兵庫県保険医協会

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兵庫保険医新聞

2022年2月15日(1997号) ピックアップニュース

燭心

 埼玉県の医師が、在宅訪問診療で担当していた患者の息子に猟銃で射殺されるという痛ましい事件が起こった。事件のあらましはこうだ。訪問診療を受けていた92歳の女性が死亡したが、1人で介護を行っていた66歳の息子はその死に納得せず、かかりつけ医の44歳の医師および理学療法士ら関係者7人を自宅に呼びつけ、「まだ蘇生するかもしれないので心臓マッサージをしろ」と強要した。医師が拒否すると、いきなり持っていた猟銃(散弾銃)を発砲して射殺し、他2人が負傷した。そのまま自宅に籠城するも11時間後に逮捕された。調べに対して、母親が死に、生きていく価値がないと感じ、医師を道連れにして自分も死のうと思ったと供述したという▼巷間では、訪問診療時には防弾チョッキが必要な時代になったなどと取りざたされている。自身も訪問診療を行う身であり、他人事と看過することはできない事件である▼しかし、ことの本質は在宅訪問診療の安全性を問うことではない。一つには老々介護や「80・50」という社会問題である。年金受給者である親の死が、自らの暮らしにとっても死活問題となる人たちが存在するという現実がある▼この度の犯行は断じて許されるものではないが、社会保障を切り捨て、安心して老後を過ごすことができる社会の構築を怠り、生活保護も受給者への差別や不正受給を盾に、制度そのものの縮小を企図する政府の在り方も問われるべきではないか。医療者も真摯に考える契機としたい。(九)
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