2022年9月25日(2017号) ピックアップニュース
2021年国保保険証交付等に関する県内市町調査
保険証未交付約1万3千世帯 国庫負担引き上げで制度改善を
協会は、兵庫県内の全市町を対象に「国保保険証交付等に関するアンケート」を実施し、1万を超える県民が手元に保険証がない「無保険」状態におかれていることなどを明らかにした。本調査は県内の国保の保険料滞納や無保険の現状を明らかにするため1988年から行っており、30年連続で県下の全自治体から回答を得ている。
少なくない兵庫県民が手元に保険証がなく、必要な治療を受け難い「無保険」状態となっている現状は、「国民皆保険制度」とは言い難く、早急な改善が必要である。
特に、尼崎市で7.0%、西宮市で4.7%、芦屋市で4.1%、姫路市で3.6%と、依然として都市部を中心に未交付率が高い(図1)。
一方、未交付率の増減を見ると、昨年度調査の3.6%から大きく減少している(図2)。この要因としては、神戸市の未交付数が昨年の1万2469世帯から、435世帯に減少したことが大きい。
この理由について神戸市に確認したところ、国保料滞納世帯に交付される、有効期間が短い短期保険証の発行方法を変更したことが原因と回答があった。今までは保険料の滞納があった世帯は窓口での相談を経て短期保険証を渡しており、窓口で保険証が留め置かれている世帯が多かったが、昨年より資格証明書発行世帯以外の滞納者には年2回6カ月期限の短期証を送付するようになり、未交付が減っているという。
保険証が多くの市民に交付されることになった点は評価できるものの、滞納世帯に対し、市が督促状を送付した後には、市の委託を受けた民間事業者が電話や文書により催促を行うこととなっており、個別事情を把握しないまま、機械的な督促や差し押さえが増加する懸念がある。
短期被保険者証の交付数は3万3478世帯、4.7%と昨年度から大きく増加した(図3)。これも前述の理由により、神戸市の発行数が昨年度6277件から1万7379件と1万件以上増加している影響が大きい。
医療機関窓口で全額をいったん負担しなければならない資格証明書については、2020年度発行世帯数は7911世帯、1.1%となり(図3)、コロナ感染拡大下で、生活が困窮するなかでも発行率は大きく変わっていなかったことが明らかになった。資格証明書は、必要な医療機関受診の抑制を招き、患者の健康悪化につながる可能性が極めて高い。宝塚市・丹波市・養父市・市川町・福崎町の5市町は資格証明書を発行しておらず、当会は他市町にも資格証明書を発行しないよう求めている。
国保法44条に基づき、災害・事業の休廃止・失業・生活困窮の場合に、医療費窓口負担が免除、減額、猶予される制度が国保には定められている。制度に対応する条例もしくは規則・要綱を全市町が設けているが、住民に周知されておらず、2020年度の利用者はわずか5自治体22世帯にとどまっている。
自治体による独自の保険料減額制度は、西宮市や神戸市、尼崎市などで2~3割が利用している一方で、他の市町は独自減免制度がないか利用者がわずかである。高すぎる国保料是正のため、自治体独自の減免制度の拡充も必要である。
保険料滞納世帯数は、12万1321世帯で、国保加入世帯の16.8%と、6世帯に1世帯が滞納しており、また、滞納期間が1年6カ月を超えた際、差し押さえが行われる場合があるが、差し押さえ件数は約6千件にのぼる。
7割近くの加入者が減免制度を利用し、それでも保険料が高すぎて滞納が多い現状は、国保の制度設計自体の見直しが必要と考えられる。
保険料のうち、世帯人数によって課せられる均等割について、国の制度として、今年4月から未就学児の均等割を5割軽減する制度が導入された。それ以前から、市町独自の制度として、加西市と赤穂市の2市町が軽減措置を行っており、国の制度導入にあわせ、市町独自の軽減措置を実施するか聞いたが、残念ながら既存の2市以外は予定がないとの回答だった。
診療報酬明細書(レセプト)点検について、民間業者委託を行っているのは41市町のうち28市町と昨年と同数となった。うち16市町が「点検効果額目標」を「定めている」と回答している。なお、「定めていない」と回答した神戸市に問い合わせたところ、担当者より「効果額目標は設定しておらず、件数目標になっている」と回答があった。多くの市町が、数字ありきで民間業者にレセプト請求金額の削減を行わせているということであり、大きな問題である。
各市町は独自で法定外繰り入れを行い、保険料を引き下げてきたが、国保の都道府県化と一体で開始した保険者努力支援制度により、保険料収納率の向上や法定外繰り入れの削減が評価され、都道府県に交付金が傾斜配分されるようになり、繰り入れ総額は、年々減少し続けている。
2014年度に約102億円だったのが、2020年度には約36億円と3分の1になり(図5)、神戸市など9市町では法定外繰り入れ金額がゼロとなっている。
国保は市民の助け合い制度ではなく、憲法25条の生存権によって定められた社会保障制度の大切な柱の一つである。「社会保障」である国保の改善には、構造的問題の解決とともに、保険料引き下げのため、抜本的な国庫負担増が必要であり、同時に市町には法定外繰り入れの増額も求められる。また、保険料を負担しないという理由で、給付に制限をもうける制度は、低所得者を中心に、その受診の機会を奪いかねず、社会保障としては本末転倒であり、廃止すべきである。
未交付率 尼崎7%西宮4.7%
保険証未交付数(保険証の交付対象世帯総数から保険証交付済み数を除いた数)は県全体で1万2772世帯、未交付率は被保険者世帯比で1.8%となった。少なくない兵庫県民が手元に保険証がなく、必要な治療を受け難い「無保険」状態となっている現状は、「国民皆保険制度」とは言い難く、早急な改善が必要である。
特に、尼崎市で7.0%、西宮市で4.7%、芦屋市で4.1%、姫路市で3.6%と、依然として都市部を中心に未交付率が高い(図1)。
一方、未交付率の増減を見ると、昨年度調査の3.6%から大きく減少している(図2)。この要因としては、神戸市の未交付数が昨年の1万2469世帯から、435世帯に減少したことが大きい。
この理由について神戸市に確認したところ、国保料滞納世帯に交付される、有効期間が短い短期保険証の発行方法を変更したことが原因と回答があった。今までは保険料の滞納があった世帯は窓口での相談を経て短期保険証を渡しており、窓口で保険証が留め置かれている世帯が多かったが、昨年より資格証明書発行世帯以外の滞納者には年2回6カ月期限の短期証を送付するようになり、未交付が減っているという。
保険証が多くの市民に交付されることになった点は評価できるものの、滞納世帯に対し、市が督促状を送付した後には、市の委託を受けた民間事業者が電話や文書により催促を行うこととなっており、個別事情を把握しないまま、機械的な督促や差し押さえが増加する懸念がある。
短期被保険者証の交付数は3万3478世帯、4.7%と昨年度から大きく増加した(図3)。これも前述の理由により、神戸市の発行数が昨年度6277件から1万7379件と1万件以上増加している影響が大きい。
医療機関窓口で全額をいったん負担しなければならない資格証明書については、2020年度発行世帯数は7911世帯、1.1%となり(図3)、コロナ感染拡大下で、生活が困窮するなかでも発行率は大きく変わっていなかったことが明らかになった。資格証明書は、必要な医療機関受診の抑制を招き、患者の健康悪化につながる可能性が極めて高い。宝塚市・丹波市・養父市・市川町・福崎町の5市町は資格証明書を発行しておらず、当会は他市町にも資格証明書を発行しないよう求めている。
国保法44条に基づき、災害・事業の休廃止・失業・生活困窮の場合に、医療費窓口負担が免除、減額、猶予される制度が国保には定められている。制度に対応する条例もしくは規則・要綱を全市町が設けているが、住民に周知されておらず、2020年度の利用者はわずか5自治体22世帯にとどまっている。
保険料滞納6世帯に1世帯
国による保険料軽減・免除制度を利用している世帯は、47万7763世帯と対象世帯の66.3%にのぼる(図4)。自治体による独自の保険料減額制度は、西宮市や神戸市、尼崎市などで2~3割が利用している一方で、他の市町は独自減免制度がないか利用者がわずかである。高すぎる国保料是正のため、自治体独自の減免制度の拡充も必要である。
保険料滞納世帯数は、12万1321世帯で、国保加入世帯の16.8%と、6世帯に1世帯が滞納しており、また、滞納期間が1年6カ月を超えた際、差し押さえが行われる場合があるが、差し押さえ件数は約6千件にのぼる。
7割近くの加入者が減免制度を利用し、それでも保険料が高すぎて滞納が多い現状は、国保の制度設計自体の見直しが必要と考えられる。
保険料のうち、世帯人数によって課せられる均等割について、国の制度として、今年4月から未就学児の均等割を5割軽減する制度が導入された。それ以前から、市町独自の制度として、加西市と赤穂市の2市町が軽減措置を行っており、国の制度導入にあわせ、市町独自の軽減措置を実施するか聞いたが、残念ながら既存の2市以外は予定がないとの回答だった。
診療報酬明細書(レセプト)点検について、民間業者委託を行っているのは41市町のうち28市町と昨年と同数となった。うち16市町が「点検効果額目標」を「定めている」と回答している。なお、「定めていない」と回答した神戸市に問い合わせたところ、担当者より「効果額目標は設定しておらず、件数目標になっている」と回答があった。多くの市町が、数字ありきで民間業者にレセプト請求金額の削減を行わせているということであり、大きな問題である。
国庫負担の抜本的増額、各自治体の法定外繰り入れの拡充を
市町村国保には、「年齢構成が高く、医療費水準が高い」「無職・低所得者が多く、所得水準が低い」構造のため、「保険料負担が重い」「収納率が低い」などの問題が存在する。各市町は独自で法定外繰り入れを行い、保険料を引き下げてきたが、国保の都道府県化と一体で開始した保険者努力支援制度により、保険料収納率の向上や法定外繰り入れの削減が評価され、都道府県に交付金が傾斜配分されるようになり、繰り入れ総額は、年々減少し続けている。
2014年度に約102億円だったのが、2020年度には約36億円と3分の1になり(図5)、神戸市など9市町では法定外繰り入れ金額がゼロとなっている。
国保は市民の助け合い制度ではなく、憲法25条の生存権によって定められた社会保障制度の大切な柱の一つである。「社会保障」である国保の改善には、構造的問題の解決とともに、保険料引き下げのため、抜本的な国庫負担増が必要であり、同時に市町には法定外繰り入れの増額も求められる。また、保険料を負担しないという理由で、給付に制限をもうける制度は、低所得者を中心に、その受診の機会を奪いかねず、社会保障としては本末転倒であり、廃止すべきである。
■調査の概要
調 査 名:国保保険証交付等についてのアンケート
調査時期:2022年2~5月に兵庫県内全市町に郵送で調査票を送付し、全市町から回答を得た
調 査 名:国保保険証交付等についてのアンケート
調査時期:2022年2~5月に兵庫県内全市町に郵送で調査票を送付し、全市町から回答を得た