2021年12月05日(1992号) ピックアップニュース
政策解説
財務省「マイナス改定でも医療従事者の処遇改善は可能」に反論する(下)
来年度診療報酬改定の議論が本格化する中、財務省財政制度等審議会財政制度分科会では診療報酬マイナス改定へ誘導する議論が行われている。前号に引き続き、財務省の暴論に反論する政策解説を掲載する。
しかし、新型コロナウイルス感染症は2類相当の指定感染症のため保健所対応となり、「かかりつけ医」が自由に診療できる疾患ではない。さらに、政府が中等症の患者の入院を放棄したことからも明らかなように、第5波においては、本来入院させて呼吸管理を行わなければならない患者が多数発生しており、「かかりつけ医」制度があれば診療できたなどというのは、全くの事実無根である。多くの医療機関が治療薬もない中、自身の感染リスクを顧みず在宅・外来医療をできる限り提供したことこそ評価すべきである。
財務省の狙いは、医療費抑制のためにフリーアクセスを制限することにある。コロナ禍を利用して、「かかりつけ医」制度を導入し、受診抑制を促すことは許されない。
これらの医療費窓口負担の引き上げは、適切な医療機関受診を妨げかねない。分科会では、OTC薬の保険外しによって医療費を2300億円程度抑制できるという試算も示されているが、国民医療費を0.5%程度抑制するために、国民の命と健康を危険に晒す必要があるとは到底思われない。
イギリスの例を出すのであれば、財務省は、それを見習って、医療費抑制政策を転換し、医療・社会保障の充実のための財源として大企業や富裕層向けの増税を議論すべきである。
コロナで受診できないのは「かかりつけ医」がいないから!?
分科会は、「新型コロナ禍では、いわゆる「第5波」のもとで...入院先調整中の方々が発生した」「こうした方々の外来医療・在宅医療へのアクセスの機会は限られていたことが指摘されており、...我が国医療保険制度の金看板とされてきたフリーアクセスは、肝心な時に十分に機能しなかった」としている。しかし、新型コロナウイルス感染症は2類相当の指定感染症のため保健所対応となり、「かかりつけ医」が自由に診療できる疾患ではない。さらに、政府が中等症の患者の入院を放棄したことからも明らかなように、第5波においては、本来入院させて呼吸管理を行わなければならない患者が多数発生しており、「かかりつけ医」制度があれば診療できたなどというのは、全くの事実無根である。多くの医療機関が治療薬もない中、自身の感染リスクを顧みず在宅・外来医療をできる限り提供したことこそ評価すべきである。
財務省の狙いは、医療費抑制のためにフリーアクセスを制限することにある。コロナ禍を利用して、「かかりつけ医」制度を導入し、受診抑制を促すことは許されない。
さらなる患者負担も
また、分科会は「かかりつけ医」制度を確立するために「定額負担を『かかりつけ医』以外への受診にも拡大していくことにより、外来医療の機能分化を促していくことが重要である」と述べている。これは、「かかりつけ医」以外を患者が受診する場合に、追加負担を課すということである。さらに、「OTC薬で対象可能である症状に対する保険診療について、...セルフメディケーションを進める観点からも、保険給付範囲からの除外や縮小などの適正化を検討すべきである」としている。これは、薬局で購入できる医薬品は保険給付から外すということである。これらの医療費窓口負担の引き上げは、適切な医療機関受診を妨げかねない。分科会では、OTC薬の保険外しによって医療費を2300億円程度抑制できるという試算も示されているが、国民医療費を0.5%程度抑制するために、国民の命と健康を危険に晒す必要があるとは到底思われない。
医療費抑制ありき改め財源を確保し医療の充実を
分科会ではイギリスの例を挙げ、「医療・介護の充実の財源を医療・介護負担金の導入や配当所得課税の税率の引上げで賄う社会保障・税の一体改革が行われている」と、日本でも医療や介護の負担増が必要だととれる主張をしている。確かに日本の医療提供体制の脆弱性を克服するためには財源が必要である。しかし、イギリスでは医療・介護負担金の導入の目的を5万人の看護師の増員、NHSの財源投入、介護費用の自己負担額の上限値の設定等の医療・介護の充実としている。また、法人税や大企業の租税回避に対抗する迂回利益税の引き上げ、配当所得課税の引き上げなど大企業や富裕層向けの増税も行うとしている。イギリスの例を出すのであれば、財務省は、それを見習って、医療費抑制政策を転換し、医療・社会保障の充実のための財源として大企業や富裕層向けの増税を議論すべきである。