2021年6月15日(1976号) ピックアップニュース
特集 2021年県知事選
政策解説 兵庫県の福祉医療制度 20年で予算半減
7月18日投開票の兵庫県知事選挙にあたり、県政の争点をシリーズで解説する。第1回は、こども医療費や高齢者医療費などの福祉医療制度を取り上げる。
高齢者やこども、一人親や障害者などの社会的、経済的に弱い立場にある県民の医療費負担を軽減する福祉医療制度は、県民の健康保持・増進のために自治体が独自に助成を行うものであり、各自治体が県民の健康を守る姿勢を測る一つの指標となる。
5期20年続いた井戸県政は、「行財政改革のため」として、福祉医療制度の改悪を続けてきた(表)。予算で見ると、貝原前知事の最後の年、2001年度に、福祉医療に対する県費助成総額が約183億円であったのに対し、井戸県政最終盤の2020年度は約97億円とほぼ半減している(図)。
2000年には7割が対象になっていた同制度だが、2015年には対象は5%までせばめられ、2016年度にはついに制度を廃止してしまった。
老人医療費助成に代わって作られた「高齢期移行者医療費助成」は、所得制限に加え要介護2以上という要件が加えられるなど対象者がさらに限定されており、利用できるのはわずか2.4%にとどまる。
対象者も2000年度の21万7200人から2020年度はわずか9000人に、予算は2001年度の約74億円から2020年度に約1億8千万円と40分の1に激減している。
同様に一人親や遺児を対象とする母子家庭等医療費助成も所得制限を厳しくするとともに、自己負担を増やし、2004年度には約15億円あった予算は2020年度約4億円に、対象者も11万人から3万人と4分の1近くまで減少している。
当会の調査で、中学3年生まで医療費を入院・通院ともに無料としていた自治体は2011年度には6市町だったのが、2020年度には36市町(うち18市町は所得制限なし)となり、高校3年生世代まで何らかの助成を行っている市町はゼロから12市町と、大幅に拡充されている。
にもかかわらず、兵庫県の乳幼児とこども医療費助成に対する予算額は2001年度の約43億円から2020年度には約40億円と減少している。この20年間、県は助成対象の年齢を中3まで広げたものの、0歳児以外には所得制限を設け対象をせばめている。さらに、助成内容も通院・入院ともに自己負担を残し無料とはしていない。
この間の制度の前進は、安心して子育てをしたいと制度の改善を求めた住民の運動と、それを受け止めた各市町の努力によるものであり、県は貢献していないのである。
県の制度としての無料化を求める母親や医療者の要望に対し、兵庫県の担当者は「助成対象を中3まで広げ、対象年齢では全国トップクラス。自己負担は、制度を持続的で安定的に運営するには必要」と発言するなど、無料化に背を向け続けている。
本当に兵庫県の助成は全国トップクラスといえるのか。厚労省「2019年度乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」によれば、福島県・静岡県・鳥取県の3県が通院・入院ともに助成の対象年齢を18歳となる年の年度末としている。また、群馬県は2010年度から入院・外来とも所得制限なしで中学3年生まで医療費を無料としており、沖縄県も2022年度から中学3年生まで入院・外来とも無料とすることを決めた。「トップクラス」には程遠いのが現実である。
兵庫県の人口は10年連続減少しており、その主な原因は若年層の流出と言われている。そんな中、高校3年生まで所得制限なしで医療費を無料化することを決めた明石市では、人口が増加しており、若年層が住みたいと思える県を作るためにも、こども医療費無料化は有効な政策といえる。
新型コロナ禍により生活に困窮する県民が増えている今こそ、自治体は住民の健康を守るため、受診抑制が起こらないように福祉医療制度を拡充するべきである。
各候補が発表された政策を見ると、金田峰生氏は「子ども・障害者・一人親・高齢者の福祉医療助成制度を拡充」を明記している。一方、金沢和夫氏は「行財政改革を進め」と井戸県政の継承を明記し、子育て政策に「医療など子育て家庭の経済的負担の一層の軽減を検討」と書いているにとどまる。齋藤元彦氏、中川暢三氏に到っては、政策には、福祉医療に関連する項目は見当たらない。
兵庫県保険医協会は福祉医療の制度の拡充を各候補に求めていく。
高齢者やこども、一人親や障害者などの社会的、経済的に弱い立場にある県民の医療費負担を軽減する福祉医療制度は、県民の健康保持・増進のために自治体が独自に助成を行うものであり、各自治体が県民の健康を守る姿勢を測る一つの指標となる。
5期20年続いた井戸県政は、「行財政改革のため」として、福祉医療制度の改悪を続けてきた(表)。予算で見ると、貝原前知事の最後の年、2001年度に、福祉医療に対する県費助成総額が約183億円であったのに対し、井戸県政最終盤の2020年度は約97億円とほぼ半減している(図)。
老人医療費助成を廃止
特に、65歳から69歳までの低所得高齢者に対して医療費の1割を助成する老人医療費助成は、20年間で徐々に所得制限を厳しくして制度の対象者を減らしてきた。2000年には7割が対象になっていた同制度だが、2015年には対象は5%までせばめられ、2016年度にはついに制度を廃止してしまった。
老人医療費助成に代わって作られた「高齢期移行者医療費助成」は、所得制限に加え要介護2以上という要件が加えられるなど対象者がさらに限定されており、利用できるのはわずか2.4%にとどまる。
対象者も2000年度の21万7200人から2020年度はわずか9000人に、予算は2001年度の約74億円から2020年度に約1億8千万円と40分の1に激減している。
同様に一人親や遺児を対象とする母子家庭等医療費助成も所得制限を厳しくするとともに、自己負担を増やし、2004年度には約15億円あった予算は2020年度約4億円に、対象者も11万人から3万人と4分の1近くまで減少している。
こども医療費無料化前進に県は貢献せず
県内で、この20年間で大きく前進したのが乳幼児およびこども医療費助成である。当会の調査で、中学3年生まで医療費を入院・通院ともに無料としていた自治体は2011年度には6市町だったのが、2020年度には36市町(うち18市町は所得制限なし)となり、高校3年生世代まで何らかの助成を行っている市町はゼロから12市町と、大幅に拡充されている。
にもかかわらず、兵庫県の乳幼児とこども医療費助成に対する予算額は2001年度の約43億円から2020年度には約40億円と減少している。この20年間、県は助成対象の年齢を中3まで広げたものの、0歳児以外には所得制限を設け対象をせばめている。さらに、助成内容も通院・入院ともに自己負担を残し無料とはしていない。
この間の制度の前進は、安心して子育てをしたいと制度の改善を求めた住民の運動と、それを受け止めた各市町の努力によるものであり、県は貢献していないのである。
県の制度としての無料化を求める母親や医療者の要望に対し、兵庫県の担当者は「助成対象を中3まで広げ、対象年齢では全国トップクラス。自己負担は、制度を持続的で安定的に運営するには必要」と発言するなど、無料化に背を向け続けている。
本当に兵庫県の助成は全国トップクラスといえるのか。厚労省「2019年度乳幼児等に係る医療費の援助についての調査」によれば、福島県・静岡県・鳥取県の3県が通院・入院ともに助成の対象年齢を18歳となる年の年度末としている。また、群馬県は2010年度から入院・外来とも所得制限なしで中学3年生まで医療費を無料としており、沖縄県も2022年度から中学3年生まで入院・外来とも無料とすることを決めた。「トップクラス」には程遠いのが現実である。
兵庫県の人口は10年連続減少しており、その主な原因は若年層の流出と言われている。そんな中、高校3年生まで所得制限なしで医療費を無料化することを決めた明石市では、人口が増加しており、若年層が住みたいと思える県を作るためにも、こども医療費無料化は有効な政策といえる。
安心して受診できるよう福祉医療制度拡充に転換を
本来医療は国が責任を持つべきで、国の制度として、だれもがお金の心配なく安心して受診できる制度にすることが必要だ。しかし、国は窓口負担を軽減するどころか、負担を増やそうと制度を改悪するばかりである。新型コロナ禍により生活に困窮する県民が増えている今こそ、自治体は住民の健康を守るため、受診抑制が起こらないように福祉医療制度を拡充するべきである。
各候補が発表された政策を見ると、金田峰生氏は「子ども・障害者・一人親・高齢者の福祉医療助成制度を拡充」を明記している。一方、金沢和夫氏は「行財政改革を進め」と井戸県政の継承を明記し、子育て政策に「医療など子育て家庭の経済的負担の一層の軽減を検討」と書いているにとどまる。齋藤元彦氏、中川暢三氏に到っては、政策には、福祉医療に関連する項目は見当たらない。
兵庫県保険医協会は福祉医療の制度の拡充を各候補に求めていく。