2022年5月15日(2005号) ピックアップニュース
燭心
歯科には舌痛症という不思議な名前の疾患がある。症状がそのまま病名になっており、頭痛や胃痛が、頭痛症、胃痛症になったようなものだが、舌痛症の症状は単純ではなく実に多様だ。舌痛以外にも、味覚異常や口唇、歯肉、咽頭などの違和感を訴えることから、耳鼻科を受診すると咽喉頭異常感症と診断されることもある。この病名は、咽喉頭部の異常な感覚を訴える疾患ということがよく分かる。舌痛症も〝口腔粘膜異常感症〟に変更すれば、患者が理解しやすくなるだろう▼アスピリン喘息はもっと深刻だ。COX−1阻害作用を持つ鎮痛薬の服用により重篤な喘息発作が誘発される疾患であり、適切な治療がなければ命に関わる。多くの解熱鎮痛薬が該当するにもかかわらず、アスピリンだけに誘発される過敏症と誤解されることが多く、正確な病名に改変する動きがある。人の命を守るために必要な努力である▼逆に、正確な名前からあやふやな名称に変更しようというのが「敵基地攻撃能力」だ。自民党は受動的な意味合いを持つ「反撃能力」への改変を政府に提言した。こちらはわざと誤った印象を植え付けることを目論んでいるようだ。提言には、攻撃対象を基地に限定せず指揮統制機能を含めることも盛り込まれた▼防衛費も倍額のGDP2%超を目指すという。ロシアのウクライナ侵略に乗じた火事場泥棒的な軍拡は、近隣国との軋轢をさらに増大させるもので、断じて許せない。曖昧な診断や治療は病状を悪化させるだけだ。(九)