2021年9月25日(1985号) ピックアップニュース
2020年国保保険証交付等に関する自治体アンケート結果
差し押さえ数 過去最多を更新
協会が毎年実施している「国保(国民健康保険)自治体アンケート」。2020年調査の結果がまとまり、新型コロナウイルス感染拡大による受診控えで昨年春の医療給付費が大きく減少したこと、保険料滞納世帯は5世帯に1世帯にのぼり、滞納世帯に対する差し押さえが3年連続過去最多を更新したことが明らかとなった。
保険料を滞納している世帯数は12万9822世帯で、国保加入世帯の17.9%、5世帯に1世帯にのぼる。
滞納期間が1年6カ月を超えた際、差し押さえが行われる場合がある。差し押さえ件数は全県で8013件となり、3年連続で、本項目の調査を開始した12年度以降での最多件数を更新した(図1)。特に、宝塚市が昨年の858件から1142件、明石市が219件から706件、神戸市が484件から694件へ増加したほか、姫路市で765件、加古川市で727件と件数が多くなっている。
国による保険料軽減・免除制度を利用している世帯は、48万6769世帯と、全体の67.2%、約7割にのぼる。自治体による独自の保険料減額制度は、尼崎市が加入世帯の36.2%にあたる2万3104世帯、西宮市で被保険者の27.5%にあたる2万3729人(西宮市は世帯数でなく、被保険者数で把握)、神戸市で7.4%にあたる1万5672世帯が利用している。この3市が独自減免利用世帯・被保険者のほとんどを占め、他の市町では独自減免制度がないか利用者がわずかである。高すぎる国保料是正のため、自治体独自の減免制度の拡充が求められる。
国保料は、所得に応じてかかる「所得割」、世帯ごとにかかる「平等割」、世帯の人数に応じてかかる「均等割」の合計となる。「均等割」は、世帯人数が多ければ多いほど重くなる人頭税の仕組みである。子どもが多いほど世帯の保険料が高くなり、子育て支援に反すると全国の自治体で子どもの均等割について減免や廃止の動きが広がり、2022年度からは国が未就学児の均等割を半額に軽減することとなった。播磨町では、町独自で2021年度より同様の措置を先行実施している。
また、加西市では高校3年生までの均等割を全額免除とし、赤穂市は3人目の子どもの均等割を2分の1,4人目以降は廃止とする措置を行っている。子どもの均等割廃止をさらに多くの自治体に広げることが必要である。
また、受診控えによる医療給付費への影響を見るため、2019年度と2020年度の4月〜12月までの医療給付費を比較した(図2)。その結果、最初の緊急事態が出された2020年4月には前年度比10.3%減、5月には13.5%減と大幅に医療給付費が減少していることが明らかになった。4〜12月までの合計では0.1%の増となり、一人当たり医療費では1.2%の増加となるが、県の国保運営協議会によると一人当たり医療費が毎年2〜3%増加していること、また1月から緊急事態宣言により再び受診抑制が起こったと考えると、受診控えによって医療給付費が減少していることがうかがえる。
国保料滞納世帯に交付される、有効期間が短い短期被保険者証の交付は、2万3279世帯、3.2%と前年から微減となった。短期証の有効期間については、1カ月以下が2622世帯と1割を占め、半数超が4カ月以下となるなど、継続的な通院が困難な状況が強いられていると考えられる。
資格証明書の2019年度発行世帯数は8600世帯、被保険者世帯比で1.19%とほぼ前年と同率となった(図4)。資格証明書は、医療機関を受診した際、いったん全額を自己負担しなければならないため、必要な医療機関受診をいっそう抑制することにつながり、患者の健康悪化につながる可能性が極めて高い。県下でも、昨年に引き続き、宝塚市・丹波市・養父市・市川町・福崎町の5市町は資格証明書を発行しておらず、協会は市町が資格証明書を発行しないよう求めていく。
国保には国保法44条に基づいて、災害・事業の休廃止・失業・生活困窮の場合に、医療費窓口負担が免除、減額、猶予される制度が定められている。44条に基づき、制度に対応する条例もしくは規則・要綱を全市町が設けているが、住民に周知されておらず、利用者は4自治体20世帯と昨年度の5分の1近くに減少している。特に神戸市では、前年度71件から5件と激減している。44条に基づいた減免制度が広がっていないことは課題である。
なお、「定めていない」と回答した神戸市に問い合わせたところ、担当者より「契約書上は『年間目標効果額は受託者からの提案を受けて協議の上決定する』となっており、神戸市側で目標額を定めたわけではないため、定めていないとさせていただいた」と回答があり、実際には目標効果額が設定されている。
多くの市町が、民間業者にレセプト請求金額の削減を行わせており、大きな問題である。
各市町は独自で法定外繰り入れを行い、保険料を引き下げているが、この繰入総額は、年々減少し続けており、2015年には約102億円だったのが、2020年には約38億円、1世帯あたりでも1万2354円から5270円へと大幅に減少している(図5)。特に、法定外繰入金額がゼロの市町は、昨年度の5市町から神戸市など9市町へと大幅に増加している。
国保の都道府県化と一体で開始した保険者努力支援制度により、保険収納率の向上や法定外一般繰り入れの削減が評価されるため、市町村の法定外繰り入れが困難となっていることが考えられる。また、レセプト点検の強化も評価されることから、点検効果額目標の設定にもつながっていると考えられる。さらに、この制度により自治体が保険料引き上げと徴収強化を強いられ、差し押さえの増加につながっている可能性がある。
国保は市民の助け合い制度ではなく、憲法25条の生存権によって定められた社会保障制度の大切な柱の一つである。国保財政を立て直し、保険料高騰と滞納者増の悪循環を断ち切るためには、国庫負担の抜本的な増額、各自治体が行っている法定外繰り入れの継続・拡充が求められる。
保険料滞納5世帯に1世帯
このアンケートは県下の国保の保険料滞納や無保険の現状を明らかにするため1988年から行っており、29年連続で県下の全自治体から回答を得ている。保険料を滞納している世帯数は12万9822世帯で、国保加入世帯の17.9%、5世帯に1世帯にのぼる。
滞納期間が1年6カ月を超えた際、差し押さえが行われる場合がある。差し押さえ件数は全県で8013件となり、3年連続で、本項目の調査を開始した12年度以降での最多件数を更新した(図1)。特に、宝塚市が昨年の858件から1142件、明石市が219件から706件、神戸市が484件から694件へ増加したほか、姫路市で765件、加古川市で727件と件数が多くなっている。
国による保険料軽減・免除制度を利用している世帯は、48万6769世帯と、全体の67.2%、約7割にのぼる。自治体による独自の保険料減額制度は、尼崎市が加入世帯の36.2%にあたる2万3104世帯、西宮市で被保険者の27.5%にあたる2万3729人(西宮市は世帯数でなく、被保険者数で把握)、神戸市で7.4%にあたる1万5672世帯が利用している。この3市が独自減免利用世帯・被保険者のほとんどを占め、他の市町では独自減免制度がないか利用者がわずかである。高すぎる国保料是正のため、自治体独自の減免制度の拡充が求められる。
国保料は、所得に応じてかかる「所得割」、世帯ごとにかかる「平等割」、世帯の人数に応じてかかる「均等割」の合計となる。「均等割」は、世帯人数が多ければ多いほど重くなる人頭税の仕組みである。子どもが多いほど世帯の保険料が高くなり、子育て支援に反すると全国の自治体で子どもの均等割について減免や廃止の動きが広がり、2022年度からは国が未就学児の均等割を半額に軽減することとなった。播磨町では、町独自で2021年度より同様の措置を先行実施している。
また、加西市では高校3年生までの均等割を全額免除とし、赤穂市は3人目の子どもの均等割を2分の1,4人目以降は廃止とする措置を行っている。子どもの均等割廃止をさらに多くの自治体に広げることが必要である。
新型コロナ受診抑制で医療給付減
新型コロナウイルス感染拡大を受け、昨年度、コロナ感染により事業収入が減少した世帯には保険料の軽減措置が行われた。この減免件数は調査した昨年12月1日時点で1万5912件、全体の2.2%にのぼる。また、コロナによる傷病手当の申請件数は60件となっていた。また、受診控えによる医療給付費への影響を見るため、2019年度と2020年度の4月〜12月までの医療給付費を比較した(図2)。その結果、最初の緊急事態が出された2020年4月には前年度比10.3%減、5月には13.5%減と大幅に医療給付費が減少していることが明らかになった。4〜12月までの合計では0.1%の増となり、一人当たり医療費では1.2%の増加となるが、県の国保運営協議会によると一人当たり医療費が毎年2〜3%増加していること、また1月から緊急事態宣言により再び受診抑制が起こったと考えると、受診控えによって医療給付費が減少していることがうかがえる。
保険証未交付2万6千件
県全体の保険証未交付数は2万5882世帯、未交付率は被保険者世帯比で3.6%となり、前回調査から減少した(図3)。しかし、尼崎市で7.4%、市川町で6.2%、加東市で6.0%、神戸市で5.9%、西宮市で5.6%にのぼり、都市部を中心に未交付率が高く、依然として多くの加入者が「無保険」状態に置かれている。国保料滞納世帯に交付される、有効期間が短い短期被保険者証の交付は、2万3279世帯、3.2%と前年から微減となった。短期証の有効期間については、1カ月以下が2622世帯と1割を占め、半数超が4カ月以下となるなど、継続的な通院が困難な状況が強いられていると考えられる。
資格証明書の2019年度発行世帯数は8600世帯、被保険者世帯比で1.19%とほぼ前年と同率となった(図4)。資格証明書は、医療機関を受診した際、いったん全額を自己負担しなければならないため、必要な医療機関受診をいっそう抑制することにつながり、患者の健康悪化につながる可能性が極めて高い。県下でも、昨年に引き続き、宝塚市・丹波市・養父市・市川町・福崎町の5市町は資格証明書を発行しておらず、協会は市町が資格証明書を発行しないよう求めていく。
国保には国保法44条に基づいて、災害・事業の休廃止・失業・生活困窮の場合に、医療費窓口負担が免除、減額、猶予される制度が定められている。44条に基づき、制度に対応する条例もしくは規則・要綱を全市町が設けているが、住民に周知されておらず、利用者は4自治体20世帯と昨年度の5分の1近くに減少している。特に神戸市では、前年度71件から5件と激減している。44条に基づいた減免制度が広がっていないことは課題である。
民間業者にレセプト点検15市町が「効果額目標」
診療報酬明細書(レセプト)点検について、民間業者委託を行っているのは41市町のうち28市町と、前年度から宝塚市と三田市の2市が増えた。そのうち15市町が「点検効果額目標」を「定めている」と回答し、2市町増えているが、昨年度「定めている」としていた神戸市と伊丹市は「定めていない」に変わっており、三田市・高砂市・多可町・播磨町が新たに目標を「定めている」とした。なお、「定めていない」と回答した神戸市に問い合わせたところ、担当者より「契約書上は『年間目標効果額は受託者からの提案を受けて協議の上決定する』となっており、神戸市側で目標額を定めたわけではないため、定めていないとさせていただいた」と回答があり、実際には目標効果額が設定されている。
多くの市町が、民間業者にレセプト請求金額の削減を行わせており、大きな問題である。
国庫負担の抜本的増額法定外繰入の継続・拡充を
市町村国保には、「年齢構成が高く、医療費水準が高い」「無職・低所得者が多く、所得水準が低い」構造のため、「保険料負担が重い」「収納率が低い」などの問題が存在する。各市町は独自で法定外繰り入れを行い、保険料を引き下げているが、この繰入総額は、年々減少し続けており、2015年には約102億円だったのが、2020年には約38億円、1世帯あたりでも1万2354円から5270円へと大幅に減少している(図5)。特に、法定外繰入金額がゼロの市町は、昨年度の5市町から神戸市など9市町へと大幅に増加している。
国保の都道府県化と一体で開始した保険者努力支援制度により、保険収納率の向上や法定外一般繰り入れの削減が評価されるため、市町村の法定外繰り入れが困難となっていることが考えられる。また、レセプト点検の強化も評価されることから、点検効果額目標の設定にもつながっていると考えられる。さらに、この制度により自治体が保険料引き上げと徴収強化を強いられ、差し押さえの増加につながっている可能性がある。
国保は市民の助け合い制度ではなく、憲法25条の生存権によって定められた社会保障制度の大切な柱の一つである。国保財政を立て直し、保険料高騰と滞納者増の悪循環を断ち切るためには、国庫負担の抜本的な増額、各自治体が行っている法定外繰り入れの継続・拡充が求められる。