兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2021年10月25日(1988号) ピックアップニュース

2021年衆議院選挙 政策座談会
医療の充実を選挙で実現しよう

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加藤 擁一副理事長

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武村 義人副理事長

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水間 美宏理事

 10月31日、投開票の総選挙にあたって、政策・運動・広報委員会ではこれまでの国政を、医療政策を中心に振り返るとともに、主要な政党の公約等について議論した。司会は西山裕康理事長。参加者は加藤擁一・武村義人・森岡芳雄・川西敏雄各副理事長、水間美宏・坂口智計両理事。

安倍・菅政権を継承する岸田政権
 西山 いよいよ総選挙だ。まずはこれまでの自公政権について、振り返りたい。
 加藤 新たに発足した岸田政権は、すでにトーンダウンしつつあるが、「新自由主義からの脱却」、「成長と分配の好循環」、「被爆地広島出身の総理大臣として、核兵器のない世界に向けて全力を尽くす」などと耳あたりの良い言葉を並べている。しかし冷静に見なければいけないのは、岸田首相は、5年間弱外務大臣として、そして歴代最長となる3年間以上も自民党政調会長として、安倍・菅政権を支えた人物だということだ。
 武村 そもそも、安倍政権は森友学園や加計学園の問題、「桜を見る会」の私物化、河井案里元参院議員への自民党本部からの資金提供疑惑などさまざまな問題が国民的に追及された上、新型コロナ対策の失敗で追いこまれ、政権を投げ出した。その後を継いだ菅政権も学術会議会員任命拒否問題や新型コロナ対策の失敗で、いわゆる「選挙の顔」が務まらないと判断されると、自民党は新型コロナ対策そっちのけで総裁選を行って、首相の首を挿げ替えただけだ。
 本当に新自由主義から脱却するとすれば、財界の強い反対を押し切って、社会保障費の抑制を止め、法人税や富裕層への増税をしなければならないはずだ。そんなことが財界いいなりの自民党にできるはずがない。
新型コロナでも医療費抑制策を継続
 西山 では、もう少し具体的に安倍・菅政権の新型コロナ対策について振り返ってみたい。
 森岡 新型コロナ対策ということで見れば、この1年半、政府の対策の特徴は、自粛は呼びかけるがまともな補償はしないのに、東京五輪・パラリンピックやGoToキャンペーンに代表されるように財界への利益供与は感染対策そっちのけで進めるというものだ。
 川西 その通りだ。まともな補償をせずに、自粛に協力しない飲食店などの営業者を悪者にして、批判するのは間違っている。
 医療機関への協力要請も同様で、病床を増やせという要請を各病院に出して、それに従わなければ病院名を公表するなどペナルティーを科すという強権的なやり方で手を打とうという姿勢が目立った。
 加藤 コロナ禍での医療機関への対応では、この間、行政が自らの無策を棚に上げて、民間医療機関が協力しないせいで新型コロナ対策が進まないという論調が増えているのは大きな問題だ。
 橋下徹元大阪市長はさまざまなメディアで、協力しない医療機関は保険医療機関指定を取り消せとまで言っている。財務省も財政制度等審議会で、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた病院が、それまでよりも黒字幅を拡大させていることを問題視している。
 病院の経営状況は、規模や標榜科によってまちまちで、その平均をとって議論するのはあまりにもずさんだし、そもそも平時からぎりぎりの経営を迫られている病院が、コロナ禍で必死の対応をして、黒字幅を増やすことが問題なのか。ここに政府の医療機関に対する冷たさが出ている。
 地域の医療提供体制を守るためにコロナ感染を恐れた患者さんの受診抑制で経営が悪化した医療機関に対し、減収補填などの措置をとることこそ国が行うべきことだ。
 森岡 岸田首相は、就任後の記者会見で、公的価格のあり方の抜本的な見直しを掲げ、医師、看護師、介護士などの所得向上を実現すると述べた。そのまま受けとめれば、来年度の診療報酬改定は大幅プラスになると期待できるが。
 加藤 確かに岸田首相は「公的価格評価検討委員会(仮称)」を設けるとしているが、自民党の総選挙公約では「確実な医療提供体制を構築するための診療報酬改定を行います」としながらも、医師の記述がなくなり「看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士」に限定されている。診療報酬の大幅プラス改定の実現は疑問だ。
 水間 新型コロナ禍で日本の医療提供体制の脆弱性が明らかになった。私たちが長年にわたって指摘してきた病床削減や医師養成数の抑制など低医療費政策が医療逼迫といわれる状況を招いたのは間違いない。感染症病床は、2000年から20年間で20%以上も削減されている。人口当たり医師数もOECD平均と比較して、13万人も足りていない。必然的に感染症分野の専門医養成などは後回しにされ、感染症専門医や集中治療医なども諸外国と比較して非常に少ないと言われている。
 森岡 それどころか、政府はさらに病床を削減する姿勢を崩していない。岸田首相は代表質問で地域ごとに病床削減計画をまとめた地域医療構想について問われ、撤回するどころかさらに計画を推進する考えを強調している。先の通常国会でも、消費税増税で得た財源を病院統廃合に投入する法律を成立させていることからも政府の病床削減の姿勢はコロナ禍を経たいまでも継続していると言える。
 坂口 先の通常国会では、75歳以上の高齢者の医療費窓口負担を原則1割から2割に引き上げることも決まった。これもコロナ禍で行うことではなったはずだ。
 川西 その通りだ。新型コロナに感染した際のリスクが非常に高いということで、高齢者は非常につらい自粛生活を余儀なくされてきた。さらに、現在の低年金の下では、生活が困難で、非正規雇用で働く方も多いので、このコロナ禍で仕事を失った人も多い。そうした中で、さらに高齢者の医療費窓口負担を上げるというのは、本当にひどい政策だ。政府は現役世代の負担軽減をその理由に挙げているが、その額は月30円でしかない。本当の狙いは、国庫負担の軽減だ。
 武村 コロナ禍にあっても、低医療費政策を改めようとしない自公政権に、これ以上政治を任せることはできないのではないか。

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司会 西山 裕康理事長

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森岡 芳雄副理事長

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川西 敏雄副理事長

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坂口 智計理事

格差拡大の経済政策は転換を
 西山 医療政策以外はどうだろうか。
 武村 まずは、経済政策についてだが、岸田首相は、代表質問で「『新しい資本主義』はアベノミクスも基礎とした新しい概念だ」と答弁している。これで、岸田首相が掲げている「新しい資本主義」とか「新自由主義からの決別」というのは言葉だけで、自公政権が続けばアベノミクスが継続され、さらに格差や貧困が拡大していくことがハッキリした。まったく期待はできないだろう。
 森岡 財務省の法人企業統計によると、大企業の内部留保は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るった20年度でも、466.8兆円で過去最高額を更新した。一方で、労働者1人当たり賃金は前年から1.2%減り、役員報酬は0.5%増、株式配当は11.3%増だったようだ。
 コロナ禍で経済状況が悪化しているといわれるが、実際に悪化しているのは国民の生活で、大企業や、役員報酬や株式配当で所得を得ている一部の富裕層はより富を増やしているのだ。この経済の構造を変えなければならない。
 加藤 それでいえば、岸田首相は就任後すぐに、日本経団連の十倉雅和会長らと懇談し、「『新しい日本型資本主義』は、経団連の『。新成長戦略』と軌を一にするものであり心強い」などと評価されている。経団連の「。新成長戦略」は、「持続可能な開発目標(SDGs)の達成年度とされる 2030年の経済社会の未来像を描(く)」としているが、その内実は、企業が金銭さえ支払えば労働者を自由に解雇できる制度の導入や、雇用の流動化と低賃金化に拍車をかける新たな労働時間法制の確立、医療費の適正化など、企業利益の最大化を狙った新自由主義的政策パッケージに過ぎない。
 岸田首相が自民党総裁選の際に看板政策の一つに掲げた金融所得課税の強化は金融界の反発にあい、すぐに撤回してしまった。このことからも、経済界の意図に沿った新自由主義的な経済政策を続けるという自公政権の姿勢は明らかだ。
 武村 野党共闘で選挙に臨む各野党は消費税の減税を訴えているが、岸田首相は代表質問の答弁で、消費税について「当面触れることは考えていない」としている。消費税の5%減税は、多くの所得が消費に回る一般の国民にとって、可処分所得を5%近く引き上げる政策で、大変よいと思う。実現は難しいと思われがちだが世界中の国でコロナ禍の経済対策として、付加価値税の減税が行われている。日本でも実現できる政策だ。
 水間 私は協会の国際部長として活動しているが、今回の総選挙で新たに浮かび上がってきた争点の一つに、日本にいる外国人の人権の問題がある。先の通常国会で自公政権は、入管法改正案を提出したが、その中身は、3回目の難民認定申請が却下されたら祖国への強制送還ができ、それを拒めば刑事罰の対象とするというものだ。しかし、送還しても基本的人権が脅かされる重大な危険性がないという合理的な判断がなされるまでは、強制送還はしてはならないというのが国際ルールだ。法案は廃案になったが、自公政権のこの人権感覚は、国際的にとても認められるものではないだろう。
 その点では、立憲民主党は「#政権取ってこれをやる」として、スリランカ人ウィシュマさん死亡事件の監視カメラや関係資料を公開して真相を解明するとしており、共産党も「外国人労働者の生活と権利の向上」や「難民認定のありかたの抜本的改善」「難民申請者の生活保障」などを掲げていて、期待が持てる。
原発推進の自公政権
 西山 環境や平和の政策についてはどうだろうか。
 森岡 新興感染症の流行や気候災害などの背景には気候変動の問題があるといわれている。菅前首相が2050年のカーボンニュートラルを宣言したこともあって、各党は気候変動対策を公約に盛り込んでいる。岸田政権も、菅前政権が掲げた目標を堅持するとしているが、前政権と同様に「再生可能エネルギーの『一本足打法』では電力の安定供給や価格の問題に十分対応できず、いろいろな選択肢を用意しなければならない。原子力も一つの選択肢として用意しておくべきだというのが私の考え方だ」と述べており、原子力発電を前提としている計画で、協会の要求とは相いれない。また、あっせん利得罪が問題になったものの、岸田自民党総裁の下で自民党幹事長に返り咲いた甘利明氏は、原発について「開発中の小型モジュール炉を実用化して建て替えるべき」などとして、原発の建て替えに意欲を燃やしている。東京電力福島第一原発事故で郷里に戻れない人がいまだに数多くいる状況の下で、ありえない発言だ。
 一方、野党4党が合意した「衆議院総選挙における野党共通政策の提言」で「再生可能エネルギーの拡充により、石炭火力から脱却し、原発のない脱炭素社会を追求する」のは、当然の公約だろう。
 西山 核兵器廃絶についてはどうだろうか。
 坂口 岸田首相は就任後の記者会見で自身を「被爆地広島出身の総理大臣」であり「外務大臣時代から、核兵器のない世界を目指し、ライフワークとして取り組んできた」と述べていた。この発言だけを聞けば、大変、期待が持てるが、実際はこれまでの政府の立場と全く変わらない。所信表明演説では、核兵器禁止条約に一言も触れることなく「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、唯一の戦争被爆国としての責務を果たします」とこれまでの政府の見解を繰り返しただけだった。
 加藤 そもそも、岸田氏は外務大臣だった頃に長崎で行われた「核軍縮・不拡散スピーチ」の中で、核兵器の使用について、個別的・集団的自衛権に基づく状況に限定することを核保有国が宣言すべきと主張していた。これは、現代においてほぼすべての戦争が個別的・集団的自衛権の行使という名目で始まったことを考えれば、「限定」どころか、幅広い事態で核使用を容認するものだ。
 米国による日本への核兵器の持ち込みについても、岸田氏は「その時の政権が判断すべきことで、今、将来にわたって縛ることはできない」と政府のこれまで通りの見解を外務大臣として表明し、事実上、時の政権の判断で核持ち込みを容認する姿勢を示していた。こうしたことからも、岸田政権が核廃絶を前進させることなど考えられない。
 武村 これに対して野党は「核兵器禁止条約の批准をめざし、まずは締約国会議へのオブザーバー参加に向け努力する」ことで合意し、共産党や社民党は批准を求めている。合意内容は不十分だが、それでも現政権よりはましだと思う。
政治の私物化やめ立憲主義回復を
 西山 岸田政権が政策的には、これまでの自公政権と変わらないという意見が多く出された。ただし、政策以外にも、政治姿勢について問題視する声もある。
 川西 岸田首相は、総裁選で一時、「森友」疑惑について再調査を示唆したが、すぐに撤回してしまった。党内で大きな影響力を持つ安倍晋三元首相への忖度だといわれているが、そうだとすれば自公政権が続く限り、この疑惑の真相解明はできないだろう。この問題は、国有地が安値で安倍元首相に近い人物に払い下げられ、それに絡んで公文書の隠蔽や改ざんが行われた疑惑であり、安倍政権の国政私物化を象徴している。
 野党は代表質問でも岸田首相に真相解明を求めたが、岸田首相は再調査などを拒み続け、その他でも、加計学園の獣医学部開設問題についても、「オープンなプロセスで検討が進められた」と正当化、「桜を見る会」前夜祭の費用補填問題でも再調査を拒否、甘利明自民党幹事長のあっせん利得についても「自身が判断すべき」と述べ、河井克行元法相夫妻への自民党本部からの巨額資金提供についても再調査には応じないとしている。
 これでは、安倍・菅政権の延長だと言わざるを得ない。政治の私物化は、安倍自公政権の特徴の一つだ。小選挙区制度の下で党の公認を盾に与党の国会議員を、内閣人事局を使って高級官僚を支配してきたことが背景にある。司法についても、政権の意向が及ぶ人物を幹部検事として重用するなどの手法で、憲法や法律さえ政権の都合によって解釈や運用を変えてきた。安倍・菅自公政権は、憲法99条の憲法擁護義務すら無視しており、とても近代的な民主国家と言えない。
 今回の総選挙では政策ももちろんだが、日本の立憲主義、民主主義を回復させ、充実させる選挙にする必要があると思う。
 武村 その点では、野党共闘は2015年の安全保障関連法を違憲とし、廃止法案を可決できる政府を作ろうという市民運動から生まれ、立憲主義、法治主義の回復を掲げている。共闘に参加したいわゆる立憲野党に期待したい。
野党共闘をどう見るか
 西山 その野党の選挙戦略や政策についてくわしく見ていきたい。
 森岡 今回の総選挙は、野党の本格的な選挙協力が成立する初めての総選挙となる。安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合が提案した共通政策を、立憲民主、共産、社民、れいわが合意したことは大変重要で、2019年の参議院選挙の際の共通政策よりもより具体的になっているところに注目したい。
 武村 野党共闘の前進という面では、衆院選後に立憲民主党中心の政権が樹立された場合、共産党が「限定的な閣外からの協力」をすると合意したことも大きい。野党が具体的な政権の枠組みを示すことは、総選挙をたたかう上で歓迎したい。実際に213の小選挙区で野党共闘が実現し、うち210の選挙区では与野党の一騎打ちとなる。これはかつてなかったことだ。
 川西 しかし、参議院選挙の際には野党共闘に参加していた国民民主党が抜けてしまったのは残念だ。立憲民主党の内部でも、共産党が「限定的な閣外からの協力」を行うことについて「連立に共産が参加しないことを明確化したもの」などとの声も上がっている。
 武村 背景には、国民民主党や立憲民主党を支持する連合の意向があるとされている。実際、連合の芳野友子新会長は立憲民主と共産党の合意について、「共産の閣外協力はあり得ない。立民の連合推薦候補にも共産が両党合意を盾に、共産の政策をねじ込もうという動きがある」と不快感を示している。連合は労働組合のナショナルセンターで「格差是正」や「ジェンダー平等」などを要求として掲げているが、なぜ野党共闘に後ろ向きなのか理解に苦しむ。組合員に大企業の正社員が多いため、彼らはそれぞれの企業の経営者の意向を受けやすく、とりわけ原発政策については、電力総連や電機連合は明確に原発再稼働を進める立場に立っている。共産党との歴史的確執を指摘する声もあるが、多くの労働者はそうしたいきさつなど今は知らないだろう。連合には本当に労働者を代表する組合として役割を発揮してほしい。
 加藤 立憲野党の政策では、「従来の医療費削減政策を転換し、医療・公衆衛生の整備を迅速に進める」「格差と貧困を是正する」「所得、法人、資産の税制、および社会保険料負担を見直し、消費税減税を行い、富裕層の負担を強化するなど公平な税制を実現し、また低所得層や中間層への再分配を強化する」などが、立憲野党が合意した政策だ。私たちの掲げる開業保険医の要求案とも通ずる内容となっている。
 西山 関西で一定の力を持っている維新の会についてはどうだろうか。
 武村 維新の会は、重要法案ではことごとく与党と同じ立場をとっており、私たちが反対した75歳以上の医療費窓口負担2割化にも賛成した。また、大阪では、公立病院や衛生研究所、保健所の統廃合を進めて、新型コロナウイルス感染症拡大時に医療崩壊を招いた。社会保障を切り捨てる新自由主義路線は、これまでの自民党政策と似通ったものだ。これではもはや野党ではなく、自民党の補完勢力であり、期待はできないのではないか。
 加藤 医師・歯科医師としての立場、責任からは、やはり医療・社会保障政策を重視して投票先を決めてほしい。「選挙に行っても政治は変わらない」と思っている方も多いかもしれないが、投票しなければ18歳以下の子どもと同じで、そうした人たちの意見など聞かなくてもよいと政治家が判断するのはある意味合理的だ。その結果、一部の選挙に行く人や、組織を擁し献金するような勢力の意向に沿った政治が進められてしまう。これは、政治が劣化する負のスパイラルだと思う。
 西山 政治に関心を持ち、少しでも知識を得て、家族やスタッフ、患者さんとも話をして、必ず投票に行ってほしい。

図1 大企業諸指標の推移
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図2 消費税・付加価値税を減税した国・地域(20年12月現在)
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