2021年5月25日(1974号) ピックアップニュース
県知事選にあたり
開業保険医の重点要求(案)を承認
協会理事会は4月24日、兵庫県知事選挙(7月1日告示・7月18日投開票)に向けて、新型コロナウイルス感染症対策や医療・福祉制度の拡充など、県政の転換を求める「開業保険医の重点要求(案)」を承認した。今後、各専門部・支部にて検討を重ねて要求を汲み取り、投票日まで内容を充実させるとともに、この要求案の実現に賛同する予定候補者への推薦を検討する。以下に承認した要求案を掲載する。
2021年兵庫県知事選挙にあたっての開業保険医の重点要求(案)
はじめに
5期20年にわたる井戸県政のもと、県民の医療、福祉は、行財政構造改革の名で削減されつづけてきた。福祉医療に対する県費助成総額は、2001年度予算が約183億円であったのに対し、井戸県政下2020年度予算は約97億円とほぼ半減させられた。65歳から69歳までの低所得高齢者に対して医療費の1割を助成する老人医療費助成は、20年間で5回に分けて徐々に所得制限が厳しくされ、2016年度には廃止された。一人親や遺児を対象とする母子家庭等医療費助成も削減され続け、2004年度には約15億円あった予算は2020年度では約4億円に、対象者も11万人から3万人と4分の1近くまで減少させられた。各自治体が力を入れる子ども医療費助成制度でも、井戸県政は乳幼児とこども医療費助成に対する予算額を2001年度の約43億円から2020年度には約40億円と削減している。
また県立病院についても、県は県下各地で統廃合や移転統合を進めてきた。各地の県民・医療関係者の運動によって、一定の修正を行わせるなどの成果もあるが、国の方針のままに病床削減を進める県の姿勢は、地域医療に責任をもつ姿勢とは言いがたい。
新型コロナ禍でその重要性が脚光を浴びた保健所についても、兵庫県は2004年度に25カ所から13カ所に統合した。兵庫県の一般行政部門の保健師・助産師数は、175名から135名に削減。この保健所統合・人員削減によって、新型コロナウイルス対策の困難を招いたことは明らかである。
われわれは、2021年知事選挙を下記の要求実現の絶好の機会として、実現のために奮闘するものである。
2021年兵庫県知事選挙にあたっての
開業保険医の重点要求(案)
協会理事会が4月24日に承認した、県知事選挙にあたっての開業保険医の重点要求案全文を掲載する。
Ⅰ、国政の重要課題について
1、新型コロナウイルス感染症対策の抜本的強化を国に求めること
多くの人が亡くなり、今も闘病生活を余儀なくされている新型コロナウイルス感染症に対し、政府は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などを発令し、多くの国民や商業主に我慢を強いるばかりで、医療提供体制の抜本的増強や、国民生活の安定のための所得保障などには背を向け続けている。
県はこうした政府に対し、新型コロナウイルス感染症患者の治療や観察のための医療機関の機能分化の推進や第一線で新型コロナウイルス感染症患者の振り分けや通常医療の提供を継続する診療所等に対する減収補填を強く求めるべきである。さらに、新型コロナ禍を理由とした解雇や雇い止めで経済的に困窮する国民の所得を保証する制度や経営危機に瀕する中小零細事業主に対する営業補償を行うよう強く求めるべきである。
2、患者負担増や医療供給体制の縮小など医療保険制度改悪に反対すること
政府は、医療費抑制のために、患者負担増をさらに推進しようとしている。受診時定額負担導入やOTC薬の保険はずしなどは患者の必要な受診を抑制するものであり、断じて許されない。県は、こうした患者負担増の医療改悪に断固反対すべきである。
また、政府は医療提供体制の縮小もさらに推進しようとしている。地域医療構想実現のために、病院の統廃合に消費税財源を利用するとしている他、医師の長時間労働を容認する法案を成立させ、医学部定員拡大による抜本的な医師不足解消に背を向けている。県は、これらの政策に断固反対し、地域に十分な病床や医師を確保するよう国に働きかけるべきである。
3、大企業や富裕層の応分の負担で社会保障を充実させ、所得再分配機能を強化するよう求めること
新型コロナ禍にあって、世界中で効率至上主義や市場原理主義の弊害が指摘されている。にもかかわらず、政府は相変わらず政策理念として「自助・共助・公助」を掲げ、国民に自己責任を押し付けている。一方で、オリンピック開催への執着など一部大企業への利益供与には余念がない。
こうした政治を抜本的に転換し、新型コロナ禍にあっても内部留保を増加させている大企業に対する法人税増税や、富裕層への増税など、応能負担の原則に基づいた財源を確保し、社会保障制度を抜本的に拡充し、国民生活に安定と豊かさをもたらすよう政府に働きかけるべきである。
4、国民監視に道をひらくデジタル改革を改めるよう求めること
政府は新型コロナ禍での行政サービスの混乱を、「デジタル化」が進んでいないことが原因だとして、マイナンバーカードでのオンライン資格確認の導入などによるマイナンバーカードの普及をはじめとしたデジタル改革を進めようとしている。しかし、政府が成立させたデジタル改革関連法からも明らかなように、その目的は国民の資産をくまなく把握し、負担増をさらに進めるとともに、国民の健康情報などセンシティブ情報を民間企業に売り渡し、国民に対する社会保障給付を削減し、替わって各種サービスを市場で調達させようとするものである。そればかりか、国民の個人情報を国家が集中管理することで監視社会化を一層強めようというものである。県はこれらに反対し、県民の個人情報を保護し、県民の自己情報コントロール権を確立すべく政府に働きかけるべきである。
5、原発・石炭火発ゼロをめざし、再生可能エネルギーへの転換をめざすこと
史上最悪の被害をもたらした福島第1原発事故は、未だ収束したとは言い難く事故原因の検証も不十分な中で、原発の再稼働は断じて容認できない。県の一部が50㎞圏内となる福井県の原発の再稼働に反対し、全原発を廃炉にする道に踏み出すよう求めること。同時に、2050年にCO2排出実質ゼロの目標を実現するため、県内の石炭火発の新増設を認めず、再生可能エネルギーへの転換を促進すること。
6、災害被災者の生活復興を支援すること
阪神・淡路大震災から26年、東日本大震災から10年となるが、未だ被災者の生活再建はままならない。これらの大震災以来続く、「創造的復興」に名を借りた被災者の生活再建とかけ離れた大型公共開発路線を改め、被災者生活再建支援法の抜本的充実を行うべきである。また、兵庫県内で行われている借り上げ復興住宅からの被災者の追い出しをやめさせるべきである。
7、憲法を守り、社会保障を基盤とした県政をめざすこと
国民主権、平和主義、 基本的人権の尊重を原則とする現憲法の改悪は、断じて許されない。憲法第9条、第25条は、社会保障の基盤であり、国民皆保険制度の土台である。憲法25条の実現をめざすことを強く求めること。
Ⅱ、県民の生活と安全を守る県政に
1、新型コロナウイルス感染症から県民を守るための対策を充実させること
(1)新型コロナウイルス感染症患者に対して、重症度等に応じて最適な療養環境を十分に提供できるよう県のイニシアティブで各医療機関等療養施設の機能分化を行うとともに、それにあわせて公立・公的医療機関の人的資源を柔軟に配置すること
(2)通常の医療提供に支障をきたさないよう新型コロナウイルス感染症患者を受け入れていない民間医療機関も含めて、受診抑制等による減収を補填するよう国に求めるとともに、県独自の制度を創設すること
(3)医療機関等の感染防止に係る経費について十分な保障を国に求めるとともに、県独自の制度を創設すること
(4)医療従事者や介護従事者を初めとして、希望者が定期的に公費によりPCR検査を受けられる環境を整備すること
(5)ワクチン接種を担う医療機関や医療関係者が混乱をきたさないよう接種スケジュールや接種スキーム等を早急に策定し、明らかにすること
(6)業種・業態・規模に合わせて営業時間の短縮や休業に対する補償をきめ細かく実施し、まん延防止措置等の実効性をあげること
(7)新型コロナ禍を理由とした解雇や雇い止めに対して所得の補償を行うよう政府に求めるとともに、県独自の制度を創設すること
2、医療・福祉制度を拡充すること
(1)高齢期移行者医療助成制度を充実させ、65歳以上の高齢者は1割負担となるよう医療保険制度との差額を助成すること
(2)母子家庭等医療費助成の所得制限を、児童扶養手当の一部支給の所得制限まで緩和すること
(3)入院給食費助成を復活すること
(4)こども医療費は、県下市町の努力でその9割が中学3年生まで自己負担を無料にしている。市町まかせでなく、県の責任で「中3まで無料」を実現すること。さらに高校3年生まで無料をめざすこと
(5)福祉医療対象者の薬局における患者負担を廃止すること
(6)国民健康保険の保険料を引き下げるとともに、市町に不当な差し押さえを行わせないようにすること
(7)妊産婦健診助成を拡充すること
(8)歯科検診と妊産婦歯科検診を、どの歯科医院でも無料で受けられるようにすること
(9)予防接種事業は原則無料とし、全員が平等に受けられるようにすること
(10)介護保険制度の保険料・利用料について独自の減免制度をもうけること
(11)介護保険制度にかかわるマンパワーを増員し、同時に待遇を改善すること
(12)生活保護等福祉受給者を監視したり、差別することのないようにすること
3、公的医療機関の機能を充実すること
(1)阪神北準圏域での3次救急を担う医療機関を確保すること
(2)県立がんセンターの建替にあたって病床削減を行わないこと
(3)北播磨圏域に広域こども急病センターや地域周産期母子医療センターを整備すること
(4)西播磨準圏域での救急医療体制の確保を行うこと
(5)県立丹波医療センターの高度急性期体制を強化すること
(6)県立病院は引き続き県立・県営で運営すること
(7)県立病院をはじめ地域医療を支える診療報酬の引き上げを国に求めること
(8)地域医療構想を見直し、今後の新興感染症等に対応できるよう余裕を持った計画とすること
(9)保健医療計画や地域医療構想に救急対応後の後送病院や在宅医療を支援する病院の確保を圏域ごとに盛り込むこと
(10)県立病院の職員削減計画をやめ、一般会計からの補助金を増額すること。医療従事者の勤務条件を改善すること
(11)公立病院の強引な統廃合をやめ、医療関係者と住民、地元行政の合意を尊重すること
(12)先端医療開発を理由とした、メディカルツーリズムや混合診療に道を開く施策は行わないこと
(13)地域医療を充実させるため、県立病院を始め地域医療を担う医師や医療従事者を増員すること。県は僻地医療を担う医師の配置に責任を持つこと
(14)県立病院に歯科・口腔外科を整備すること
4、開業保険医が安心して診療に専念できるようにすること
(1)保険診療に関する監督責任のある県として、次のことに留意すること。審査・指導は「行政手続法」の趣旨にもとづき行わせること。主治医の裁量権を尊重し、医学・医療内容を無視した経済審査や強権的指導・監査を是正すること。事務職員による医療内容の点検関与、レセプト点検の民間委託はやめさせること
(2)医療廃棄物処理について公費助成を行うこと
(3)看護師・助産師・介護福祉士の不足を解消するための施策を実施すること
(4)県下全自治体に歯科検診・予防活動のセンターとなる口腔衛生センターを設立すること
(5)県立の歯科技工士学校を再度整備するとともに、適切な助成等を行い歯科技工士養成に力を入れること
(6)安心・安全の歯科技工物を県民に供給するため、歯科技工所に対する財政措置をとること
(7)2018年に兵庫県議会で採択された「歯科保健医療の一層の充実を求める意見書」の趣旨を引き続き国に要請すること
5、阪神・淡路大震災復興要求
(1)被災者生活再建支援法の改正をふまえ、阪神・淡路大震災被災者の暮らし再建・救済のために特例措置を講ずること
(2)現段階で返済できない災害援護資金、各種震災関連融資の返済を免除すること
(3)被災者生活再建支援法の支援限度額引き上げ、半壊・一部損壊世帯・住宅店舗への適用拡大、災害規模による適用条件の廃止を国に求めること
(4)借り上げ住宅の契約期間を延長し、希望者が安心して住み続けられるようにすること
(5)民間医療機関の耐震診断、耐震補強に助成すること
(6)南海トラフ巨大地震に対する防災対策を強めること
6、不必要な公共事業や環境破壊をやめること
(1)神戸空港や交流の翼港(淡路)、広畑地区大深度岸壁(姫路)など無駄な公共事業への支出を抜本的に見直すこと
(2)阪神・淡路大震災における解体工事によるアスベスト吸引など、アスベストを曝露した人の実態調査を長期間にわたって行い、住民への啓発活動を強めるとともに、被害者を救援すること。アスベストを含む建物の解体工事などに対して、厳しく監視すること
(3)温室効果ガス削減の取り組みを強化すること。温室効果ガスの排出量が多い石炭火力発電所の新増設は認めないこと
(4)高機能道路や幹線道路整備について、住民の納得と合意を尊重し、環境破壊とならないようにすること
7、県民のくらしと平和、民主主義を守ること
(1)非核自治体宣言を行うこと
(2)日本政府に対し核兵器禁止条約の署名・批准を求めること
(3)オスプレイを含む米軍機の訓練飛行や京都府北部に設置された米軍のXバンドレーダーの電波により兵庫県北部のドクターヘリ運行に支障をきたさないよう、政府や米軍に申し入れ等を行うなど必要な措置をとること
(4)日米地位協定を見直し、オスプレイ配備や辺野古新基地の建設に反対するとともに、過剰な基地負担を抱える沖縄県民に連帯の意思を表明すること
重点要求案については、内容をより充実させるよう、各支部・専門部でも日々議論を重ねています。会員の先生方も、電話078-393-1807まで意見をお寄せください。