2022年8月05日(2013号) ピックアップニュース
新聞部特別インタビュー 公立豊岡病院・病院長 三輪 聡一先生
〝最後の砦〟としての役割果たしたい
【みわ そういち】1951年生まれ。1976年京都大学医学部卒業、1982年同大学医学博士号取得。1976年同大学医学部脳神経外科学教室、同大学医学部附属病院医員(脳神経外科研修医)、1977年県立塚口病院医員(脳神経外科)。京都大学医学部助手・講師・助教授(薬理学第1講座)を経て、2000年北海道大学大学院医学研究科教授(情報薬理学講座細胞薬理学分野)。2015年4月北海道大学名誉教授・同大学院医学研究科特任教授。2016年10月公立豊岡病院病院長代理、2017年1月1日より現職
地域医療の最後の砦としてのプライド
三輪 こちらこそ、よろしくお願いします。まず、但馬地域がどのような地域かといいますと、人口は15万人強と少ないですが、面積は県全体の4分の1、東京都とほぼ同じ広さです。私の出身は京都大学ですが、京都から豊岡までと同じ距離(150㎞)に要する時間を各地域と比較しますと、京都から名古屋までは約30分、福井までは1時間30分ですが、豊岡までは2時間30分かかります。同じ関西地方ですが、大変交通の不便なところです。
当院は、日本で2番目に古い公立病院で、1871年に開設されましたから、昨年ちょうど150周年を迎えました。このような過疎地域で地域の住民の命と健康を150年も守ってきたことはすばらしいことだと思います。
私は5年前に病院長に着任しましたが、その時に病院の基本理念を新しくしました。それが、「公立豊岡病院は但馬地域の基幹病院として、高度かつ最適な医療を安定的に提供し、地域住民の健康と生命を守り続けます」というものです。これが当院の地域で果たす役割だと思っています。
宮武 基幹病院として地域を支えられているということですね。
三輪 当院は但馬地域唯一の急性期総合病院で、救急は24時間365日受け入れています。職員全員が、地域の最後の砦だというプライドを持っています。但馬救命救急センターと但馬こうのとり周産期医療センターが看板施設です。救命救急センターの特徴はドクターヘリの出動回数が年間2000回と日本一だということです。年間約1万2000人を受け入れ、救急車の受け入れも5000回に上ります。
もう一つの但馬こうのとり周産期医療センターは2012年に開設されました。但馬地域で唯一、ハイリスク分娩を含めたお産に対応しています。都会に出ている人の里帰り出産にも対応していまして、コロナ禍前には年間約900件の分娩を扱っていました。
高齢化する地域の開業医師
宮武 まさに地域医療の最後の砦と言えますね。協会はもともと開業医の先生がつくった団体なのですが、こうした地域での病診連携についてはどのように機能しているのでしょうか。三輪 開業医の先生方には地域医療の担い手として大いに貢献いただいています。しかし、病診連携という点では、どうしても患者さんにとっては不便に感じる面もあると思います。というのも、但馬地域では開業医の先生の数がそもそも少なく、診療科によっては標榜している開業医の先生がいないという状況があります。
宮武 現在の低診療報酬では一定の患者さんが見込める地域でなければ、一般の医師が開業するのは難しいですからね。
三輪 もう一点、開業医の先生の高齢化も課題です。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大でも、感染した際に重症化リスクが高い開業医の先生や、きちんとした感染対策をとることが困難な老朽化した診療所が多く、結果として軽症であっても、当院で多くの新型コロナ患者さんを受け入れました。都会のように比較的若い開業医も多く、新しい診療所も多いというところでは、病院と診療所の役割分担がもっとできていたのではないかと思います。
宮武 確かに神戸市内や阪神間ではそうですね。しかし、あまりにも公立豊岡病院にコロナ患者さんが集中してしまうと、他の通常医療にも影響が出るのではないでしょうか。
三輪 その通りです。但馬地域には、一般病床を持つ病院は八つありますが、すべて公立病院です。そして、高度急性期に対応できるのは当院だけで、他の病院は主に回復期や慢性期の患者さんを受け入れています。ですから、病院間の役割分担は非常に明確で、効率的な医療提供体制がつくられていると言えますが、裏を返せば、代替性に乏しく有事の際には対応が困難になります。端的な例として、ICUがコロナの重症患者さんで埋まってしまったら、急性期の通常医療を必要とする患者さんの受け入れ先がなくなってしまいます。そういう意味では、この地域の高度急性期医療は非常に脆弱と言えます。
医師不足の解決を
宮武 ギリギリのところで維持されている状態ということですね。医療提供体制を充実させるためには医師の確保も大切になりますよね。先ほども先生から紹介いただきましたが、公立豊岡病院の救急は全国的に有名で、とりわけドクターヘリは若い医師に人気があると聞きました。そのあたりはいかがでしょうか。三輪 確かにドクターヘリを運用する救急は全国的な知名度も高く、多くの医師が集まってきます。しかし、他科も含めた全体で見れば、医師の確保は頭の痛い問題です。たとえば、県立尼崎総合医療センターは750床と当院の1・5倍の病床数ですが、医師数は当院の140人に比べ400人と約3倍です。
宮武 現場で働く医師たちは大変ですね。そんな中、来年からは「医師の働き方改革」が行われて、医師の労働規制が厳しくなります。
三輪 もちろん医師の働き方を改善することは必要です。しかし、抜本的に医師が不足している現状で働き方改革のルールを一律に適用すれば、当院などでは、これまでのような医療提供を行うことは難しくなると考えています。たとえば救急の受け入れを半分、もしくは3分の1に減らすというような対応をとらざるを得なくなります。この問題ではぜひ、保険医協会の先生方の力を貸していただきたいと思います。
宮武 そうですね。協会では、日本の医師数がOECD平均と比べても少ないことを示し、医師数を増やすよう働きかけを行っています。また協会は、受験セミナーの但馬地域での開催など子弟を養育できる環境づくりや、先生方の生活を支えるための各種の共済制度や事業を行っていますので、ぜひご利用いただければと思います。また、病院の経営対策という点では診療報酬や施設基準に関するご質問を受け付けています。
三輪 診療報酬改定の際にはいつもお世話になっていますし、適時調査の際には実際にスタッフの方にお越しいただいてさまざまなチェックや想定問答までしていただきました。その節は大変お世話になりました。
宮武 はい。今後も協会の事業を幅広くご利用ください。また、協会但馬支部の企画開催にもぜひご協力ください。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
ドクターヘリの運航範囲(公立豊岡病院組合HPより)