向転換もできるように設計し、さらに季節や時間が変わると水温の変化で水の密度が変わるので、モデル内の発泡スチロールなどで航行のたびにグラム単位で浮力を微調整しています。
森岡 私もバイクやパソコンなど機械いじりが好きですが、これはすごいですね。車や飛行機でなく、なぜ潜水艦を選ばれたのですか。
山中 小さい頃からメカ好きで、プラモデル作りや工作をよくしていました。特に特撮SFに出てくるような特別な機能や変わった形状のメカが好きで、この「プロテウス号」や、テレビドラマ「原潜シービュー号・海底科学作戦」のシービュー号やフライングサブ、ディズニー映画の「海底二万哩」の「ノーチラス号」などに夢中になりましたね。
聞き手 森岡芳雄副理事長
森岡 あの頃の特撮SF、私も大好きでした。懐かしいですね。空想の乗り物なので、実際に動かすとなると大変でしょう。
山中 そうなんです。私も昔はこんなことができるとは思っていませんでした。
きっかけになったのはアメリカのマイアミ大学に留学していた頃、当時はラジコン・レーシング・カーに夢中になっていたなかで、「北米ラジコン潜水艦協会」主催の「全米選手権」を知ったことです。行ってみたら、そこでは私が憧れていたシービュー号やノーチラス号が、現実に航行していました! どれも参加者の手作りで、外観だけでなく、本物の潜水艦のように、バラストタンクや浮力調整用注排水システム、姿勢制御システムなどを備えているものもありました。
感激し、参加者を質問攻めにして作成のノウハウを教えてもらい、当時コラムを書いていたラジコン専門誌に、記事を書いて送ると、巻頭カラーで大きく掲載されました。
その後帰国し数年して、たまたま六甲アイランドの人工池を訪れたとき、そこにラジコン潜水艦が航行していて驚きました。私の記事を見た人たちによって、神戸でラジコン潜水艦のクラブができていたんです。すぐに仲間に入れてもらいました。「JMSS」(日本模型潜水艦協会、※2)として今も活動しており、年に1度、レガッタを開催しています。
森岡 先生が日本に紹介したものが広がっていったんですね。
複雑な操作性が魅力
森岡 ラジコン潜水艦の魅力を教えてください。
山中 ラジコンカーのようにスピードが出るわけではないのですが、ゆったりとした航行のなかでも、綿密に調整しメンテナンスしないと、わずかなミスで浸水し沈没してしまうというスリルがあり、また左右だけでなく上下の操作も必要なため操作も複雑で、そこが何よりの魅力です。メカ好きの方にはぜひおすすめしたいです。
森岡 面白そうですね。一から作るのは大変そうですが、実際にやってみるにはどうすればいいのでしょうか。
山中 私も「プロテウス号」作成等で大変お世話になっている「たもつ模型」さんで、手作りの作品や部品を手に入れることができます。ホームページ(※3)があり、私の潜水艦の動画もご覧いただけますので、一度覗いていただきたいですね。
車から気づいたエネルギー転換の必要
森岡 さて、山中先生には、環境・公害対策部の部員としてもご活躍いただいています。昨年9月には、「原発のコスト」をテーマに、大島堅一・龍谷大学教授の学習会を企画されるなど、エネルギー問題に熱心に取り組んでおられます。きっかけになるような出来事が何かあったのでしょうか? メカ好きと関係があるのでしょうか?
山中 ええ、きっかけは2008年でした。愛車が故障し、さらにその頃ガソリン価格が高騰し、「このままでは大好きな車に乗れなくなるのでは? 乗り続けるにはどうしたらいいのだろう」と思い、さらに子どもができたこともあり、社会の持続可能性に興味を持ったんです。蒸気機関がなくなっていったように、今後の車は電気自動車か水素自動車に変わっていくだろうと予想し、発電の問題を解決すればいいと考えました。
さらにいろいろと調べた結果、たどり着いたのが地熱発電です。化石燃料は将来枯渇しますし、温室効果ガスを排出する。原子力も燃料のウランは同様に枯渇性で、さらに廃棄物の処理方法が確立されていない。太陽光等の再生可能エネルギーもありますが、出力が安定しないという問題があります。しかし地熱ならば、日本は、世界第3位の資源量があり、出力も大きく安定しており、エネルギーの自給の観点からも抜きんでています。
その年の夏には九州大学まで出かけ、日本地熱学会会長の江原幸雄教授(当時)にお話を伺いました。私は科学技術が発展すれば地熱発電が広がるものと単純に思っていたのですが、導入が進まない理由は温泉法や自然公園法等の法律や政策等にあり、技術だけでは変わらないということも教えていただきました。その3年後に東日本大震災・福島第一原発事故が起き、日本では地熱が大変重要だと再認識しました。
森岡 江原教授には神戸までお越しいただき、市民公開企画としてご講演いただきましたね。基幹電源となりうる地熱発電の重要性を教えていただけた非常に貴重なご講演でした。
山中 その節は、私のアイデアを採用していただいたことに、大変感謝しています。
持続可能な社会のため環境・エネルギー教育を
森岡 福島第一原発事故から今年3月で10年となりますが、政府は原子力や石炭火力に固執し、エネルギー政策の転換は進んでいません。環境・公害対策部としても、さらにがんばらねばと思っていますが、先生のこれからの目標はなんでしょうか。
山中 現在の社会を子どもたちに残していくため、重要な視点は「環境負荷」と「サスティナビリティー(持続可能性)」で、そのカギを握るのがエネルギー問題だと思います。そして最も大切なのは、子どもたちにこの問題の重要性を教えることです。「食育」という言葉がありますが、同じように環境・エネルギーについても小さい頃から学ぶようにすべきです。17歳のグレタ・トゥンベリさんが地球温暖化問題に真剣に取り組むよう呼びかけ話題となりました。世界中の子どもたちが理解と判断に基づく未来の選択を自ら行えるように、学びの機会を作ることが今後の人生における、神様から与えられた宿題だと思っています。
森岡 子どもたちへの働きかけは非常に重要ですね。次の世代にどんな社会を残すか。私たち大人の今後の環境・エネルギーに対する姿勢が問われていますね。一緒に情報発信を頑張りましょう。今後もどうぞよろしくお願いします。
※1 映画「ミクロの決死圏」:1966年公開。「海底二万哩」のリチャード・フライシャー監督による特撮SF映画の傑作。敵の襲撃により脳内出血となった要人の体内に、医師らが潜水艦「プロテウス号」ごとミクロ化して入り込み、治療する
※2 日本模型潜水艦協会(JMSS) http://www.jmss.jp/
※3 「たもつ模型」 http://tamo2mokei.sub.jp/