2023年2月05日(2028号) ピックアップニュース
燭心
神社の祭祀を守る家のことを神戸(かんべ)と言い、かつて生田神社や長田神社はこの神戸たちによって護持されていた。これが神戸(こうべ)の地名の語源になった。神戸は神社と縁の深い街なのだ。そのせいか、阪神・淡路大震災では「神は驕れる人間に鉄槌を下された」という比喩がよく使われた▼先日、新海誠監督の映画「すずめの戸締まり」を観た。主人公がたどる九州、神戸、東北はまさに大災害を経験した土地であり、東日本大震災を想起させる場面も随所にちりばめられている。監督の狙いは、東日本大震災が風化してしまう前に災害の理不尽さを若い世代に伝えることだという▼しかし、若い世代にとってこの映画はハラハラドキドキの恋愛映画であり、勇者が邪悪な災害と戦う活劇にしか映らないだろう。地震を起こすという巨大なミミズは、死後の世界である常世(とこよ)を経験したものだけに見えるという設定や、現世(うつしよ)、産土(うぶすな)、人柱を思わせる要石、かしこみと唱える祝詞など日本神話や神道を常に意識させる流れになっている。人の心の重さがその土地を鎮めているという閉じ師の言葉はとても賛同できるものではない▼地震は人間がコントロールできるものではな
い。自然現象を神格化するのではなく、災害による被害をさらに増大させる原発事故や関連死のような人災ともいうべき出来事、生活再建の道を閉ざされた人たちの苦悩などの理不尽な真実こそ後世に伝えねばならぬものだ。(九)