2022年2月05日(1996号) ピックアップニュース
5回連続全体マイナス改定
コロナ禍でも医療費抑制改めず
こんな改定率では、コロナ禍を乗り越えられない!! 厚生労働省は昨年12月22日、2022年度の診療報酬改定について、全体でマイナス0.94%とすることを決定した。社会保障費抑制路線の下、5回連続のマイナス改定であり、協会は改定内容についての抗議声明を理事会で採択(前号既報)。今後の国会行動で、社会保障拡充へ舵を切るよう、引き続き求めていく。
今回の改定は2年間にわたるコロナ禍による受診抑制や感染対策費用増加等により、医療機関経営が悪化する中で行われた。改定にあたり協会は、大幅プラス改定を求める院長署名1114筆を集め、12月16日に国会に提出するなど、政府・国会議員への要請を進めてきたが、全体改定率・本体改定率ともにコロナ禍以前の2020年度よりも低く抑えられた。
さらに本体改定率の内訳では、不妊治療の保険収載(プラス0.20%)とコロナ入院患者の受け入れを行っている病院の看護職員の待遇改善(プラス0.20%)とでプラス0.40%となっているが、これは新型コロナ感染症の診断・治療に尽力してきた一般の診療所にとって、経営改善には全くつながらないものだ。
さらに長らく政府が目論んでいた「リフィル処方箋」の導入も打ち出されている。これは一定の期間・回数内であれば、患者は医師の診察を受けずとも同じ処方箋で繰り返し薬を受け取れるもので、患者の来院回数を減少させることが狙い。小児の感染防止対策に係る特例(医科)の廃止も盛り込まれており、一般の診療所やクリニックにとって、本体プラス改定はまやかしと言える。
今回の診療報酬マイナス改定は、岸田首相の言う「新しい資本主義」が、社会保障費抑制路線という、これまでの安倍・菅自公政権の踏襲にすぎないことが明らかとなった。
厚労省へパブコメ提出
改定率を踏まえて、後藤茂之厚生労働大臣は1月14日に中央社会保険医療協議会(中医協)へ改定内容を諮問。同日、「令和4年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理」(以下、「議論の整理」)が発表された。厚労省は1月14日から21日にかけて、「議論の整理」についてパブリックコメントを実施。協会はリフィル処方箋導入反対等の意見を提出した(表)。意見集約を踏まえ、中医協は2月上旬に改定内容を後藤茂之厚労大臣へ答申する予定。
図 自民党政権下で5回連続マイナス改定
表 厚労省「議論の整理」に対して提出した協会の意見(抜粋)
診療報酬改定・中医協「議論の整理」のポイント
基本診療料の引き上げこそ必要
2022年度診療報酬改定に関する厚生労働大臣からの諮問を受け、中央社会保険医療協議会(中医協)は1月14日、改定内容の「これまでの議論の整理」を発表した。医科・歯科それぞれについて内容の一部を抜粋し、協会のコメントを掲載する。
受診減らすリフィル処方撤回すべき
○新型コロナ感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築(新型コロナ感染症患者の外来、入院、在宅等における特例的な評価の継続など)
⇒コロナ禍で明らかになった医療提供体制の脆弱さを改善し、新型コロナも含めた今後の感染拡大にも余力を持って対応できるよう、初・再診料や入院料等、基本診療料そのものを引き上げるべき。
○かかりつけ医機能を担う医療機関の体制について、初診料「機能強化加算」の要件見直し
⇒「かかりつけ医機能」という厚労省の尺度で医療機関を選別して加算等で評価するのではなく、すべての診療所や病院が地域医療で担っている役割を正当に評価し、初・再診料そのものを引き上げるべき。
○オンライン初診の評価の新設。新型コロナ感染症に係る特例的な措置における実態も踏まえ、情報通信機器を用いた場合の再診や医学管理等、在宅医療についての要件及び評価の見直し
⇒初診からのオンライン診療恒久化は対面診察の原則を崩すものであり、体調変化や疾患の見落としにもつながる。
○一定期間内に処方箋を反復利用できるリフィル処方箋の仕組みの新設
⇒医師の診察を省略して処方箋を反復利用することは、医師が症状の変化に適した処方ができなくなることにつながる。
○後発医薬品の使用割合が高い医療機関に重点を置いた評価とするため、後発医薬品使用体制加算等についての要件見直し
⇒後発医薬品をはじめ医薬品の供給が不安定化しているなか、後発医薬品の使用促進策の見直し・転換を行うことこそが必要。
○紹介状なしで受診した患者等から定額負担を徴収する責務がある病院の対象範囲の見直し。当該医療機関における定額負担の対象患者について、その診療に係る保険給付範囲及び定額負担の額等の見直し
⇒紹介状なし初診の定額負担の拡大は、患者のフリーアクセスをいっそう阻害することにつながる。「保険給付範囲及び定額負担の額等の見直し」は、事実上の初・再診料の保険外しである。
○一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の判定の評価項目と入院料の評価の見直し
⇒入院料の評価は「重症度、医療・看護必要度」基準の一層の厳格化ではなく、看護配置による評価を重視すべき。
○標準的算定日数を超えてリハビリを行う場合における疾患別リハビリテーション料の要件見直し
⇒疾患別リハビリの算定日数上限そのものを撤廃し、医療上必要なリハビリは介護保険ではなく医療保険で継続して行えるようにすべき。
○オンライン資格確認システムの活用に関する評価の新設
⇒マイナンバーカードを被保険者証として利用する「オンライン資格確認システム」を推進することは、患者の個人情報漏洩のリスクや受付業務の煩雑化など、大きな問題がある。
施設基準の行き過ぎた厳格化はやめるべき
◆かかりつけ歯科医の機能の評価見直し
「地域の関係者との連携体制を確保しつつ、口腔疾患の重症化予防や口腔機能の維持・向上を推進する観点から、かかりつけ歯科医の機能の評価について、地域における連携体制に係る要件及び継続的な口腔管理・指導に係る要件を見直す」
⇒全国どの医療機関でも、う蝕や歯周病の重症化予防に取り組んでいる。同じ処置行為に対しての点数の差別化は、患者が混乱するだけである。「か強診」の施設基準要件を地域における多職種連携への評価に絞るなど再編すべきだ。
◆質の高い在宅歯科医療の提供を推進する観点からの見直し
「〈1〉歯科訪問診療の実態を踏まえ、20分未満の歯科訪問診療の評価を見直す。〈2〉在宅歯科医療における在宅患者訪問口腔リハビリテーション及び小児在宅患者訪問口腔リハビリテーションの対象患者及び評価を見直す。〈3〉在宅療養支援歯科診療所について、歯科訪問診療や医療機関の実態を踏まえ、評価の在り方を見直す」
⇒歯科訪問診療の拡充につながる見直しをすべきだ。〈1〉歯科訪問診療料の時間要件を廃止し、不適切な事例は別途指導すべき。〈2〉歯科訪問診療料を算定するための施設基準届出は不要。〈3〉「同一建物」「単一建物」の考え方を見直し、建物や人数で評価を分けず、全ての患者で同一の評価を行うべき。〈4〉病診連携で、周術期以外でも必要な歯科訪問診療を認めること。
◆患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現。口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進
(1)「歯科外来診療における院内感染防止対策を推進し、新興感染症にも適切に対応できる体制を確保する観点から、歯科初診料における歯科医師及び職員を対象とした研修等に係る要件を見直すとともに、基本診療料の評価を見直す」
⇒基本診療料の大幅引き上げを求める。「歯初診」は実態として100%の届出がされており撤廃すべきだ。医療法で医療安全管理や院内感染対策研修は義務化されており届出は不要。口腔内に直接触れ、観血的な処置もある歯科こそ、感染対策についてしっかりと評価すべきだ。コロナ陽性患者に対する評価だけでなくすべての医療機関に対しての感染症対策の評価を求める。
(2)「歯科口腔疾患の重症化予防の観点から、以下の見直しを行う。〈1〉全身の健康にもつながる歯周病の安定期治療及び重症化予防治療について、診療実態を踏まえて評価の在り方を見直す。〈2〉フッ化物洗口指導及びフッ化物歯面塗布処置について、現在の罹患状況等を踏まえ、対象患者を見直す」
⇒〈1〉P重防、SPTへの移行期間3カ月という規定を見直し、患者の状態によって移行できるように改めること。EPPの指標だけではなく、骨吸収やアタッチメントロスを考慮したルールに見直すべき。一物二価のSPT(Ⅰ)と(Ⅱ)についても評価の在り方を根本的に見直すべき。〈2〉フッ化物洗口指導及びフッ化物歯面塗布処置については、障がい児・者、エナメル質形成不全患者、8番などブラッシングがしにくい部位、二次う蝕の発生しやすい部位、在宅療養患者、有病者、周術期など、より広い年齢層や状態の患者に応用できるよう、対象患者を広げるべき。
(4)「歯科固有の技術について、以下の見直しを行う。〈1〉歯冠形成のメタルコア加算について、診療の実態を踏まえ、廃止する。〈2〉歯周基本治療処置について、診療の実態も踏まえて廃止するとともに、基本診療料の評価の見直し等を行う。〈3〉歯科用貴金属の基準材料価格について、素材価格の変動状況を踏まえ、随時改定の方法等を見直す。〈4〉歯科技工料調査の結果等を踏まえ、歯冠修復及び欠損補綴等の評価を見直す」
⇒「補管」の廃止と、歯科固有の技術料の大幅な引き上げは不可欠である。スタディモデルや義歯の補強線などは再評価すること。同一初診1回限りの算定制限の改善、処置・手術にかかる浸麻の算定制限、特に処置等に使用した麻酔薬剤料はすべて算定できるよう改善すべきだ。赤字であるファイバーコアの間接法の評価を引き上げること。メタルコアが必要な場合もあり、廃止は反対。
「P基処」は月1回の制限こそ不合理である。歯周ポケット洗浄は必要があれば随時算定可能にすべきで、廃止に反対。廃止した財源のみでの歯科初・再診料の評価見直しでなく、総枠拡大をすべき。
金パラ逆ザヤ問題は、素材価格でなく市場価格の変動に対応すべき。随時改定がさらに頻回に実施されても現場での事務負担は問題ない。逆ザヤ状態が続いていること自体が異常であることを中医協は再認識すべき。そもそも補綴物の技術料、技工料は著しく低い。国家資格である歯科技工士の劣悪な労働条件を改善し、感染防止対策の補助金は歯科技工所も対象に加えよ。