2023年3月05日(2031号) ピックアップニュース
燭心
新型コロナウイルスが世界に蔓延して3年あまり、ロシアのウクライナ侵攻が本格化して約1年が経過した▼「現在の事象」に対面したとき、「過去の出来事の結果」とみなす立場を「うつ病的」、「未来の予兆」を感じ取る立場を「統合失調的」と故・中井久夫氏は評した▼「うつ病的」立場から「軍事侵攻後の世界」を分析すると、感染症の蔓延により人々は「国家による支配や分断」の影響を受け、ナチズム的「友敵理論」(カール・シュミット)の復権を許した▼政治が人を「友(私たち)」と「敵(私たち以外)」に分断し、両者を対立させることで、人々は国家共同体へ組み込まれ、戦争が始まれば、政治が公的に「敵」とみなした相手と、私的な感情とは関係なく、武器を持って戦わざるを得ない。当事者以外の人々も、政治の決めた「敵」を叩くため、「友」への支援を惜しまない▼かくして、「ウクライナ情勢の長期にわたる緊迫化」は「歴史的な必然」という絶望的な結論に至る▼一方、「統合失調的」立場は、未来の不確実性を重視する。「敵」や「友」という恣意的な関係性の外側に、大多数の「ふつうの人々」からなるプラットホームが存在し、対面や観光を通じた交流から偶発的な「友愛」が生まれ、「友敵理論」を「友愛」により無効化できる可能性がある。ウイルスが変異するように、関係性も変化すると考える▼マスコミ報道やSNSを通じての発信が「うつ病的」立場に偏りがちであることを憂慮する。(眞)