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兵庫保険医新聞

2021年8月05日(1981号) ピックアップニュース

会員インタビュー
ときわ病院摂食機能支援センター 中村 純也先生
摂食機能支援で食を豊かに

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【なかむら じゅんや】1982年生まれ。2009年大阪大学歯学部卒業。神戸市立医療センター中央市民病院初期研修、同西市民病院後期研修を経て、現在ときわ病院歯科口腔外科医長
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、サルコペニア・フレイル指導士、日本歯科麻酔学会認定医、日本有病者歯科医療学会専門医

 高齢者の摂食機能の維持は、健康寿命の延伸や誤嚥事故防止等で、歯科界で注目されている。摂食機能支援センターで高齢者の口腔機能の維持に取り組む三木市・ときわ病院歯科口腔外科の中村純也先生にインタビューした。

多職種で摂食嚥下機能をチェック

 加藤 貴病院では高齢者の摂食機能支援に力を入れているとお伺いしました。摂食嚥下に関しては最近、歯科界での関心が高まってきています。
 中村 当院は歯科医師や歯科衛生士が多く在籍していますので、歯科が中心となれる食への支援を考え、2016年に摂食機能支援センターを立ち上げました。メインは入院患者ですが、外来や在宅、施設の患者も診ています。入院患者に対し私が重要だと考えているのは、食形態をしっかり評価することです。
 そのためのセンターの柱の一つに、ミールラウンドという食事の観察があります。高齢者の入院時に、主治医が嚥下機能までチェックするのはなかなか難しいかと思いますが、入院直後から食事の提供が始まることも多く、すぐに何かしらの食形態を選ばなければなりません。ですので、入院して最初の食事時に、管理栄養士、歯科衛生士、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の4職種が集まり、患者さんの食事の状況から食形態評価をします。栄養面や嚥下面、口腔面、食事時の動作などから適切な食形態はある程度推察できるので、安全性も一定以上担保できるようになりました。その後、先ほどの4職種に各病棟看護師、私も含め週1回ミールラウンドを継続し、再評価を行っています。
 もう一つ重視しているのが嚥下造影検査(VF)です。実際にバリウムが入ったさまざまな模擬食品を食べていただき、X線で口腔期から咽頭期、食道期までの嚥下の全体を見るもので、20分ほどの検査です。反射の遅延や不顕性誤嚥など、どうしても外部評価中心の食形態評価・ミールラウンドだけでは見抜くことができず、入院中にムセや発熱が出たりすることもありますので、そのような場合は入院中にVFを行い、さらに精密に評価します。
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聞き手 加藤 擁一副理事長

早めの食事で早く元気に

 加藤 入院早期に多職種で評価することが、その後の入院生活や早期の回復においても大事ということですね。
 中村 嚥下機能の維持には、禁食はできる限り少ない方がいいというのが最近の考え方で、誤嚥性肺炎の方でも急性期を脱したら早めに食事を出さないと、医原性サルコペニアやサルコペニアの摂食嚥下障害に陥ると言われています。当院では食形態評価システム(約200件/年)やミールラウンド(週1回以上)、VF(約120件/年)、口腔アセスメント(入院患者全例)を患者に行うので、医師・患者双方の安心感につながっています。また体力の衰えを最小限にできて退院時期も早められたり、食べられる状態で退院できたという喜びの声をいただいています。多職種連携が入退院支援のカギだと思います。
 加藤 最近NST(栄養サポートチーム)が注目されているように、口からの食事が重要だと知られてきました。摂食訓練も行っているとのことですが。
 中村 はい。入院患者を主に、STと協働で実施していますが、VFや口腔機能評価の結果を見て、舌圧訓練や舌骨上筋群の訓練を中心に実施しています。予防も大事ですので、飲み込みが最近気になるというような外来患者に対しても同様の検査を行い、必要に応じて指導・訓練を行います。咀嚼障害は歯の問題とされがちですが、私が注目しているのは舌の動きです。そこが悪いせいで食形態を落とさざるを得ないという人も、入院患者にとても多いので、義歯や歯の本数だけでなく、舌圧などの運動器の重要性を強調しています。

人生の最終段階をより豊かに

 加藤 在宅診療にも取り組まれているとのことですが、施設との連携などはどうされていますか。
 中村 退院後に特養などの施設に行かれる方も多くおられますが、施設退院に際しては、入院中のVFや嚥下内視鏡検査(VE)の結果や食事時の姿勢、食形態を必ず施設側に情報提供するようにしています。可能なら特養での食事時にミールラウンドを行い、切れ目ない食支援を意識しています。在宅に移られる方にも、例えば外来受診でVFを行い、その場の指導だけでは不安がある場合はその後に在宅診療に伺って食事の様子をしっかり診るようにしています。  加藤 在宅と入院との違いはありますか。
 中村 院内では、誤嚥の危険性や治療の観点などから食形態も制限することも多いですが、自宅に戻られたら食は完全に生活の一部となり、食べたいものを食べたり、お酒を飲んだりなど、自由度が上がります。それらをすべて縛るのではなく、どうしても食べたいものは何とか工夫したり摂取量を調整したり、制限すべきところは制限したりなど、在宅特有の食支援もあると思うので、VFの結果がすべてじゃないと、自分に言い聞かせています。
 加藤 身体が動かなくなってきた高齢者にとっては、食べることが唯一の楽しみという方も多いでしょうからね。
 中村 誤嚥性肺炎や窒息の恐れから食形態を下げてしまいがちですが、摂取量を確保するには食べたいものを食べることも大事な視点なので、食べてはいけないものを探すのではなく、これならギリギリ楽しく食べられるというラインを積極的に探していけるよう心がけています。
 私たちは摂食機能「支援」センターという通り、摂食機能治療や嚥下訓練にとどまりません。脳梗塞の回復期などはもちろん積極的に訓練を施しますが、当院の入院患者さんの多くは超高齢者です。VFで良くない結果になっても、ご本人やご家族が胃ろうではなく食事を強く希望されることもあります。その逆で、認知機能が低下されている方には、嚥下機能は高いのに食べるのを拒否する方もおられます。どちらの場合も患者と家族による意思決定が重要で、食支援はその中心を占めます。食べられないから胃ろう、食べられるから常食、のような0か100ではない、質の高い食支援・入退院支援・意思決定支援をめざしています。患者さんにとって大切な、人生の穏やかな最終段階とはなにか、いつも正面から向き合わされます。

病院歯科の新しい形を示す
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VFでは、X線で嚥下の状態を撮影する

 加藤 地域医療を担う私ども開業医に期待することがありましたら、お願いします。
 中村 最近は開業医の先生方の中でも、体制を整えてVEをされる方が多いですね。とても大事なことだと思いますが、すべての開業歯科医師が実践するのは難しいでしょう。しかし、口腔機能低下や低栄養には開業歯科医師だからこそ着目できると考えています。高齢者歯科医療における歯科医師の貢献は、口腔機能維持によるQOL向上、低栄養予防こそ重要だと思うので、義歯を入れて終わりではなく、例えば診療所に一つ体重計を置いていただき、作製した義歯を入れて半年後や1年後に体重が減ってないかまで調べる。そして変化があれば、握力や舌圧などを測定し食事内容やフレイルについて患者さんと一緒に考えられるように、歯科医師がもう一歩頑張っていければよい結果につながると思います。
 加藤 義歯を入れた後の経過にも注意が必要ですよね。ただ、一般的に口腔外科は昔から不採算部門と言われている点が心配です。
 中村 口腔外科の診療報酬は他科に比べて低く、単体では収益は上がりにくいと思います。栄養サポートチームの整備によるNST加算などもわずかですので、当センターのような取り組みにも点数がつくことを期待しています。しかし重要なのは、食支援・入退院支援が病院全体の売りになっていることです。外来・入院で口腔機能・嚥下機能を評価し対応することは患者さんの利益に直結し、ひいては病院全体の利益になると信じています。当科が病院歯科として高齢者医療との新しい関わりを示せればと思っています。
 加藤 新しい病院歯科の形に期待します。協会も、保険点数を上げて正当に評価するように引き続き働きかけていきます。本日はどうもありがとうございました。

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