2021年3月25日(1969号) ピックアップニュース
燭心
今年は桜の開花が早いようである。この号が出る頃には、もうちらほら咲きになっているかもしれない。新型コロナのせいで、今年もお花見は自粛が要請されそうだ。無粋などんちゃん騒ぎは卒業して、静かに花を愛でるように心掛けたいものである▼水上勉氏の小説「櫻守」は、ダムに沈む桜を移植する物語である。主人公の弥吉が最期に骨を埋めてほしいと言った、清水
の桜を見に行ったことがある。湖北の小さな村のはずれに、墓地を見守るように立っている。樹齢300年のエドヒガンの大木は、風雪を経てきた神の化身のように思えた。弥吉は作家自身なのだろう。そう言えば山の向こうはもう、水上氏の故郷である▼人々に愛され、大切に守られてきた桜は全国数多いだろう。気仙沼で津波に被災した桜が、防災工事のために伐採された話を読んだ。生き残って再び花を咲かせた命、住民の気持ちは如何ばかりだろうか。せめてもの思い出にと、小野市の業者が算盤にして復活させてくれたそうだ。心温まる話である。私たちも震災の春は、ガレキに咲く桜に希望を見出したものだ。思いが共有できればうれしい▼もとより桜のせいではないが、桜は戦意高揚のために利用されたこともある。「櫻花」という特攻機まで作られた。1945年の春、死地に向かう若者たちはどのような気持ちで桜を見たのだろうか、花を見る時は思いを馳せたい。〝見事散りましょ、国のため〟というような時代は、二度と繰り返してはならない。(星)