2021年5月25日(1974号) ピックアップニュース
政策研究会 「人新世の『資本論』」で話題の齋藤幸平氏が講演
収奪をなくす社会へ転換を
齋藤氏は、これまでの生活を一変させた現在のコロナ禍について、人類による自然破壊が、新種のウイルスとの接触の一因になったと、資本主義のもとでの乱開発の危険性を指摘した。一方で、今後ワクチン接種等により、コロナ禍が収束した後に経済活動がV字回復するなどで、これまで通りの生活に逆戻りしてしまうと、過去に経験したような経済・金融危機の再来や大量生産・大量消費経済によるCO2大量排出での気候変動の危機もいっそう高まると警鐘を鳴らした。
SDGsは「大衆のアヘン」
こうした危機に対して、政府や企業は、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資を政策に組み込み、環境問題に対する責任を果たしているように見せかけているが、すでに地球温暖化による気候変動は、地球規模でCO2排出ゼロを実現しなければ取り返しのつかない状況にまで追い込まれていると指摘。消費者で対応可能なリサイクルやリユースなどの「一人ひとりの小さなアクション」では気候危機からは逃れられないと解説し、SDGsは環境問題の本質を国民から遠ざける「大衆のアヘン」であると批判した。新技術開発によってCO2排出を削減すべきという意見についても同様に、これまでの資本主義のもとでの技術革新は、企業のさらなる大量生産を可能とし、かえって商品の消費量、CO2排出量は増加すると解説。さらに、新技術に必要なレアアースなどの金属の産地が、一部の発展途上国に限られているため、先進国がそれらの国で乱開発を進めるという、国家間での新たな収奪構造も生まれているとした。