2023年1月25日(2027号) ピックアップニュース
燭心
本日1月16日、締め切りに追われてこの原稿を書いている。明日は阪神・淡路大震災の起こった日、あの日自分は何をしていたのだろう、いつも思い出す。28年前の今日はたしか成人の日の振替休日で連休だった。私はまだ小さかった子どもたちを連れ、大阪の実家に帰っていた。深夜、阪神高速道路を車で帰宅した。まさか数時間後にこの道路が崩落し、たくさんの犠牲者が出るなど夢にも思わずに▼翌朝、突き上げるような衝撃で目が覚めた。一瞬ダンプカーでも飛び込んできたかと思った。書棚から一斉に本が落ちてきた。食器が割れる激しい音、街灯が消え、真っ暗闇になった。身動きが取れず、寒かった。日の出が待ちどおしかった▼金魚鉢が倒れて床が水浸しになっていた。金魚はまだ生きていたが、数時間後に死んだ。近隣に全壊の家はなかったが、南の方角から火災の黒煙が上がってきた。風に乗って町の焼ける匂いと煤塵が漂ってきた。数日して電気が復旧しテレビが点いた。毎日のように犠牲者の名前がテロップで流れる。知人や患者さんの名前を見つけるたびに胸が痛んだ。矢も楯もたまらず歩いて長田の町を見に行った。見慣れた町は壊滅していた▼あれから長い復興の日々が始まった。いつもこの時期になると震災の映像が流れる。しかし映像では絶対分からないものがある。それは匂いだ。火と煤の匂い、人々の悲しみの匂い。政治は震災など忘れたように、突き進んでいる。私たちが伝えなくてはならない匂いがある。(星)